ここでは、「うつ病」についてまとめます。
ICD-10では、「気分障害」の下位分類の1つであり、DSM-5においては「抑うつ障害群」の1つです。
日本でのうつ病の生涯有病率は、3%〜7%とされます。一般的に女性、若年者に多いとされますが、日本では中高年でも頻度が高いという報告もあります(川上,2006)。
用語:基本症状(微小妄想, 日内変動, 笠原・木村) / 産後うつ病 / 発症の要因 / 援助方法
DSM-5におけるうつ病(大うつ病障害)の基本症状は「抑うつエピソード」と呼ばれ、下記の9つがあります。
診断基準としては、これらの9症状のうち、少なくとも「1.抑うつ気分」または「2.活動への興味・喜びの減退のいづれか」を含んだ5つが同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化をがある事となります。
心理尺度としては、「BDI (ベック抑うつ性尺度)」や「SDS(うつ性自己評価尺度)」などがあります。
抑うつによって、罪業妄想(罪深いと確信している)、心気妄想(身体的異常がある)、貧困妄想(財産がない)といった妄想といった微小妄想と呼ばれる妄想が現れることがあります。
症状が1日の中で時間とともに変化することを「日内変動」と呼びますが、うつ病は「朝が最も悪く、夕方が軽くなる」という傾向があります。
「仮面うつ病」とは、精神症状があまりなく、不眠や食欲低下などの身体症状だけがあらわれるうつ病です。
日本の臨床実践におけるうつ病の分類には「笠原・木村分類」があります。笠原嘉と木村敏による分類で、精神症状・病前性格・発症状況・病前の社会適応度・治療への態度の組み合わせにより5つの分類に分けたものです。
DSM-5においては、産後うつ病は「周産期発症」という特定用語にまとめられています。気分症状が妊娠中または出産後4週以内に始まっている場合に適用されます。
マタニティーブルー(一過性の抑うつ)は比較的軽度で、2〜3日間(最長2週間まで)続きますが、産後うつ病とは異なります。
産後うつ病のスクリーニングには、妊娠前期から産後 1 年以上の女性を対象に「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」が用いられます。
産後うつの援助において、抗うつ薬は、女性と胎児に与えるリスクとベネフィットを十分に検討し、治療上の”有益性”が危険性を上回る場合には使用されます(参照:薬物療法)。また、妊娠発覚によって服薬をすぐに中止する事は症状を増悪させる可能性があるため、徐々に行います。
うつ病の発症の要因にはさまざまな考えが提唱されていますが、不明な点が少なくないとされています。
モノアミン類に分類される神経伝達物質セロトニン、ノルアドレナリンなどの低下により生じるという考えです。
抗うつ薬のSSRIは、セロトニンがシナプス内に再度取り込まれる事を阻害し、セロトニンの濃度を保つ作用があります。
病前性格やストレスにより生じるという考えです。病前性格としては、
・クレッチマーの「循環性格」
・テレンバッハの「メランコリー親和型性格」
・下田光造の「執着性格」
などがあります。
中高年層に多く社会的役割への愛着を特徴としたメランコリー親和型うつ病に対して、青年層に多く自己への愛着を特徴とした「ディスチミア親和型」もあります。
ストレス要因としては、「ストレス脆弱性モデル」(発症しやすい素質と、その人の限界値を超えるストレスが組み合わさった場合、人間は精神疾患を発症する)に代表されます。
ストレス要因の緩和には、「コーピングスキル」や「ソーシャルサポート」も関連します。
その他、「身体の病気や状態」、「季節や天候」、「睡眠時間」、「薬剤やアルコール等の物質」などが発症に影響するとされています。
うつ病は、「自殺へのリスク」が健康な状態と比べて5倍にもなるため、自殺防止を常に念頭に置く必要があります。
また、うつ病は再発・再燃しやすく、急性期(治療開始より3・4ヶ月)と維持期(最低6ヶ月から1年以上)の間は、再燃防止の為に治療継続が必要とされます。
援助の方法としては「休養、薬物療法、心理療法」が挙げられます。
認知行動療法は、薬物療法との併用で一層の効果が得られると報告されています。