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心理学用語集: 神経心理症状

3 - 精神病理精神症状と診断 > 12- 神経心理症状

 ここでは、高次脳機能の障害によって生じている神経心理症状をまとめます。
用語:

  1. 失語失読・失書失行失認
  2. 実行機能障害(遂行機能) / 注意障害(転導性) / 社会的認知障害社会的行動障害(脱抑制・被影響性・常同行動・感情失禁) / 思考の障害(観念放逸・保続など)


失語・失行・失認
失語:

 「失語」とは、言語機能のうち言語象徴の表出ないし、理解が障害された状態です。
失語の種類としては、「ブローカ失語」、「ウェルニッケ失語」、「超皮質性運動失語・感覚失語」、「伝導失語」が挙げられます。

   
失語の種別 説明
ブローカ失語
(Broca失語)
 表出性失語や運動失語とも呼ばれ、言語の理解はできているが、発話がうまくできなくなる。復唱も障害される。 ブローカ野の損傷に代表される症状。

【自発語:↓低下】【流暢性:↓低下】【復唱:↓低下】【理解:―】
ウェルニッケ失語
(Wernicke失語)
 「感覚性失語」あるいは受容性失語とも呼ばれ、発話はできるが、内容がデタラメで、言語が理解ができなくなる。ウェルニッケ野の損傷に代表される症状。

【自発語:―】【流暢性:―】【復唱:↓低下】【理解:↓低下】
超皮質性運動失語  自発語は、著しく低下。理解、復唱はできる。

【自発語:↓低下】【流暢性:↓低下】【復唱:―】【理解:―】
超皮質性感覚失語  錯語、喚語困難(適切な言葉で言えない)、語義理解困難(言葉の意味の理解ができない)がある。自発語、復唱は保たれている。

【自発語:―】【流暢性:―】【復唱:―】【理解:↓低下】
伝導失語  音韻性錯誤(音の間違え)が多く、復唱が障害される。言語性短期記憶の低下を背景とし、ブローカ野、ウェルニッケ野などの脳部の間のネットワークの障害があるとされる。

【自発語:―】【流暢性:―】【復唱:↓低下】【理解:↓低下(音韻性)】


失読・失書:

 「失読(Alexia)」とは脳の局所損傷による「読みの障害」をさし、「失書(Agraphia)」とは書字の障害をさします。失語を伴うなう場合と、そうでない場合があります。
 神経学的な分類と認知神経心理学的な分類があります。神経学的な分類を下記に記載します(日本神経心理学会)。

  1. 失読失書(失読と失読の両方が生じているもの):
    病巣は「角回(頭頂葉の外側面)・外側後頭回(後頭葉を前後に走る脳溝)」と「側頭葉後下部」に分類される。
    写字(文字を写すこと)は可能だが、なぞり読み(文字を指でなぞる)の効果はほぼないとされる(井堀,2016)。
  2. 純粋失読(失書のみ生じている):
    病巣は、大脳半球をつなぐ「脳梁膨大部(古典型)」と側頭葉に位置する「中部・後部の紡錘状回など(非古典型)」に分類される。
    自分の書いた文字も読むことができない。軽度の場合は、逐字読み(1文字ずつ読む)と意味把握が可能となることや、なぞり読み(文字を指でなぞる)と読めることがある。
  3. 純粋失書(失読のみ生じている):
    病巣は、「中側頭回後部、角回、縁上回、上頭頂小葉、中前頭回後部」に分類される。
    仮名は錯書(誤字)、漢字は想起困難といった場合が多い。
    写字(文字を写すこと)は保たれている症例の方が、多く報告されている(石谷ら,1993;河合ら,1984)。

失行:

 「失行」とは、運動機能の障害がなく、行うべき行為や動作を理解していながら、遂行できない状態です。
失行の種類としては、下記のものが挙げられます。

  1. 肢節運動失行:
     熟練しているはずの動作ができなくなる(例:小銭をつかめない)。中心前回・中心後回の損傷によってみられる。
  2. 観念運動失行:
     口頭で支持された社会的習慣性の高い動作を意図的に行うことが困難。模倣による動作が困難。「左頭頂葉」の障害でもみられる症状。
  3. 観念失行:
     物品の使用の障害。段取りができない。左頭頂葉の損傷やアルツハイマー認知症でみられる。
  4. 着衣失行:
     衣服を着ることができない。右頭頂葉の損傷でみられる。
  5. 構成失行:
     図形の模写や再現ができない。頭頂葉の損傷でもみられる。
失認:

