ここでは、動機付けの理論についてまとめます。産業心理学の「ワークモチベーション」も参照ください。
用語:生理的動機 / 内発的・外発的動機 / アンダーマイニング効果 / マレーの社会的動機 / マズローの欲求階層説
動機づけとは、「行動を始発、方向付け、推進、持続させる過程や機能の総称」です。
動機づけは、動因と誘因が在って始めて成立します。「動因」とは、飢えや渇きなどの生理的欲求に対する心理的結果として、行動を起こそうとする内的な状態をいいます。
「誘因」とは、行動を生起する外的要因をいいます。
ここでは、生理的欲求や2次的な欲求に関する動機付けの代表的なものを列挙します。
「生理的動機づけ」とは、生命を維持し、種を保存させるための生得的な動機です。飢え、渇き、睡眠、排泄などによって動機づけされます。
「ホメオスタシスによる動機付け」とは、生理学的にホメオスタシス(恒常的平衡)を必要とすることで、視床下部が動因を出し、行動の動機が形成されます。
ホメオスタシス(恒常性)とは、Cannon,W.B(キャノン)が命名した、生体が、身体的、生理的状態を一定に維持しようとする働きをいいます。
この動機づけは、また、条件づけや習慣化、心理的抑制が影響することが知られています。
種々の栄養物質を用意し、自由に摂取させ、その量を測定するという「カフェテリア実験」では、必要な栄養素を自ら摂取する行動が観測されることが知られています。
視床下部、大脳辺縁系の活動による性ホルモンの分泌に支配されて、性衝動や性行動が生じることです。
下等動物ではメスの性ホルモンの周期性が支配的ですが、高等動物ほど経験的な要因(認知的要因)が加わり、特に人は異性刺激が多様です。
動因低減説とは、Hull, C.L. (ハル)とMiller, N.E. (ミラー)が提唱した仮説であり、動因を低減する行動が強化されるというものです。行動がある刺激事態において生じる場合、その結果としてその動因が低減する場合には、その行動は同じような刺激事態において再び生起しやすくなります。
覚醒中枢が適度に活動しているとき心地よい(機能的快楽)ため、覚醒水準が低いと上げようとする動機づけが生じるものです。
視覚、聴覚などの外部刺激を遮断する「感覚遮断実験」を行うと、覚醒中枢への刺激が乏しくなり、人は著しく不安定になります。
「探索の動機付け」は、スリルを好む傾向や、好奇心の背景にある動機付けですが、活動の動機付けと類似の動機付けです。
認知論に基づく動機として、「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」があります。
項目 | 内発的動機づけ | 外発的動機づけ |
---|---|---|
説明 | 「内発的動機づけ」とは、内面の興味・関心やプロセスそのものが動機づけとなっている状態です(結果として得られる強化刺激のための行動ではなく、活動そのものが強化子)。 (例:一銭の得にもならない趣味の活動など) | 「外発的動機づけ」とは、報酬や罰則、目標といった外的報酬を得るために、手段・道具として行動をとっている状態です。 (例:学ぶためではなく、試験に合格するために勉強する。) |
特徴 | 内発的動機づけを支える要素としては「自己決定感」と「有能感」があるとされます。 持続性を維持し、創造性や責任感という点でも外発的動機づけより優れているとされます。 |
即時性(短期間で行動が変わる)が高いとされます。 外的報酬に対して目標とした水準以上の結果は得にくく、外的報酬に慣れてくると持続性が弱まり、より高い報酬を与えつづける必要があるとされます。 |
デシ(E.L. Deci)は、内発的動機づけの過程を説明する理論として「認知的評価理論」を提唱しました(参照:感情に関するArnoldの認知的評価理論)。
E.L. Deciによると「外的報酬によって、内発的動機づけが低下する」ことが生じます。
内発的動機づけによる行動に対して、報酬を与えると動機づけ(やる気)が低下する現象は「アンダーマイニング効果(現象)」と呼ばれます。(例:好きで行っていたパズルに、金銭的な報酬を与えるとパズルへのやる気がなくなる)
また、この現象は経済用語を用いて「内発的動機づけのクラウディング・アウト」とも呼ばれます。
一方、内発的動機づけが不十分な行動に対して、「社会的承認」という外的報酬が与えられると内発的動機付けが促進されることが報告されています。これは「内発的動機づけのクラウディング・イン」と呼ばれます。
認知的な動機付けの代表的なものにマレーの社会的動機があります。
Murray, H.A (マレー)は、社会的場面や他人との関係においてなす種々の社会的行動の動機を提唱しました。「マレーの社会的動機」と呼ばれます。代表的な3つの動機を説明します。
他者との友好関係を形成し、維持したいという動機です。子どもの甘え行動、仕草、顔立ち、姿形が親の養育行動を強制することもこれにあたり、下等動物ほど自動的です。これと関連して、自己と異なるものを排除しようとする、「排除動機付け」もあります。
自ら設定する目標(要求水準)を達成しようとする過程で生じる動機で、競争力の原動力であり、長期間の行動の推進力でもあります。
これが高い人は、行動の目標設定が現実的な傾向があり、課題達成の原因を内的要因に帰属するので、課題達成により自己効力感が高まります。また、たとえ失敗しても自己コントロールできる原因に帰属するので、行動の持続性が高いという特徴があります。
他者に認めてもらいたいという動機です。賞賛を博し、推薦されたいという要求、尊敬を求めます。
Maslow, A.H. (マズロー)は「人間は自分の全能力を発展させようとする「自己実現」に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定しました。
欲求階層説(欲求段階説)とは、人間の欲求を5段階の階層で理論化したものです。下記に低次の欲求から順番に記載します。
1段階: 生理的欲求 (Physiological needs) | 生きていくための基本的・本能的な欲求(食べたい、寝たいなど) |
2段階: 安全の欲求 (Safety needs) | 危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたい(雨風をしのぐ家・健康など) |
3段階: 社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging) |
集団に属したり、仲間が欲しい |
4段階: 承認(尊重)の欲求 (Esteem) | 他者から認められたい、尊敬されたい |
5段階: 自己実現の欲求 (Self-actualization) | 自分の能力を引き出し創造的活動がしたいなど |