ここでは、神経細胞の構造とそれに関連した機能ついて説明します。また、脳の画像化技術の種類について紹介します。
用語:
脳と神経系を構成する「ニューロン(脳神経細胞)」からは、多数の樹状突起が出ていて、そのうちの長く伸びた突起は「軸索(じくさく)」と呼ばれます。
軸索には髄鞘(ミエリン鞘)という覆いがある「有髄神経線維」と、髄鞘が無い「無髄神経線維」があります。
有髄神経線維は神経伝達が高速です。有髄神経線維には、「ランヴィエの絞輪(こうりん)」とそのくびれた部分があり、髄鞘(ミエリン鞘)とランヴィエの絞輪によって、跳躍伝導と呼ばれる伝達が生じており高速化されています。
「シナプス」とはニューロンの軸索先端と、他のニューロンの樹状突起や細胞体との連絡部分をいいます。その隙間をシナプス間隙(かんげき)といいます。
神経伝達において、シグナルの伝達元の細胞を「シナプス前細胞」、伝達先の細胞を「シナプス後細胞」といいます。
( 補足: ▼ ニューロンの種類/ミラーニューロン )
ニューロンは静止状態では、細胞の内側が外側に対して「マイナス電位(静止膜電位)」を持ち分極の状態にあります。ニューロン上には、ナトリウム等(Na+,K+)の専用の通路であるチャネルがあり、ここの開閉によるイオンの移動により電位差変化が生じます。
人が感じる刺激の強さは、「インパルスの潜時(発生するまでの時間)」と「その頻度」によって決まります。
代表的な神経伝達物質には下記のようなものが挙げられます。精神障害との関連性があり、向精神薬の作用機序を説明します。
神経伝達物質の1種である「神経ペプチド」には下記のようなものがあります。
神経系は、脳と脊髄といった「中枢神経」と、脳神経や自律神経といった「末梢神経」から構成されます。
視覚や嗅覚などを担う神経は脳幹などから直接に感覚器につながっています。このように脳から直接でている神経を「脳神経」と呼び、それには12種類あります。
嗅神経・視神経・動眼神経・滑車神経・三叉神経・外転神経・顔面神経・内耳神経・舌咽神経・迷走神経・副神経・舌下神経
「体性感覚」を担う神経路のうち、触覚・圧覚などは神経路が「延髄」で左右反転し、視床を経由し大脳皮質へとつながります。痛覚・温度覚は延髄より遠い「脊髄」で左右反転しており、脊髄反射が起こるようになっています(熱さで手を引くなど)。
「錐体路(皮質脊髄路)」は、大脳皮質の運動野から脊髄を経て骨格筋に至る神経線維であり、主に「運動系の伝達」を担います。
錐体路は、延髄までは1束となっていますが、脊髄では「手指・腕と、足・足先(下肢遠位部)」へとつながる神経路が左右反転します。体幹と足(下肢近位部)へとつながる神経路は反転せずにそのままとなります。
脳梗塞などの障害によって、脳と左右反対の「感覚障害」や「運動障害」(下半身麻痺など:左脳は右半身・右脳は左半身に対応)などが残ります。
「半側空間無視」とは、大脳半球の病巣(脳梗塞や脳出血等)と、左右反対側の刺激に対する認知的処理が障害された病態とされます。
右利き者の大半において、左半側空間無視が生じます。これは、右利きの大半は、右大脳半球が空間性注意において優位であり、右半球が損傷されると「左空間」に注意が向け難くなるためです(関連:半球優位性)。
神経系が担う機能や生物リズムである「自律神経」と「サーカディアンリズム(概日リズム)」について説明します。
自律神経とは、随意神経系である体性神経系と対照して、不随意(自分の意思とは関係ない)です。
自律神経は、「循環、呼吸、消化、発汗・体温調節、内分泌機能、生殖機能、および代謝のような機能」を制御するものです。
視床下部がコントロールする自律神経系は、「交感神経系」と「副交感神経系」があり、それらが相補的に作用することで、生体の安定(ホメオスタシス)を保っています。
精神的発汗は、交感神経系の緊張や覚醒水準の高さを反映します。皮膚電位活動(SPA)は精神的発汗を電位として測定し、その直流成分である皮膚電位水準(SPL)が高いほど覚醒水準が高くなります。
精神性発汗を電気的に測定する方法を総称して皮膚電気活動(EDA)と呼び、嘘発見器としても用いられます。
生体が自律的に刻む概ね24時間の内因性周期を「サーカディアンリズム(概日リズム)」といい、代表的な生物リズムのひとつです。このリズムが外因性周期(日周期、潮汐周期など)に同調化して日周期性が生じます。
生物リズムの基礎となる生物時計の親機能の中枢(時計中枢)は視床下部の「視交叉上核」にあります。複雑なプロセスにより、体全体の特殊なたんぱく質(Periodたんぱく質)が24時間で増減を繰り返すメカニズムが働いています。
「メラトニン」は、サーカディアンリズムを調整するホルモンです。日光など光刺激は、視交叉上核を経て、メラトニンが作られる松果体に達します。
明るい光によってメラトニンの分泌は抑制され、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加します。メラトニンには弱いながらも睡眠作用があるとされます。
脳神経画像化技術により、生きている人間を対象として、実際に活動している脳を見ることができるようになりました。それによって、精神障害と脳神経の関連が解明されつつあります。
例えば、強迫性障害の患者の脳には、淡蒼球や両側尾状核の体積減少など基底核の形態学的変化がおもに若年例を中心に認められることがわかっています。統合失調症とドーパミン神経系の機能異常や、抑うつとセロトニンの取り込み機能の関連はよく知られています。
脳神経画像化技術は、「(1)構造神経画像」(脳の形態・構造を捉えるもの)と、「(2)機能神経画像」(脳の活動状態・機能を捉えるもの)に大別されます。下表に脳神経画像化技術をまとめます。
画像技術 | 説明 |
---|---|
(1) 構造神経画像技術 | |
CT(コンピュータ断層画像) | 脳組織を透過したX線の伝導度を測定し、これを画像化するもの。 |
MRI(核磁気共鳴画像) | 人体を構成する水素原子の性質を利用して、脳を画像化するもの。CTより細やかな空間位置の差異を検出できる。 |
(2) 機能神経画像技術 | |
fMRI(機能的核磁気共鳴画像) | MRI技術を応用し、脳の構造と機能の両方についての情報を画像化するもの。血液中の酸素の増加を画像化。 |
SPECT(単光子断層画像) | 放射線同位元素化合物を体内に投与し、その化合物から放射されるガンマ線を計測し、画像化するもの。 |
PET(陽電子断層画像) | 放射線同位元素化合物を体内に投与し、その化合物から放射される陽電子が周囲の電子と結合して消滅するときに放射されるガンマ線を計測し、画像化するもの。SPECTより細やかな位置を検出。 |
MEG(脳磁図) | 脳の神経活動パターンの変化に伴って変化する頭蓋表面の磁場を測定するもの。 |