ここでは、ストレスの理論についてまとめます。
用語:ストレス反応説(Selye) / ストレス刺激説/ライフイベント(Holmes & Rahe) / ストレス関係説・認知的評価(Lazarus) / 内分泌系ストレス反応
ストレスとは、「心身の適応能力に対して課せられる要求と、その要求によって引き起こされる心身の緊張状態を包括する概念」のことを指します。
その要求を「ストレッサー」、緊張状態を「ストレス反応」(内分泌系や自律神経系)と呼びます。
ストレスは、もともとは生体が何らかの対処の必要性を察知して、それに対処しようとする生理的な反応ですから、適度に対処可能なストレスがかかる事は、むしろ生体の活動性を高めます。
しかし、人が自然界とは異なる環境下で、原始的なストレス反応によっては対処できないストレッサーに持続的に晒されることが多くなり、不適応を起こしやすくなっています。
ストレスの学説としては、以下が代表的です。各説の詳細については、後述します。
Selye,H(セリエ)は、多様なストレッサーによってに誘起された非特異的な生体的な防衛反応をストレスと定義し、その反応を「汎適応症候群(GAS)」としました。これは、生物的ストレスともいわれる概念です。
つまり、対人関係、仕事上の要請、騒音、外傷などの不特定の多様なストレッサーにより、共通する症状である、イライラ、抑うつ、不安、身体症状などが引き起こされた状態がストレスであるという考え方です。
Selye,Hは、汎適応症候群は「警告反応期」「抵抗期」「疲弊期」の3段階で進むとしています。
1. 警告反応期:
心身に有害なストレッサーに対する警報を発し、ストレスに耐えるために、自律神経系(内分泌系も含まれる)を総動員して、内部環境を急速に準備する緊急反応の時期です。闘争・逃走反応とも呼ばれています。
初期の「ショック相」とその後のストレッサーへの適応が本格化し始める「反ショック相」にわかれます。
2. 抵抗期 :
ストレッサーへの適応反応が完成した時期で、持続的なストレッサーとストレス耐性が拮抗している時期です。
症状が治まり、抵抗力が増し、一見、生体が正常な機能を取り戻したように見える時期ですが、ストレスに抵抗し続けるにはエネルギーが必要で、そのエネルギーが消費し過ぎて枯渇すると「疲弊期」に突入してしまいます。
3. 疲弊期 :
長期間継続するストレスに生体が対抗し切れなくなり、段階的にストレッサーに対する生体の抵抗力(ストレス耐性)が衰え、病気になる時期です。
警告反応期のショック相に見られるような生体機能の低下や不適応が見られ、内分泌腺である副腎や胸腺が萎縮し、心拍・血圧・血糖値・体温も低下していきます。
また、不安や抑うつといった精神症状や、胃潰瘍などの消化器障害、免疫機能の不全(低下だけでなく亢進もある)などの身体症状も引き起こします。
ストレス反応として「視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)」を介した内分泌反応があり、様々な精神疾患との関連性が示唆されています。
血圧や血糖レベルを高めるホルモンである「コルチゾール」の分泌や、その起点となる副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(コルチコトロピン放出ホルモン:CRH)の分泌は、この反応に含まれます。
Selye,Hの学説は、ストレスの本質をよく説明していますが、人に特有の精神的なストレスについて十分に説明できないところがあります。
これに対して、「Holmes,T.HとRahe,R.H」は、生きる上で体験する「ライフイベント」(生活上の変化、家族成員の誕生や死、大きな失敗、環境変化などといった生活事件)を生活ストレスとして取り上げました。
ライフイベントに対して、調節するのに必要な時間の集中度と長さ(マグニチュード)が一定量に達すると様々な障害の原因となると考えました。
しかし、この考えにも、主観的な出来事への評価の個人差が反映されていないという問題があります。
Lazarus,R.S(ラザルス)とFolkman,S(フォルクマン)は日常生活にある比較的小さなストレス(日常生活のいら立ちごと)への主観的な「認知的評価」を重視した心理的ストレスモデルを提唱しました。
このモデルでは、認知的評価としては2つの側面があり、これらの評価の結果として情動的なストレス反応が生じるというものです。つまり、対処(制御)可能だと認知されるストレッサーにはストレス反応を生じないと考えます。
認知的評価には「1次的評価」と「2次的評価」があります。