ここでは、精神疾患の薬物療法に用いられる「向精神薬」についてまとめます。向精神薬とは中枢神経系に作用し、精神機能を変容させる薬物の総称とされます。
用語:
向精神薬による治療は、原因を治すのではなく、症状を軽減させる「対症療法」にすぎず、それゆえ症状や状態像に対して行われます。
向精神薬には、ベネフィットと副作用がありますが、ベネフィットが大きい場合は薬物療法が有用とされます。例えば、一部の向精神薬には自殺念慮や自殺企図を誘発するリスクを高め可能性が指摘されています。しかし、薬物の治療効果によるベネフィットが自傷・自殺のリスクよりもはるかに大きいと考えるため、臨床医のコンセンサスとして薬物療法は有用とされています。
向精神薬による治療は、対処療法であるため症状や状態像に基づいて行われることが多いとされます。
治療の反応性も「個人差が非常に大きく」、医師の経験と判断によってケースバイケースに行われることが多いです。近年は、エビデンスベースの薬物治療ガイドラインが普及しつつありますが、ガイドラインも複数の選択肢を挙げていることが多いです。
薬剤の選択や、薬剤用量とその増減に関しては以下のような留意が必要とされます。
向精神薬の処方は、「単剤処方」(薬を一種類だけ投与する)が原則とされています。
治療抵抗性症例に対する増強薬法として2種類の薬剤を併用する場合以外、多剤併用療法の有効性は認められていません。ただし、即効性(抗不安薬)と遅発性(抗うつ薬)を短期間に限って併用することはあります。
向精神薬の従来の分類としては、疾患別に主に下記の4つに分かれています。
そのほか、「精神刺激薬」、「抗てんかん薬」、「抗認知症薬」があります。
(※向精神薬の厳密な定義は、麻薬及び向精神薬取締法に定められた物質だけとなります)
別の「分類」としては、効果の現れ方による分類があり、すぐに効果が現れる「即効性」(ベンゾジアゼピン系不安薬・睡眠薬など)と、10〜14日間投薬しないと効果が現れない「遅発性」に分かれます。
「抗精神病薬」は、統合失調症を主として、それ以外に双極性障害やうつ病にも用いられます。
下位分類に「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」があります。
[詳細]:▼ 抗精神病薬の薬剤と副作用
「抗うつ薬」は、うつ病を主として、不安障害や強迫性障害にも用いられます。
下位分類に「三環系抗うつ薬」「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン取込み阻害薬)」があります。
[詳細]:▼ 抗うつ薬の薬剤と副作用)
「抗不安薬・睡眠薬」は、不安障害、不眠症に用いられます。
下位分類に「ベンゾジアゼピン系化合物」、「非ベンゾジアゼピン系化合物」があります。
[詳細]:▼ 抗不安薬・睡眠薬の薬剤と副作用)
「気分安定薬」としては、「リチウム」と「抗てんかん薬」があります。
リチウムは双極性障害に用いられ、抗てんかん薬はてんかんや双極性障害に用いられます。
[詳細]:▼ 気分安定薬の薬剤と副作用)
「精神刺激薬」のうち、「メチルフェニデート(商品名:コンサータ)」は注意欠如/多動症(AD/HD)や、睡眠-覚醒障害(ナルコレプシーなど)に用いられます。
(詳細: 精神刺激薬の副作用)
「抗認知症薬」として代表的な薬剤としては、下記の2つが挙げられます。
(詳細: 抗認知症薬の副作用)
ここでは、薬剤の薬理学的作用についてまとめます。
個人に対する薬剤の臨床効果は、主に「薬物動態学的特性」と「薬力学的特性」により決定されます。
薬物動態学的特性とは、「身体」が薬剤に及ぼす影響のことであり、「吸収・分布・代謝・排出」といったものがあります。
薬力学的特性とは、「薬剤」が身体に及ぼす影響のことであり、脳内のどのような受容体(たんぱく分子)に作用し効果を発現するかという特性です。
< 向精神薬の薬力学的特性の例 >