本文へスキップ

公認心理師・臨床心理士・心理職(心理系公務員)を目指す方々のための「心理学用語」を説明したサイトです

公認心理師試験用語集 : 児童虐待防止法

5 - 法律・行政児童に関する法律 > 32- 児童虐待防止法

 ここでは、児童に関する法律である「児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)」についてまとめます。
用語:

  1. 児童虐待防止法通告義務通告後の流れ現状(調査データ) / 近年の改正(連携強化・体罰禁止)
  2. マルトリートメントとリスク要因Belskyの養育モデル) / 特定妊婦

児童虐待防止法

 児童虐待防止法は、児童虐待を防止するために作られた法律で2000年に施行、2004年に改正され、さらに2019年に児童福祉法と合わせて改正されています。
 児童虐待とは、保護者がその監護する「児童(18歳に満たない者)」に対し、次に掲げる4つの行為をすることを言います。
 保護者とは、親権者、未成年後見人、その他の者で児童を実際に監護する者を言います。

児童虐待の種類:
  1. 身体的虐待
     児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
  2. 性的虐待
     児童にわいせつな行為をすること、させること、見せること。
  3. ネグレクト
     児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
     児童に必要な医療を受けさせることを怠ることは「医療ネグレクト」と呼ばれる。
     保護者以外の同居人による児童虐待と同様の行為もネグレクトの一類型に含まれる。
  4. 心理的虐待
     児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。児童の目の前で配偶者やきょうだいへのドメスティック・バイオレンスが行われること等、児童への被害が間接的なものについても含まれる。
児童虐待の現状:

 児童虐待の相談対応件数は年々増加しています。
 児童相談所全国共通ダイヤルは、2015年に「189(3桁化)」となり、2019年には無料化されました。

  1. 近年は「心理的虐待」が最も多く(約55%)、次に「身体的虐待」の割合が多い(約25%)(参照:平成29年度 / 平成30年度)。
  2. 主たる虐待者は「実母」が最も多く(約50%)、その次に「実父」(約40%)(参照:平成30年版 子供・若者白書)。
  3. 通告元は、「警察等」が最も多く(約50%)、その次に「近隣・知人」(約13%)となっている。

 児童虐待による死亡事例は下記のようになっています(参照:厚生労働省 検証報告書)。

  1. 死亡は、心中以外では「身体的虐待」が最も多く次に「ネグレクト」となる。
  2. 死亡した児童の年齢は「0歳児」が最も多い。
  3. 死亡の加害者は「実母」が最も多く、次に「実父」。年齢は実母の場合は「20歳未満」が最も多く、実父の場合は「20〜24歳」が最も多い。
  4. 心中による死亡の背景としては「経済的困窮(借金)」が最も多く、次に「家庭不和」となっている。

通告の義務(児童虐待防止法 第6条):

 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者には、速やかに、これを「市区町村」、「都道府県の設置する福祉事務所」または「児童相談所」に通告する義務が定められています。
 守秘義務は危機介入のために例外扱いされます。すなわち、刑法の守秘義務に関する法律の規定は、通告する義務を妨げないとされ、通告義務が優先されます

  1. 児童の福祉に業務上関係のある団体やその職員等は、児童虐待の早期発見に努め、支援の要請、教育または啓蒙に努めなければならない。
  2. 虐待の発見は、教師、児童福祉施設職員、医師、保健師などにされることが多く、その対応には教育、医療、福祉、司法などの様々な専門家が連携することが重要となる。
  3. 組織に所属する心理職として発見した場合は、組織内での共有をし、管理職等が児童相談所へ通告を行う(個人でなく組織として通告する)。

通告後の流れ(児童虐待防止法) :

 児童虐待の通告を「児童相談所」や「市町村」が受理した以降の対応をまとめます。

  1. 情報収集と安全確認: 
     児童相談所と市町村は、目視によるこどもの安全確認と、生活状況などを把握します。
     児童相談所は、家庭への「立入調査」や、警察とともに家庭内に立ち入る「臨検・捜索」の権限があり、児童虐待が行われている疑いがあるときには行使します。
  2. 方針決定(一時保護):  
     情報をもとに処遇方針が決定され、深刻な虐待状態にある場合は、家庭から一時的に保護する「一時保護」が実施されます(2週間から2カ月、更新可能)。一時保護は、親権者等の同意は不要です(子どもの意思にも反して実施可能)。
     「緊急一時保護」は、「1) 当事者(子ども、及び保護者)が保護を求めている場合」、「2) 当事者の訴える状況が差し迫っている場合(性的虐待が濃厚な場合も該当)」、「3) 虐待によるすでに重大な結果がある場合」、に検討がされます(厚生労働省)。
  3. 継続的支援(措置・措置解除):  
     処遇方針の決定を受けて「在宅支援と代替養育」の措置が行われます。
     「在宅支援」とは、家族での生活を続けながら改善を目指す支援で市区町村が運営する「要保護児童対策地域協議会」で情報を共有し、機関協働による支援を行います。
     「代替養育」とは、こどもの生活の場を里親や施設等に移して支援を行うことです。児童相談所は親権者等の意に反して代替養育を行うことはできません。親権者等の意に反する場合は、児童相談所は家庭裁判所の承認を得る必要があります。
     「措置の解除」とは、代替養育から子どもが保護者のもとに復帰する事です。措置の解除が行われる前に、措置停止(一次的な家庭への復帰など)と、施設と児童相談所が「子どもと虐待を行っていた保護者へ必要な事項の確認」と「地域関係機関等との調整」が行われます。
    (関連:措置機能・解除・停止 )。

