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公認心理師試験用語集: 向精神薬

3 - 精神病理向精神薬 > 84- 向精神薬

 ここでは、精神疾患の薬物療法に用いられる「向精神薬」についてまとめます。向精神薬とは中枢神経系に作用し、精神機能を変容させる薬物の総称とされます。
用語:

  1. 薬物療法による治療薬剤の種類薬理学的作用
  2. 抗精神病薬抗うつ薬抗不安薬・睡眠薬気分安定薬・抗てんかん薬精神刺激薬抗認知症薬

向精神薬による治療(薬物療法)

 向精神薬による治療は、原因を治すのではなく、症状を軽減させる「対症療法」にすぎず、それゆえ症状や状態像に対して行われます。
 向精神薬には、ベネフィットと副作用がありますが、ベネフィットが大きい場合は薬物療法が有用とされます。例えば、一部の向精神薬には自殺念慮や自殺企図を誘発するリスクを高め可能性が指摘されています。しかし、薬物の治療効果によるベネフィットが自傷・自殺のリスクよりもはるかに大きいと考えるため、臨床医のコンセンサスとして薬物療法は有用とされています。


薬剤の選択:

 向精神薬による治療は、対処療法であるため症状や状態像に基づいて行われることが多いとされます。
 治療の反応性も「個人差が非常に大きく」、医師の経験と判断によってケースバイケースに行われることが多いです。近年は、エビデンスベースの薬物治療ガイドラインが普及しつつありますが、ガイドラインも複数の選択肢を挙げていることが多いです。

 薬剤の選択や、薬剤用量とその増減に関しては以下のような留意が必要とされます。

  1. 表面的な状態像の把握のみでは状態を悪化させることがあるため、鑑別診断を念頭に置きながら薬剤を選択する必要がある。
  2. 向精神薬の治療反応性は、個人差が非常に大きく、人種・民族による差や、同じ個人でもその生理的・心理的状態による差も大きい。
  3. プラセボ(偽薬)効果も大きく、医師などとの治療関係を反映するといわれている。
単剤処方の原則:

 向精神薬の処方は、「単剤処方」(薬を一種類だけ投与する)が原則とされています。
 治療抵抗性症例に対する増強薬法として2種類の薬剤を併用する場合以外、多剤併用療法の有効性は認められていません。ただし、即効性(抗不安薬)と遅発性(抗うつ薬)を短期間に限って併用することはあります。



向精神薬の種類

 向精神薬の従来の分類としては、疾患別に主に下記の4つに分かれています。

  1. 「抗精神病薬」:統合失調症
  2. 「抗うつ薬」:うつ病
  3. 「抗不安薬・睡眠薬」:不安症・不眠症
  4. 「気分安定薬」:双極性障害

 そのほか、「精神刺激薬」、「抗てんかん薬」、「抗認知症薬」があります。
(※向精神薬の厳密な定義は、麻薬及び向精神薬取締法に定められた物質だけとなります)

 別の「分類」としては、効果の現れ方による分類があり、すぐに効果が現れる「即効性」(ベンゾジアゼピン系不安薬・睡眠薬など)と、10〜14日間投薬しないと効果が現れない「遅発性」に分かれます。


抗精神病薬:

 「抗精神病薬」は、統合失調症を主として、それ以外に双極性障害うつ病にも用いられます。
 下位分類に「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」があります。


抗うつ薬:

 「抗うつ薬」は、うつ病を主として、不安障害強迫性障害にも用いられます。
 下位分類に「三環系抗うつ薬」「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン取込み阻害薬)」があります。


抗不安薬・睡眠薬:

 「抗不安薬・睡眠薬」は、不安障害不眠症に用いられます。
 下位分類に「ベンゾジアゼピン系化合物」、「非ベンゾジアゼピン系化合物」があります。


気分安定薬/抗てんかん薬:

 「気分安定薬」としては、「リチウム」と「抗てんかん薬」があります。
 リチウムは双極性障害に用いられ、抗てんかん薬はてんかんや双極性障害に用いられます。


精神刺激薬:

 「精神刺激薬」のうち、「メチルフェニデート(商品名:コンサータ)」は注意欠如/多動症(AD/HD)や、睡眠-覚醒障害(ナルコレプシーなど)に用いられます。
 (詳細: 精神刺激薬の副作用


抗認知症薬:

 「抗認知症薬」として代表的な薬剤としては、下記の2つが挙げられます。

  1. 「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬/コリン分解酵素阻害薬」(神経伝達物質アセチルコリンの量を増やす)
     ドネペジル(商品名:アリセプト)
  2. 「NMDA受容体拮抗剤」(過剰なグルタミン酸を抑える)
     メマンチン(商品名:メマリー)

 (詳細: 抗認知症薬の副作用




薬理学的作用

 ここでは、薬剤の薬理学的作用についてまとめます。
 個人に対する薬剤の臨床効果は、主に「薬物動態学的特性」と「薬力学的特性」により決定されます。


薬物動態学的特性:

 薬物動態学的特性とは、「身体」が薬剤に及ぼす影響のことであり、「吸収・分布・代謝・排出」といったものがあります。

  1. 吸収:
     経口投与された薬剤は、その脂溶性、胃腸管内の「局所PH、連動性、表面積」におうじて溶解し、血液中に吸収される。 注射などの非経口投与は、経口よりも早く至適治療血中濃度に達することができる。
     薬効を十分発揮し、副作用を防止するためには、至適(有効)血中濃度の維持が重要(効果発現の指標)。
  2. 分布:
     薬剤の脳への分布は、「脳の局所血流量」、「血液脳関門(機能)」、「脳内受容体と薬剤との親和性」に左右される。
  3. 代謝:
     薬剤は主に肝臓で代謝され(生化学反応を起こす)、不活性化される(効果がない状態にされる)。一部の向精神薬は、代謝により治療効果を有する活性代謝産物にも変換される。
     遺伝的に代謝が活発でない、代謝能低下者がいる。また、薬剤や飲酒、喫煙などにより代謝に影響を与える。
     「初回通過効果」とは、服用した薬物が全身を循環する前に肝臓を通った際、代謝されることを指す。
  4. 排出:
     薬剤の代謝産物は、胆汁、排便、排尿へ排泄される。向精神薬は、汗、唾液、母乳中にも排泄される。
薬力学的特性:

 薬力学的特性とは、「薬剤」が身体に及ぼす影響のことであり、脳内のどのような受容体(たんぱく分子)に作用し効果を発現するかという特性です。


< 向精神薬の薬力学的特性の例 >

  1. 「受容体を活性化する作動薬」:特異的な神経伝達物質の受容体を活発にする
  2. 「受容体を不活性化する拮抗薬」:特異的な神経伝達物質の受容体を不活発にする
  3. 「再取り込み阻害薬」:神経伝達物質を神経終末に再取込する蛋白分子の阻害する
  4. 「分解酵素活性の阻害薬」:神経伝達物質に対する分解酵素の活性を阻害する


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