ここでは、記憶の種類やプロセスをまとめます。また加齢と記憶の関係についても説明します。
人の記憶の種類には、大きく「短期記憶」と「長期記憶」に分かれます。これは、アトキンソンとシフリン(Atkinson and Shiffrin)が提唱した「記憶の二重貯蔵モデル」によって区分された考え方です。
その他、「感覚記憶」や短期記憶を包括した「作動記憶」などがあります。
それぞれの内容について見ていきます。
感覚記憶 |
---|
「感覚記憶」とは、感覚刺激を感覚情報のまま保持したものです。聴覚の場合は、数秒間保持がなされます。 | 短期記憶(≒ 一次記憶) |
「短期記憶」とは、感覚記憶の内、選択的注意が向けられ符号化された一時記憶であり、保持期間が「数十秒」程度です。短期記憶は、一次記憶という概念にほぼ相当します。
(詳細:▼ チャンクとは) | ワーキングメモリ(作動記憶) |
「ワーキングメモリ」もしくは、作動記憶とは、認知遂行のための情報処理機能の作業場の役割を果たし、読書・計算・推理などを行っている時に必要とされます。
| 長期記憶(≒ 二次記憶) |
「長期記憶」とは、永続的かつ無限に情報を保持する記憶です。短期記憶から転送された情報が長期記憶として貯蔵されると考えられています。二次記憶という概念にほぼ相当します。
|
長期記憶は、「宣言的記憶(顕在記憶)」と「手続き記憶(非宣言的記憶/潜在記憶)」に分類されます。
宣言的記憶(顕在記憶)とは、想起を伴い、言葉やイメージで表現可能な記憶です。
再生法や再認法によって測定されます。宣言的記憶はさらに、「エピソード記憶」と「意味記憶」に分かれます。
手続き記憶(非宣言的記憶≒潜在記憶)とは、想起を伴わず、活動の認知や行動のレベルでの情報処理に関連した記憶です。非宣言的記憶とも呼ばれ、下記3つのようなものがあります。
プライミング効果とは、先行刺激が後続処理に促進効果を及ぼすことです。先行刺激が抑制効果を示す「ネガティブプライミング効果」もあります。
知覚的プライミング(知覚情報による促進:直接プライミング)と意味的プライミング(意味に関連した促進:間接プライミング)の2つの種類があります。
(詳細:▼ 知覚的・意味的プライミング)
記憶の研究対象には、「日常記憶」(日常的な記憶)と呼ばれるものがあります。日常記憶である、展望記憶と自伝的記憶をまとめます。
「展望記憶」とは、将来に向かっての記憶のことです。これからの予定に対する記憶であり、友人に会う約束や、買い物で買うべきものなどが該当します。
「自伝的記憶」とは、エピソード記憶の一種であり、自分が生活の中で経験した様々な出来事に関する記憶の総体であり、特に重要な意味を持つ記憶の事です。
自伝的記憶は、自身が10-20代の頃の記憶が多く想起される傾向があり、この現象はレミニセンスバンプ(想起のこぶ)と呼ばれます。
記憶とは、経験による行動の変化の保持のことをいい、記憶のプロセスには「(1) 記銘」、「(2) 保持」、「(3) 想起」の3段階があります。
認知心理学の発達に大きな影響を与えた情報科学の用語の「符号化」「貯蔵」「検索」(≒記銘、保持、想起)に対応します。
「記銘」(≒符号化)とは、経験したことが記憶として取り込まれることです。外部の刺激が持つ情報を、人間の内部の記憶に取り込める形に変換します。
記銘の過程としては、まず感覚記憶から「選択的注意」が向けられ符号化された情報は、短期記憶へ移ります。
そして短期記憶において『リハーサル』を受けた情報は長期貯蔵庫へ転送され、長期記憶として永続的に貯蔵されることになります。
リハーサルとは、短期記憶の忘却を防いだり、長期記憶に転送したりするために、情報を復唱する処理のことです。リハーサルには、「維持型リハーサル」と「精緻型リハーサル」があります。
(詳細:▼ 維持型・精緻型リハーサル)
「保持」(≒貯蔵)とは、記銘されたことが記憶として保たれることです。
長期記憶の情報保持に関しては「再活動仮説」があります。再活動仮説とは、記銘時に活動した「複数の脳皮質領域」が想起時に再活動するものであり、それには内側側頭葉の機能が重要な役割を果たしているという仮説です。
「想起」(≒検索)とは、保持されていた記憶が外に現れることです。想起には、「再生」「再認」「再構成」があります。
想起に対応した記憶の検査法が「再生法・再認法」と呼ばれる方法です。
記憶の測定方法には、「再生法」と「再認法」があります。
「再生法」とは、記銘されたままの形で思い出させる方法です。記述式に該当します。
記銘した後,それを順不同で自由に再生してもらう方法を「自由再生法」、記銘した順番で再生してもらう方法を「系列再生法」、語頭音などの手がかりを呈示して再生してもらう方法を「手がかり再生」と呼びます。
「再認法」とは、記銘されたものとそれ以外を混ぜて、記名されたものをその中から選択させる方法です。選択式に該当します。
メタ記憶とは、記憶に関する知識や認識とされ、メタ認知の一部とされます。
メタ認知とは、自己の認知に対する認知的なプロセスや、認知に関する知識を表します。メタ認知には知識的側面と活動的側面があるとされます
メタ記憶の記憶モニタリング(メタ認知的モニタリング)においては、「学習容易性判断」・「学習判断」・「既知感判断」・「ソースモニタリング判断」・「確信度判断」といった下位過程があります。
( 詳細: ▼ 記憶のモニタリング )
記憶のモニタリング機能は「舌先現象」に関連していると考えられています。
加齢が記憶に与える影響について、様々な研究が行われており、以下のことが報告されています(石原,2003 )。
展望記憶や自伝的記憶は、加齢の影響に関して一定の見解が得られていないようです。
臨床生理学においては、記憶は「即時記憶」、「近時記憶」、「遠隔記憶」に区分されています。
高齢者や認知症などの専門領域においては、こちらの用語が使用されます。