近年の改正:

 児童虐待防止法は、2019年(令和元年)に児童福祉法と合わせて改正されており、児童の権利擁護、児童相談所の体制強化及び関係機関間の連携強化等が図られています(資料)。
 児童の権利擁護に関しては、児童虐待防止法に「親権者は、児童のしつけに際して体罰を加えてはならないこととする。」と定められました(第14条)。児童福祉法においても、児童福祉施設の長等についても同様に体罰を加えることはできないと定められました(第33条)。

 児童相談所の体制強化については、下記のような内容が定められました。

  1. 都道府県は、一時保護などの介入対応を行う職員と、保護者支援を行う職員を分ける等の措置を講じる。
  2. 都道府県は、児童相談所に、弁護士、医師及び保健師を配置する。また、児童心理司を政令で定める基準を標準として配置する。
  3. 都道府県は、第三者評価など、児童相談所の業務の質の評価を実施する。

 関係機関間の連携強化については、下記のような内容が定められました。

  1. 学校、教育委員会、児童福祉施設等の職員は、職務上知り得た児童に関する秘密について守秘義務を負う。
  2. 家庭内暴力(DV)対策と児童虐待対応の連携を強化し、婦人相談所や配偶者暴力相談支援センターなどとの連携・協力を行う。
  3. 要保護児童対策地域協議会から情報提供等の求めがあった関係機関等は、これに応ずるよう努める。
  4. 児童虐待を受けた児童が住所等を移転する場合には、移転前から移転先の児童相談所長に速やかに情報提供を行う。


児童虐待やマルトリートメントのリスクと予防

 「マルトリートメント(不適切な養育)」とは、人あるいは動物に対する残酷なもしくは暴力的な振る舞いを意味し、児童虐待を包括する用語です。
 児童虐待やマルトリートメントは、児童の精神発達に深刻な影響を与え、「脳の器質的な変形」を引き起こしたり、「PTSD」、「反応性愛着障害」、「解離性障害群」、「抑うつ」、「学習意欲の低下や非行」の要因になると考えられています。
 虐待のある関係性においては、「トラウマティック・ボンディング(トラウマ性の絆)」が生じやすく、子どもの愛着行動や対人関係に影響を与えるとされます。
 さらに、虐待を受けた児童が親になったときに、自分の子供を虐待するという「虐待の世代間の伝達」も懸念されます。


児童虐待のリスク要因:

 J. Belsky(ベルスキー)のモデルにおいて、親の養育行動に影響する要因として「1.親の個人的な心理的資源」、「2.子どもの特徴・個性」、「3.ストレスやサポートの要因(夫婦関係・仕事・社会的交友・支援関係など)」が挙げられています。
 このうち「3.ストレスやサポートの要因」が、最も養育行動に直接的に影響を与えます。さらに、親の精神健康度にも影響を与える事による間接的な影響もあります。

 児童虐待につながるリスクとしては、下記のようなものが指摘されており、さまざまなリスク要因が絡み合っておこるとされています(厚生労働省)。特定妊婦のリスク要因も確認しておきましょう。

  1.  保護者の要因:
     望まぬ妊娠や若年・うつ病など保護者の疾病、慢性疾患の悪化・アルコールやギャンブル依存などの嗜癖・虐待された経験など
  2.  子ども側の要因:
     乳児期の子ども・未熟児・障害児など
  3.  養育環境の要因:
     単身家庭や子ども連れの再婚家庭等・夫婦の不和やDV・社会的孤立・経済的な不安定さ(失業・転職の繰返し)

特定妊婦:

 特定妊婦とは、児童福祉法において「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されます。妊娠中に家庭環境などにリスクを抱えている妊婦で、育児が困難と予想される妊婦とも説明されます。
 医療機関や学校等において特定妊婦と把握された場合、その者の現在地の市町村へ情報提供することが「努力義務」となっています。

 市区町村に登録された特定妊婦は養育支援訪問事業や要保護児童対策地域協議会を通じて養育上の支援を受けることとなります。
 (補足:厚生労働省:特定妊婦の目安


 以下は、特定妊婦のリスク要因とされています(文献:#1#2)。

  1. 妊婦が若年
  2. 未入籍/シングルファミリー/ステップファミリー
  3. 夫との関係:年の差婚、DV歴がある
  4. 多産(こどもの数が多い)
  5. 妊婦に精神疾患や慢性疾患悪化の可能性がある、受診支援が必要
  6. 妊娠時の初診が遅い≒母子健康手帳未発行・妊娠後期の妊娠届
  7. 妊娠時の受診回数が少ない
  8. 妊娠出産に関する知識不足/入院先の確保がない
  9. 胎児に先天性疾患がある

児童虐待リスクへの対策:

 児童虐待の発生の予防としては、下記のような対策が重要とされます。

  1. 市区町村での子育て支援の充実
  2. 虐待防止のための教育
  3. ハイリスクケースの早期発見と支援

 ハイリスクケースへは、「要保護児童対策地域協議会」のケースとして支援されます。
 支援には、相談所や施設などでの「拠点型支援」と、家庭に赴く「訪問型支援(アウトリーチ型支援)」などがあります。
 乳児家庭全戸訪問事業はアウトリーチ型支援の一つと言えます。



5 - 法律・行政 > 児童に関する法律 >