ここでは、「心的外傷後ストレス障害」や「適応障害」に代表される、心的外傷及びストレス因関連障害群についてまとめます。
この障害群は、心的外傷となるような出来事、または強いストレッサーの曝露によって生じるさまざまな症状を伴う障害です。
用語:心的外傷後ストレス障害(PTSD)(幼児の診断 ) / PTSD評価尺度(IES-R, PDI, CAPS) / 急性ストレス障害(ASD) / 複雑性PTSD / 適応障害・反応性愛着障害 / 支援の方法
「心的外傷後ストレス障害(PTSD:Posttraumatic Stress Disorder)」とは、死の危険を感じるほどの強い恐怖と無力感を伴う外傷体験の後に、心理的・身体的に特有の症状が「1ヶ月以上持続する」障害です。
心的外傷体験には、直接的な体験だけでなく、「起こった出来事を目撃したり耳にしたりすること、救急隊員などが仕事を通して繰り返し体験」も含まれます。
PTSDは「うつ病やアルコール依存・濫用」を合併することが多いことが報告されています。生涯有病率は、女性の方が高く、女性固有の危険な体験の内容等の違いだけでなく、同じ被害でも女性のほうがPTSDを発症しやすいことが指摘されています。
DSM-5でのPTSDの症状は「侵入症状」「回避症状」「認知や感情の陰性の変化」「過覚醒」の4つです。
DSM-5では、「6歳以下の子ども」の場合は、PTSDの診断基準が分かれており、その内容が多少異なっています。
(例:「認知と感情の陰性の変化」の症状には、遊びの抑制や、社会的ひきこもり行動といったものが含まれる。)
子どもはPTSDにおける侵入症状(再体験症状)として「ポストトラウマティック・プレイ」と呼ばれる、ごっご遊びを取りつかれたように繰り返すこともあります。地震ごっごや、津波ごっごなどといった再演をするような遊びを行います。
(関連:児童虐待・マルトリートメント)
PTSDの評価尺度としては下記が挙げられます。
「急性ストレス障害(ASD)」は、心的外傷体験後(PTSDと同様に直接体験の他、目撃や耳にするなども含む)に、「PTSDと同様の症状」(侵入症状、回避症状、認知・感情の陰性変化、過覚醒)に加えて、「解離症状」(現実が変容した感覚や出来事の記憶障害)が生じる障害です。
持続期間がPTSDより短く「3日から1カ月間」が基準となります。
複雑性PTSDは、DSM-5では疾患に含まれていませんが、ICD-11で定義されています。
複雑性PTSDは、複数、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露によって生じる症状です。長期間で反復的な虐待などによる心的外傷などが要因となります。
複雑性PTSDの主症状は「解離」であり、PTSDより広範囲の症状を示します。
DSM-5の「心的外傷及びストレス因関連障害群」には、PTSD、ASDの他、適応障害、反応性アタッチメント障害、脱抑制型対人交流障害が含まれます。
「適応障害」とは、特定可能なストレス因に対する、不安や抑うつ、自律神経症状など、心身の反応が生じる障害です。
ストレス因から3ヶ月以内に発症し、6ヶ月以上持続しない場合に診断されます。
「反応性アタッチメント障害(愛着障害)」とは、養育者に対して愛着を示さないことを特徴とします。養育者への抑制され情動的に引きこもった一貫した行動(苦痛なときでも安楽を求めない)、他者への持続的な対人交流と情動の障害(最低限の交流と情動的反応)があります。
DSM-5の診断基準には、自閉症スペクトラム症には該当しない事が含まれています。
「脱抑制型対人交流障害」とは、見慣れない大人にたいする不適切で過度な馴れ馴れしい行動を特徴とします。
「抑制型」(反応性愛着障害)と「脱抑制型(対人交流障害)」といった相反する両方の診断基準には、「乳幼児期の不適切な養育(=マルトリートメント:児童虐待に該当)」が含まれています。
PTSDやASDの援助の方法の基本は、「心理的に保護をして、自然の回復を促すこと(安全・安心・安眠の確保)」となります。
PTSDに対する心理療法としては、「認知行動療法(持続エクスポージャー療法)」や、「EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)」が用いられます。
また、「薬物療法(抗うつ剤)」も併用される場合もあります。
「遊戯療法(ポスト・トラウマティック・プレイセラピー)」や「芸術療法(アートセラピー)」などによって、カタルシスや洞察を得るといったアプローチも用いられます。