ここでは、脳を構成する部位とその主な機能ついて説明します。
脳機能局在論とは、脳(特に大脳皮質)が部位ごとに異なる機能を担っているとする説であり「ブロードマン(Brodmann)の脳地図」が有名です。
脳は、「大脳」「間脳」「小脳」「脳幹(中脳、橋、延髄)」に分けられます(脳の外観図)
用語一覧:
大脳は大脳縦裂(大脳縦隔)と呼ばれる深い溝で左右の大脳半球に分かれ、その間は脳梁などで繋がっています。神経科学者であるSperry,R.W.(スペリー)は、分離脳患者の研究で大脳半球の機能差を明らかしました(分離脳とは、てんかん治療のため大脳半球間を連絡する脳梁などの交連繊維が切断された脳の状態)。
体性感覚や運動中枢などは左右の脳に機能の差はありませんが、左脳と右脳で優先される機能が異なります。一般的(右利きの場合)の場合は下記のようになります
このように、特定の知的活動は主に左右いずれかの脳で行われる事を「脳の側性化」と呼びます。
また、ある特定の機能に密接に関係している大脳半球は「優位半球」、そうでない大脳半球は「劣位半球」と呼ばれ、「半球優位性」とはこのような半球の優位性の違いをさします。言語機能においては(右利き)、左大脳半球が優位半球となります。
大脳の構造は「大脳皮質」、「大脳白質」、「大脳基底核(皮質下組織)」に分けられます。
「白質」は“神経線維”が集まった部分のことであり「灰白質(かいはくしつ)」は“神経細胞”が集まった部分を呼びます。大脳と小脳は表面が灰白質であるのに対して、間脳、脳幹(中脳等)は表面に灰白質はなく内部に多数の灰白質の塊(神経核)からなります。
「大脳皮質」は大脳の外側の部分(皮質)であり、終脳とも呼ばれ、「前頭葉」、「頭頂葉」、「後頭葉」、「側頭葉」の4つから構成されています。
( 補足: ▼ 中心溝・外側溝 )
前頭葉 |
中心溝より前、外側溝より上側の部分で、前頭連合野が大部分を占める。 意志、思考、情動、遂行機能などの高次機能を担い、随意運動を司る。 頭頂葉から中心溝を介して体性感覚情報を受け取る。
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頭頂葉 |
中心溝より後方で、頭頂後頭溝より前の部分であり「体性感覚」(温・冷覚、痛覚、触覚、圧覚、深部感覚など)や「認知機能」を司る。 一次体性感覚野は頭頂葉の中心後回(頭頂葉の最も前側)にあり、その後方が頭頂連合野となる。 |
後頭葉 |
頭頂葉より後方の部分で、ほぼ全域が「視覚」に関係する。
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側頭葉 |
大脳皮質の側面にある外側溝より外側の部分で、「聴覚」や「言語の処理」を行なう。 聴覚理解の中枢である「ウェルニッケ野」がここに存在するが、一般的には左半球にある。 |
脳は、「大脳」、「間脳(視床・視床下部)」、「小脳」、「脳幹(中脳、橋、延髄を含む)」に分かれます。大脳以外の役割を下表にまとめます。
間脳 |
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間脳は大脳と脳幹の間にあり、「視床」や「視床下部」などから成る。
視床: 視床は、卵型の灰白質の塊であり「嗅覚以外の感覚入力(視・聴・味・体性感覚等)」を大脳皮質に中継する役割を持つ。
( 補足: ▼ 外側・内側膝状体 )
視床下部: 視床下部は自律神経系を調整し、下垂体を支配下とし内分泌系(ホルモン分泌)を全体として総合的に調節している。 また、摂食・飲水などの本能的行動の中枢であり、情動の中枢でもある。 「ネガティブフィードバック(負のフィードバック)制御」とは、体内のホルモン量が多いと、視床下部や下垂体前葉にホルモン放出を抑制するようにフィードバックを行う機能をさす(ホルモンが上昇すると負のフィードバックが上昇し、放出が抑制される)
( 補足: ▼ 下垂体のホルモン )
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中脳・延髄(脳幹の一部) |
脳幹は中脳、橋、延髄を含み、大脳を支える。
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小脳 |
小脳は大脳を支える脳幹の後部に位置する。 小脳は主に運動のプログラム化や姿勢制御に関わり(体幹や四肢の平衡の維持)、不随意筋運動や、協調運動の制御・調節を行なっている。 |
脳幹網様体 |
脳幹網様体とは、脳幹の背側部分に散在する構造物。主に呼吸・心拍数・血圧を調節する中枢。 覚醒・睡眠のコントロールにも関わる(意識水準の維持に必須)。 |
大脳のより内側にある部位は、大脳皮質と比べて、動物として生存していくために必要の古くからの機能を担っていると考えられます。
「大脳辺縁系、海馬、扁桃体、大脳基底核」について説明します。
部位の名称 | 位置と主な機能 |
大脳辺縁系 | 大脳辺縁系は、文字通り大脳の辺縁(へんえん)にある。 大脳皮質の高次機能と視床下部、脳幹の生命維持機能の連絡をしていて、本能や情動に関与している。 |
海馬 | 海馬は側頭葉の縁が下に回りこんだ部分にある。 短期記憶に関与し、長期記憶への転送に重要な役目をしている。 |
扁桃体 | 扁桃体は海馬の前方にある。 各感覚連合野からの投射を受け、「快・不快」と密接に関連する。 (快・不快とは、感覚情報の生物学的価値評価や、認知された対象における情動的価値判断のこと) |
大脳基底核 | 大脳基底核は、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まり。大脳基底核の主要な構成要素のひとつが「線条体」。 運動調節、認知機能、感情、動機づけや学習など様々な機能を担っています。 |
発語に関連する脳の領域として「言語野、ブローカ野、ウェルニッケ野」があります。
言語野とは、大脳皮質の言語中枢のある領域です。総合的には90%以上の人の言語野は左半球にあります(左利きの人の30%〜50%は右半球)。
ブローカ野は、運動性言語中枢とも呼ばれ、前頭葉に位置します。
発話を司る運動性言語の中枢とされ、言語処理、および音声言語、手話の産出と理解に関わっています。
「ブローカ失語」は表出性失語や運動失語とも呼ばれ、「ブローカ野」の損傷により、言語の理解はできているが、発話がうまくできなくなる失語です。
ウェルニッケ野は、感覚性言語野、または知覚性言語中枢とも呼ばれ、一次聴覚野を囲むように側頭葉に位置します。
他人の言語を理解する(言語理解)を司る感覚性言語の中枢とされます。
「ウェルニッケ失語」は受容性失語あるいは感覚失語とも呼ばれ、「ウェルニッケ野」の損傷によりことばの聴覚心像が形成されないため、発話はできるが、内容がデタラメだったり、言語が理解ができなくなる失語です。
それ以外の失語には、「超皮質性失語」や「伝導失語」などあります(詳細:失語(神経心理症状))。
ブローカ野やウェルニッケ野と他の前頭葉皮質の連絡が途絶えると、復唱はできて自発的な発話ができない「超皮質性失語」になります。
ブローカ野やウェルニッケ野の連絡(弓状束)が切断されると、復唱ができなくなる「伝導失語」となります。