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心理学用語集: 情動・感情

1 - 基礎心理学動機・情動・ストレス > 32- 情動・感情

 ここでは、情動や感情に関する理論をまとめます。
用語一覧:

  1. 情動の理論 :ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)/ キャノン=バード説(中枢起源説)/ 情動の二要因説 (Schachter & Singer)
  2. 感情の概念や起源 :基本感情説/ 次元論/ 認知的評価理論/ 情緒と認知の独立/ 感情の社会構成主義
  3. 感情が与える影響 :アージ理論/ 拡張―形成理論/ 気分一致効果/ 感情ネットワークモデル/ 感情情報機能説/ 感情混入モデル/ 感情入力説/ 認知容量説/ ソマティック・マーカー仮説
  4. 認知的評価と感情 :敵意帰属バイアス/ パラノイド認知
  5. フラストレーション・葛藤

情動とは

 情動(emotion)とは、感情の一種であり、急激に生起し短期間で終始する反応振幅の大きい一過性の感情状態であるとされます。気分(mood)は、中長期的にゆるやかに持続する感情とされます。

 (補足:▼情動の種類 - 恐怖・不安・怒り)


 情動の起源における代表的な考えには下記の3つが挙げられます。

  1. ジェームズ=ランゲ説(末梢起源説)
  2. キャノン=バード説(中枢起源説)
  3. 情動の二要因説(Schachter & Singer)
ジェームズ=ランゲ説 / 末梢起源説 :

 ジェームズ=ランゲ説は、心理学者のJames,W と Lange,C によって1890年に提唱され、「環境に対する身体的・生理学的反応の認知が情動を生む」という説です。
 「末梢起源説」とも言われ、情動は「1. 外部刺激→ 2. 身体反応→ 3. 身体反応の意識化→ 4.情動」の順に生じるとするものです。

 この説の応用としては、トムキンス(S. Tomkins)が提唱した「顔面フィードバック説」があります。これは、知覚された表情(身体反応)が、主観的な経験に影響を及ぼし、感情体験が生じるという考えです。
 例えば、笑うという表情が、幸せな気分をもたらすというものです。表情と気分の相関関係は認められている研究もあります。


キャノン=バード説 / 中枢起源説 :

 キャノン=バード説は、Cannon,W とBard,P によって1927年に提唱され、 「情動は、知覚の神経細胞の興奮が視床下部を介して、大脳皮質と末梢器官に伝えられ、情動体験(皮質)と情動反応(末梢)が起こる」とする説です。「中枢起源説」とも呼ばれます。

 Cannon,Wは、大脳皮質を除去された犬が「偽の怒り」と呼ばれる攻撃を伴わない威嚇の表出を見せることに着目し、視床下部が全て除去されるとこの行動が見られなくなることを発見しました。現在では、情動には視床下部以外に、大脳辺縁系、網様体、大脳新皮質なども関与していると考えられています。


情動の二要因説(Schachter & Singer):

 情動の二要因説は、社会心理学者のSchachter,S(シャクター)とSinger,J(シンガー)によって1964年に提唱され、『情動は身体反応による「生理的な喚起」とその原因の「認知的な解釈(ラベリング)」の両方の相互作用で生じる』という説です。

彼らは、大学生に興奮剤としてアドレナリンを投与する実験を行い、身体に与える影響(心拍上昇など)についての3つ教示と、アドレナリンの有無を注射を組み合わせて6グループを作りました。そして、怒りと喜びを誘う「サクラ」を入れた結果、身体反応が同じでも、状況(サクラ)によって感情が違うことが突き止めらました。
 つまり、感情は身体反応の知覚そのものではなく、身体反応の原因を説明するためにつけた「認知解釈のラベル」であると考えました。



