ここでは、ストレスへの対処法である「コーピング」についてまとめます。そのほか、ストレスに関連した理論である「脆弱性ストレスモデル(素因ストレスモデル)」や「タイプA行動パターン」などについてまとめます。
用語:コーピング(問題焦点型・情動焦点型) / 脆弱性(素因)ストレスモデル / レジリエンス / タイプA,B,C / バーンアウト / 感情労働 / 代理トラウマ / ヤーキーズ・ドットソン / 管理ザルの実験
コーピングとは、「ストレスに対処するために行われる個人の認知的および行動上の努力のこと」をいいます。
「Lazarus,R.S(ラザルス)とFolkman,S(フォークマン)」は、コーピングには、「問題焦点コーピング」と、「情動焦点コーピング」の2種類があるとしました。
コーピングの種類 |
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問題焦点型コーピング:直接状況や問題に働きかけ、それを変化させることでストレスに対処する試み 情動焦点型コーピング:状況を認知的に再評価し、情動的な苦痛を低減することでストレスに対処する試み | コーピングの特徴 |
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「脆弱性ストレスモデル(素因ストレスモデル)」とは「生物学的脆弱性と、心理社会的ストレスとの関係性によって精神障害が決まる」という考え方です。
このモデルに沿って、「脆弱性に対しては薬物療法による医学的アプローチ、ストレスに対しては認知行動療法といった心理的アプローチ」が治療として取られています。
「レジリエンス」とは、困難などの状況においても、うまく適応する過程・能力・結果、などと定義されます。逆境からの精神的回復力とも言われます。
レジリエントな状態にある者は、困難や脅威のある状況において一時的に心理的に不健康な状態に陥っても、それを乗り越え、精神障害の症状を示さずによく適応している者をさします。
タイプA行動パターンとは、ストレスの多い生活を気づかずに選ぶ人々を指します。Friedman(フリードマン)とRosenman(ローゼンマン)が提唱した性格特性です。
タイプAの人々は、情熱的な完全主義者で、仕事や余暇において常に先を競い、時間に追われているという特徴を持ちます(時間的切迫感・性急さ・競争心など)。根底には「敵意と怒りの抑圧」があるとされます。
タイプAと反対の行動パターンは、タイプBと呼ばれます。穏やかで、マイペース、無理をしないという特徴を持ちます。
タイプC行動パターンとは、自分を犠牲にしてまで他者を気遣いストレスを溜め込む人々を指します。
周囲を気遣い、我慢強く、真面目で几帳面であり、自分の感情を抑え込むという特徴を持ちます。
タイプCの人は、ホルモンや自律神経・免疫力などに異常をきたすことで、ガンが発症しやすいと推測されていますが、まだ十分に実証されていません。
バーンアウトとはバーンアウトシンドロームとも呼ばれ、持続的な職業性ストレス(感情的にギリギリの状況下で長時間従事するなど)によって起こり、「心的疲労感、意欲喪失や空虚感、対人関係の親密さ減弱、人生に対する慢性的不満と悲観、職務上能率低下」などの症候群とされます。
バーンアウトは、ヒューマンサービス(顧客にサービスを提供する職業の総称:看護師、教員、ヘルパーなど)の間で注目されて、フロイデンバーガー(Freudenberger)が概念を提唱しました。
その後、マスラック(C.Maslach)らが、操作的な定義を行い、マスラック・バーンアウト・インベントリー (MBI)という尺度を開発し、症状の特徴を下記のように抽出しました(参考文献)。
「代理トラウマ」とは「治療者がクライエントのトラウマ素材に共感的に関わった結果、関わった者の内的体験が変容すること」をさします。
治療関係の中で生じる逆転移とは異なり、治療者の内面における世界観やアイデンティティの変化のプロセスとされており、バーンアウトにつながるともされます。
感情労働とは、A. Hochschild(ホックシールド)によって定義された概念であり、職業上、自己の感情をコントロールすることが要求される労働のことです。「肉体労働」、「頭脳労働」に続く第3の労働形態とされます。
感情労働において、感情をコントロールする方法には、表層演技と深層演技があるとされます。
「表層演技」は、自分の感情はそのままですが、表情などを変える方法です(例:怒りの感情のまま、笑顔で対応する)。
「深層演技」は、自分の感情そのものを変化させる方法です(例:怒りの感情を、感謝の感情へと変えて対応する。)。
ヤーキーズ・ドットソンの法則とは、学習活動に対する動機づけは、適度なストレスがあるときに最も高いという法則です。
動機づけの強さ(ストレス)と、パフォーマンスには逆U字型の関数関係が成立しています。個人においても、ストレスが高すぎても、低すぎても、成果が落ちてしまいます。
ストレス対処に関する実験として、「Brady,J.Vの管理ザルの実験」と「GlassとSingerの実験」があります。
Brady,J.Vの管理ザルの実験:
2匹のサルによる実験から、「不快なストレッサーそのものより、それに対処する行動を取り続けなければならない緊張感の持続の方が、より大きなストレス反応を起こさせる」ことが示唆されました。
(詳細:▼ Brady,J.Vの管理ザルの実験)
GlassとSingerの実験:
GlassとSingerの実験では、「人がストレッサーに対して対処可能だと感じることだけで、ストレスは低減すること」が示されています。
(詳細:▼ GlassとSingerの実験)