ここでは、児童に関する法律である「児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)」についてまとめます。
用語:
児童虐待防止法は、児童虐待を防止するために作られた法律で2000年に施行、2004年に改正され、さらに2019年に児童福祉法と合わせて改正されています。
児童虐待とは、保護者がその監護する「児童(18歳に満たない者)」に対し、次に掲げる4つの行為をすることを言います。
保護者とは、親権者、未成年後見人、その他の者で児童を実際に監護する者を言います。
児童虐待の相談対応件数は年々増加しています。
児童相談所全国共通ダイヤルは、2015年に「189(3桁化)」となり、2019年には無料化されました。
児童虐待による死亡事例は下記のようになっています(参照:厚生労働省 検証報告書)。
児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者には、速やかに、これを「市区町村」、「都道府県の設置する福祉事務所」または「児童相談所」に通告する義務が定められています。
守秘義務は危機介入のために例外扱いされます。すなわち、刑法の守秘義務に関する法律の規定は、通告する義務を妨げないとされ、通告義務が優先されます。
児童虐待の通告を「児童相談所」や「市町村」が受理した以降の対応をまとめます。
児童虐待防止法は、2019年(令和元年)に児童福祉法と合わせて改正されており、児童の権利擁護、児童相談所の体制強化及び関係機関間の連携強化等が図られています(資料)。
児童の権利擁護に関しては、児童虐待防止法に「親権者は、児童のしつけに際して体罰を加えてはならないこととする。」と定められました(第14条)。児童福祉法においても、児童福祉施設の長等についても同様に体罰を加えることはできないと定められました(第33条)。
児童相談所の体制強化については、下記のような内容が定められました。
関係機関間の連携強化については、下記のような内容が定められました。
「マルトリートメント(不適切な養育)」とは、人あるいは動物に対する残酷なもしくは暴力的な振る舞いを意味し、児童虐待を包括する用語です。
児童虐待やマルトリートメントは、児童の精神発達に深刻な影響を与え、「脳の器質的な変形」を引き起こしたり、「PTSD」、「反応性愛着障害」、「解離性障害群」、「抑うつ」、「学習意欲の低下や非行」の要因になると考えられています。
虐待のある関係性においては、「トラウマティック・ボンディング(トラウマ性の絆)」が生じやすく、子どもの愛着行動や対人関係に影響を与えるとされます。
さらに、虐待を受けた児童が親になったときに、自分の子供を虐待するという「虐待の世代間の伝達」も懸念されます。
( 補足: ▼ トラウマティック・ボンディング )
J. Belsky(ベルスキー)のモデルにおいて、親の養育行動に影響する要因として「1.親の個人的な心理的資源」、「2.子どもの特徴・個性」、「3.ストレスやサポートの要因(夫婦関係・仕事・社会的交友・支援関係など)」が挙げられています。
このうち「3.ストレスやサポートの要因」が、最も養育行動に直接的に影響を与えます。さらに、親の精神健康度にも影響を与える事による間接的な影響もあります。
児童虐待につながるリスクとしては、下記のようなものが指摘されており、さまざまなリスク要因が絡み合っておこるとされています(厚生労働省)。特定妊婦のリスク要因も確認しておきましょう。
特定妊婦とは、児童福祉法において「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されます。妊娠中に家庭環境などにリスクを抱えている妊婦で、育児が困難と予想される妊婦とも説明されます。
医療機関や学校等において特定妊婦と把握された場合、その者の現在地の市町村へ情報提供することが「努力義務」となっています。
市区町村に登録された特定妊婦は養育支援訪問事業や要保護児童対策地域協議会を通じて養育上の支援を受けることとなります。
(補足:▼厚生労働省:特定妊婦の目安)
以下は、特定妊婦のリスク要因とされています(文献:#1・#2)。
児童虐待の発生の予防としては、下記のような対策が重要とされます。
ハイリスクケースへは、「要保護児童対策地域協議会」のケースとして支援されます。
支援には、相談所や施設などでの「拠点型支援」と、家庭に赴く「訪問型支援(アウトリーチ型支援)」などがあります。
乳児家庭全戸訪問事業はアウトリーチ型支援の一つと言えます。