感情の構成概念や起源に関する理論

 感情の構成や起源に関する理論としては、以下のようなものがあります。

  1. 基本感情理論(基本感情説):
     感情を特異な進化的適応反応であり、通文化的普遍性があると考える理論(各文化に共通した感情とその表情があると考える)。
     普遍性を持つ「基本感情」は、特定の刺激を知覚すると生じ、その固有の表情・姿勢が現れ、自律神経系の活動を引き起こすとされている。
     イザード(Izard,C.)は「興味・興奮、喜び、驚き、苦悩・不安、怒り、嫌悪、軽蔑、恐怖、恥、罪悪感」の10種類を、エクマン(Ekman,P.)は「幸福、怒り、悲しみ、嫌悪、驚き、恐怖」の6種類を基本感情に挙げている。
  2. 次元論
     ラッセル(Russell,J.)が提唱した理論。感情は「快一不快」の軸と「覚醒一睡眠」の軸の2次元上に配置されるという円環モデル。
  3. 認知的評価理論:
     感情の認知説であり、刺激と反応の間には認知的評価が介在するという説。アーノルド(Amold,M.)が提唱。刺激に対する多次元的評価が、行動傾向を導き、その行動傾向を引き起こす動機づけが意識されると、それが感情体験になると考える(参照:認知的評価と感情)。
     感情の心理的構成主義では、そのときどきのコアアフェクト(次元説で主張された快・不快と覚醒・睡眠度の2次元上の配置)に対して、個々人の認知的解釈が持ち込まれて主観的情動感が成立すると仮定する。
  4. 情緒と認知の独立:
     ザイアンス(R. B. Zajonc)が提唱。感情と認知はそれぞれに独立した処理過程であり、感情反応は認知的評価よりも優先されると考える(好き嫌いに理屈はいらないという事)。
     ザイアンスは、「単純接触効果」を提示したことでも有名。
  5. 感情の社会構成主義:
     感情を生物学的実体と考えず、個別の感情は文化によって社会的に構築されると主張する説。
     主観的情動感(感情の経験)が、文化特異的な感情概念や感情などに規定される、または感情は文化固有の社会化の産物であると考える(参照:社会構成主義)。

感情の表出と文化の関連:

 基本感情理論では、基本感情とその表情は普遍的であると考えますが、その表出には社会的、文化的な影響を受けます。
 感情表出の統制は、「社会的表示規則(与えられた状況に対し、社会的に適切な感情表現をすること)」の獲得によって行われるとされます。子どもが、社会的な慣習に従って、自分の感情表出行動の表示をモニターしたり統制したりすることを学び、社会的表示規則を獲得するとされます。

 感情の表出は「相互独立的自己観/相互協調的自己観」という観点からも違いをみることができます。




感情が認知等へ与える影響に関する理論

 感情が認知等に与える影響に関する理論を記載します。

  1. アージ理論
     「戸田正直」が提唱。人間の非合理な意思決定に関する感情・情動についての理論。
     狩猟採集によって暮らしていた時代には危険事態が多く、感情(恐怖心など)は生存において適応的であり、人は生存のために「感情=アージ」を発展させてきたとされる。迅速な環境適応のために進化してきたアージ(感情)は、現代社会においては局所的な適応となり、非合理的な判断を行ってしまうと考える。
  2. 拡張―形成理論
     フレデリクソン(B. L. Fredrickson)が提唱。ポジティブ感情は、「注意、思考、活動等のレパートリーの拡張」と「社会的、知的、精神的な資源の形成」という機能を持つという理論。
     拡張―形成理論は、「ポジティブ感情の経験」、「思考―行動レパートリーの一時的拡張」、「個人資源の継続的形成」、「人間のらせん的変化と成長」の4つのプロセスから説明されている。
  3. 気分一致効果
     気分一致効果とは、特定の気分が生じると、その気分と同方向(快・不快)の記憶の想起や、判断が促進される現象をさす。
     例えば、ポジティブな気分の時は、ポジティブな単語が想起される(記憶における効果)、肯定的な評価や予測をする(判断における効果)といった事が挙げられる。
     自分に関連しない情報は効果が生じにくい事が報告されている。また、気分のポジティブとネガティブで、効果の生じ方に違いがあることが報告されている(ポジティブ・ネガティブ・アシンメトリー:PNA現象)。
     ( 関連: 気分誘導法
  4. 感情ネットワークモデル:
     「G.H.Bower(バウアー)」が提唱。感情が活性化されると、それにつながっている自律的反応や表出行動、その感情を引き起こす出来事などの知識が活性化されるというモデル。また、その感情と逆の感情につながっている反応や知識は抑制される。
     感情ネットワークモデルは、持続エクスポージャー法などの認知行動療法に影響を与えたとされる。
  5. 感情情報機能説:
     人は評価・判断を行う際に手がかりが乏しいと、自己の感情状態を判断の基盤として用いるという考え。感情状態に引き付けられた方向に判断が傾く傾向にあると考える。
  6. 感情混入モデル
     感情が判断に与える影響の大きさは、処理される課題の難易度や重要度などの条件によって異なるという考え。
     このモデルでは、感情の影響を受けにくい(感情混入の少ない)2種類の処理方略と、感情の影響を受けやすい(感情混入の多い)2種類の処理方略が考えられている。
  7. 感情入力説:
     感情は人の行動の”持続”に関わるという考え(Martinら)。行動の持続を止めるルール(ストップルール)には、エンジョイルール(飽きを感じる:ネガティブ感情)や、イナフルール(十分やったと感じる:ポジティブ感情)があるとされる。
     同じ課題に取り組むにしても、教示次第で気分の示す意味を変えると行動の持続が変わる。
  8. 認知容量説:
     ポジティブな気分の方が、ネガティブの気分よりも、認知容量を多く使用するという仮説。
     ポジティブの気分の時には「ヒューリスティック処理(経験則的)」がなされ、ネガティブ気分時に「システマティック処理(分析的)」がなされることを説明する考え。
  9. ソマティック・マーカー仮説(感情ではなく身体的反応に関する説):
     意思決定において情動的な身体反応が重要な信号を提供するという仮説。情動的な身体反応の信号が意思決定には不可欠な役割を果たしているとされる。


