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公認心理師試験用語集: 向精神薬の副作用

3 - 精神病理向精神薬 > 85- 向精神薬の副作用

 ここでは、精神疾患の薬物療法に用いられる向精神薬の「副作用」についてまとめます。
用語:

  1. 耐性薬剤性せん妄
  2. 抗精神病薬抗うつ薬抗不安薬・睡眠薬気分安定薬精神刺激薬抗認知症薬

薬剤の副作用

 薬剤の利用による副作用の出現は、患者に大きな不安を招き、服薬に対する患者のアドヒアランスに大きく影響します。
 「アドヒアランス」とは、患者の積極的な治療方針の決定への参加と決定後の自らの行動のことをさします。
 ここでは副作用として「耐性」、「薬剤性せん妄」についてまとめます。向精神薬固有の副作用については、後述の「向精神薬の副作用」を参照してください。


耐性:

 「耐性」とは、長期に薬剤を投与を続けると臨床効果が低下することです。同じ効果を得るために、より多くの物質の摂取が必要になり、一部の向精神薬にも生じます。
 耐性の形成は、薬剤に対する身体依存と関連し、投与を急に中止すると離脱症状(物質使用を中止することによって生じる、不眠、一過性の錯覚などの病的な症状)が出現します。

薬剤性せん妄:

 「薬剤性せん妄」とは、薬剤が投与されたことによって引き起こされた「せん妄」のことです。
 特に、高齢者は、「薬剤の吸収が遅い、代謝・排泄が低下、血液脳関門に障害がある」等の要因によって薬剤性のせん妄が引き起こされる場合があります。

  1. せん妄を誘発する薬剤のうち、向精神薬としては「抗パーキンソン病薬、抗コリン薬、抗不安薬・睡眠薬」などによる報告が多いとされます。
  2. 「胃潰瘍治療薬、抗がん剤、インターフェロン、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、抗ウィルス剤」などの身体疾患治療薬もせん妄などの精神症状を誘発する可能性が高いとされます。


向精神薬の副作用

 向精神薬の種類別にその副作用をまとめます。

抗精神病薬の主な副作用

  1. 眠気・ふらつき
  2. 口渇
  3. 便秘・排尿障害
  4. 心房細動(不整脈)・起立性低血圧
  5. 高血糖(糖尿病悪化リスク)・体重増加
  6. 性機能低下・高プロラクチン血症(プロラクチン分泌過剰)
  7. 錐体外路症状(EPS)・アカシジア

抗うつ薬の主な副作用

【三環系抗うつ薬】(抗コリン作用が強い)
  1. 眠気・ふらつき
  2. 口渇
  3. 起立性低血圧
  4. 便秘・排尿障害
【SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)】
  1. 眠気・頭痛・ふらつき
  2. 口渇・悪心(吐き気)・嘔吐
  3. 便秘・胃腸障害
  4. 賦活症候群(アクチベーション)
 (補足:▼ セロトニン症候群
【SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)】
  1. 眠気・頭痛・ふらつき
  2. 口渇・悪心(吐き気)・嘔吐
  3. 便秘・排尿障害
  4. 賦活症候群(アクチベーション)

抗不安薬・睡眠薬の主な副作用

 「非ベンゾジアゼピン系」の薬剤の方が「ベンゾジアゼピン系」よりも副作用が少ないです。
【ベンゾジアゼピン系薬剤 (エチゾラムなど)】
  1. 持ち越し効果(hang over)
  2. 筋弛緩作用・転倒
  3. 認知障害・健忘
  4. 依存症状・離脱症状
  5. 奇異反応(興奮や攻撃的な行動)・アルコールとの相互作用
  6. 呼吸抑制(呼吸数低下)
  7. 反跳性不眠・不安(rebound)
【非ベンゾジアゼピン系薬剤 (メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)】
  1. 眠気/傾眠、頭痛、めまい
  2. 便秘、吐き気(メラトニン受容体作動薬のみ)

気分安定薬の主な副作用

気分安定薬の副作用は、急性のものもありますが、主に長期使用において生じる副作用です。
  1. 腎機能の障害
  2. 甲状腺機能の障害(甲状腺機能低下)
  3. 心機能の障害

精神刺激薬の主な副作用

  1. 過覚醒・不眠、不安・緊張、食欲低下、多幸感、感情の鈍麻
  2. 散瞳、発汗、頻脈などの交感神経系の過活動
  3. 離脱期における、疲労感、仮眠、過食、悪夢

抗認知症薬の主な副作用

  1. ドネペジル(アセチルコリンエストラーゼ阻害薬)
     錐体外路障害、眠気、めまい、下痢、悪心(吐き気)、不整脈など
  2. メマンチン(NDMA受容体拮抗薬)
     痙攣、攻撃性・妄想、 めまい、傾眠・不眠など

錐体外路症状(EPS):

 抗精神病薬等の副作用としてみられる「錐体外路症状(EPS)」とは、筋緊張が低下し、不随意運動を伴う多動状態です。下記のようなものが挙げられます。

  1. 手足の振戦(ふるえ)
  2. アカシジア
    座ったままでいられない、じっとしていられない、下肢のむずむず感の自覚、といった静座不能の症状
  3. (遅発性)ジスキネジア
    口唇をもぐもぐさせたり舌のねじれや前後左右への動きや歯を食いしばったりする症状
  4. ジストニア
     体幹や頸部に生じる筋の収縮または強直
  5. (片側)バリズム:
     上下肢の近位部に生じる振幅が大きい素早い運動で、上肢または下肢を投げ出すような激しい動き
  6. 舞踏病:
     眼のぴくつきや口や舌の動き。
  7. ミオクローヌス: 
    急に転倒する

抗コリン作用:

 「抗コリン作用」とは、神経伝達物質であるアセチルコリンがその受容体に結合するのを阻害する作用の事です。
 抗コリン作用による副作用としては、口渇、便秘、悪心、排尿障害などがあります。三環系抗うつ薬は抗コリン作用による副作用が強く、SSRIやSNRIは抗コリン作用が抑えられています。


賦活症候群(アクチベーション・シンドローム):

 賦活症候群とは、抗うつ薬であるSSRIやSNRIの副作用であり、「不安、焦燥、不眠、敵意、衝動性、易刺激性、アカシジア、パニック発作、軽躁、躁状態」などの症状が現れます。また、悪化するとリストカットなどの自傷や、自殺行為に至ることもあります。
 双極性障害の場合は、うつ状態から躁状態へと躁転する場合もあるため、慎重な投与が必要とされます。



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