ここでは、「強迫症(強迫性障害)」についてまとめます。DSM-5では「強迫症および関連症群」に含まれます。
強迫症の生涯有病率ですが、日本ではデータがなく正確な値はわかりませんが、おおむね欧米と同様に「約1%〜2%」程度と推定されています。発症は、通常10代後半〜20代初期に始まり、ほぼ全てが30歳ぐらいまでに発症するとされています。
用語:強迫症の症状(尺度:Y-BOCS) / 発症の要因 / 治療・援助方法 / 関連する障害(ためこみ症など)
「強迫症(強迫性障害)」とは、「強迫観念」と「強迫行為」によって特徴づけられ、明らかな苦痛をもたらし、長時間それらに時間を費やすことによって日常生活に重大な支障をもたらす障害です。
強い苦痛を感じていますが、行為の制御が難しく、不安状況を回避したり、家族などに強迫行為を強要するといった症状が見られます。
また、強迫症は他の精神障害の併存をしばしば認め、中でも「うつ病」の併存が最も多く、「最大30%の人たちは一生涯のうちにチック症」も経験し、「最大25%は自殺企図が認められる」というデータもあります。
「強迫観念」とは、無意味ないし不適切、侵入的と判断され、無視や抑制しようとしても心から離れず繰り返される思考や衝動およびイメージなどのことです。その多くは強い不安や苦痛の原因となり、それら思考やイメージを抑え込もうとしたり、ほかの思考や行動によって中和しようと試みることを伴うものと定義されます。
「強迫行為」とは、強迫観念にともなって高まる不安を緩和および、打ち消すための繰り返しの行動や、心の中の行為のことです。
それらは、現実的には不安や苦痛の中和や予防にはつながらず、そのばかばかしさや、過剰であることを自ら認識してやめたいと思いつつも、駆り立てられるということを伴います。
強迫観念・行為は、下記のようなものに分けられます。
強迫症の評価尺度としては、エール・ブラウン強迫尺度(Y-BOCS:Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale)があります。費やす時間、関連する苦痛などの「10項目」から、強迫症の臨床的重症度を評価します。
日本語版は、40点満点で8点以上から症状があるとされます。
強迫症の原因や発症に関わる特異的な要因は、いまだ特定されていません。
発症に至る過程としては、ストレスが生じる「ライフ・イベント」と、「脆弱性要因」(神経生物学的要因、遺伝性要因、性格など心理的要因)との相互作用を介すると考えられています。
行動主義の観点では、レスポンデント条件づけに基づいて、「環境イベント」(汚れたことなど)と「不安」が条件付けされ、強迫的行為によって不安が軽減されることが強化となり、強迫症が発症すると考えられています。
精神分析的には、強迫症状は親に対する攻撃性を「置き換え」や「反動形成」といった防衛機制によって抑圧していることで生じている考えます。
置き換えは「ある対象(親)への感情(攻撃性)が受け入れがたい場合、それを別の対象に移す事」であり、反動形成は「受け入れがたい欲望や思い(親への攻撃性)を裏返えす行動を行う事」です。
フロイトの心理性的発達理論においては、「肛門期」への固着または退行によって強迫性が生じていると考えます。
その他、強迫症のメカニズムとして、森田療法における「ヒポコンドリー性基調と精神交互作用」という考え方もあります。
援助の方法は、「薬物療法」と「認知的行動療法」の併用が一般的とされます。
また、患者や家族などに十分な理解をうながす「心理教育」は、治療的動機づけを高めかつ周囲からの一貫した支持を得て安定的治療環境を構築するうえで重要であるとされます。
DSM-5に定義されている強迫症の関連症群には下記があります。