認知的評価と感情

 感情に関する理論の一つである認知的評価理論では、刺激に対して認知的評価が介在した結果、情動反応が生じると考えます(関連:ストレス理論)。

怒り」の感情に関連した認知的評価である「敵意帰属バイアス」、「パラノイド認知」をまとめます。

  1. 敵意帰属バイアス:
     敵意帰属バイアスとは「ネガティブな出来事に直面した際に,それを相手の敵意によるものと認知しやすくなる傾向」とされます(文献 )。
     敵意帰属バイアスは、怒りの喚起を促進するとされます。また、児童においては、攻撃行動や不適応行動との関連が強いとされます。
  2. パラノイド認知:
     パラノイド認知とは「対人場面において他者の敵意が自分に向けられやすいと感じる認知スタイル」とされます(文献 )。
     パラノイド認知は、意図性の唆味な状況において他者の意図を敵意的に解釈させ、攻撃反応を喚起させるとされます。


フラストレーション・葛藤(コンフリクト)

 「フラストレーション」と「葛藤(コンフリクト)」についてまとめます。

フラストレーション:

 フラストレーションとは、「動機付けられた行動の欲求が何らかの障害により阻止された状態(=欲求不満状態)、および、それによる失望や挫折、落胆、いらだちなどの一連の不快な感情」をいいます。障害には、外的なもの以外に、価値観、遠慮、能力不足などという内的なものもあります。
 フラストレーションを感じると、生体は攻撃行動や迂回行動(代償行動)といった対処行動を取ります。例えば、暴飲暴食や、趣味に没頭したり、思い切り暴れ回ったりといった、さまざまな行動です。
 フラストレーションに耐える能力を「フラストレーション耐性」といい、心理検査法の「P-Fスタディ」で検査する構成概念です。


葛藤(コンフリクト):

 コンフリクト(葛藤)とは、「2つ以上の誘因・目標があり、それらの誘意性が相互に拮抗、抗争していて、行動が取れなくなっている状況」をいいます。フラストレーションの長期化したものもコンフリクトです。

Lewin,K(レヴィン)は下記のようなコンフリクトの3つのモデルを提示しています。

< 接近-接近型の葛藤 >

 好ましい2つの誘引が拮抗するものです。一時的に迷いが生じますが、多くの場合バランスが崩れて解消、または、時間的にずらして解決されます。( + <= 個人 => + )
例えば、ラーメンも食べたいし、カレーも食べたい、という状況です。

< 回避-回避型の葛藤 >

 回避したい誘引が拮抗するもので、どちらにも進めない苦境に陥ります。このとき、他にの誘引があれば、逃避的行動を取りますが、逃避できないときには、不安や抑うつを感じます。( - => 個人 <= - )
例えば、運動したくないし、食事制限もしたくない、という状況です。

< 接近-回避型 >

対象に両面価値(相反感情)が生じるもので、いらだちや不安を感じます。( +/- <=> 個人 )
例えば、食べたいが、太りたくもない、という状況です。



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