 「失認」とは、一次的な知覚機能(視覚、聴覚など)には障害がないが、対象を認知できない状態です。
失認は、視覚失認、聴覚失認、触覚失認などに分類されます。例えば、視覚失認であれば、視覚は正常でも、形態として認識できず、見えているものの意味が分かりません。
 「相貌失認」とは、視覚失認のひとつであり、人の顔をみて誰か分からなくなることです。声ではわかることがあります。

 

実行機能障害(遂行機能障害)・注意障害

 その他、高次脳機能障害としては、「実行機能障害(遂行機能障害)」、「注意障害」、「社会的認知障害」、「社会的行動障害」などがあります。

実行機能障害(遂行機能障害):

 目標に向けて段取りして遂行していく複合的な能力が障害されていることをさします。前頭機能の障害によって生じます。
(実行機能の4要素:目標の設定/プランニング/計画の実行/効果的な行動)


注意障害:

 注意力が低下している障害。ぼうっとしている、物事に集中できずすぐに飽きてしまう、などの症状です。
 注意障害は「ワーキングメモリ」に関連があることが報告されており(参考 )、ウェスクラー式知能検査のワーキングメモリ指標にも影響があります。
 注意障害には、「一定方向に偏りを持つ方向性の障害」と「意識水準を一定に保つ全般性注意障害」があります。
 方向性の注意障害は、「半側空間無視」に代表され、片方向の注意の障害です(片方向しか認知できない)。頭頂葉の障害によって生じます。


 「全般性注意障害」には下記の5つ障害の分類があります(引用 )。
全般性注意障害は、前頭前野、前部帯状回、頭頂葉などの機能低下がみられます。

  1. 容量性注意障害: 一度に意識できる範囲や容量が狭くなります。
  2. 選択性注意障害: 必要な刺激や情報に注意を向ける事ができなくなります。(関連:選択的注意)。
  3. 転換性(転導性)注意障害: 特定の対象に強く固着してしまい、他の対象に対して注意を速やかに切り替えられなくなります。  
    転導性の亢進」とは、注意があっちこっちに次々に移ることを意味します。発達障害の特徴としても用いられます。
  4. 持続性注意障害: 注意を一定の状態に保ち続けることが困難になります。
  5. 配分性注意障害: 複数の活動を実行したり、順序よく実行することができなくなります。

社会的認知障害:

 社会的認知とは“他者を知り、自己を知る”機能であり、心の理論が代表的な機能です。
 社会的認知障害は、社会的状況で必要となる情報処理能力の障害であり、周囲の空気が読めない、相手の気持ちが読めないなどの症状です。
 社会的認知には、前頭前野内側部、側頭頭頂接合部、後部帯状回などが関与しているとされています。


社会的行動障害:

 社会的行動障害は、記憶・注意・遂行機能の障害に含まれない様々な「行動」の障害の総称とされます。
 社会的行動障害として「脱抑制」、「被影響性」、「常同性」、「感情失禁(情動失禁)」などがあります。

  1. 脱抑制:
     社会的な許容範囲を超えた逸脱行動を抑制できない(易怒性、性的逸脱行動、窃盗、ギャンブル、など)
  2. 被影響性:
     外的刺激に対して反射的に反応し、模倣行動や強迫的言語応答をする(目に入ったものをほとんど反射的に触る。相手が手を挙げたら同じように手を挙げる)
  3. 常同性(常同行動):
     同じ行動を固執的に繰り返す。被影響性症状にはまってしまうと、常同性(常同行動)の傾向がみられる。
  4. 感情失禁(情動失禁):
     情動の調節がうまくいかず過度に感情を表出してしまう。些細な刺激で激怒、泣くなど、感情が刺激とは不釣り合いに過度に出てしまう状態。



思考の障害

 思考の障害とそれに関連した障害名や症状についてまとめます。

思考の障害関連障害・症状
思考抑制
 思考の進行がゆっくりになる。
抑うつ障害
思考途絶
 会話の途中で急に沈黙する。
統合失調症
思考奪取
 考えが外から奪い取られる、盗まれる、外に漏れてしまうように体験する状態。
統合失調症
連合弛緩
 思考や観念の論理的な連関が弱くなり話にまとまりが無くなる。
統合失調症
滅裂思考
 思考の流れにまとまりがなく、話題が突然飛躍したり、無関係の事柄どうしが結びついている。連合弛緩が重度になったもの。
統合失調症
観念奔逸
 思考のテンポが急速で一貫性が無くなる。
双極性障害(躁状態)
迂遠
 話をしていてなかなか目的の観念に行きつかない状態。
認知症
保続
 質問が違っても同じ回答を繰り返すなどの行為の反復。
認知症




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