ここでは、情動や感情に関する理論をまとめます。
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情動(emotion)とは、感情の一種であり、急激に生起し短期間で終始する反応振幅の大きい一過性の感情状態であるとされます。気分(mood)は、中長期的にゆるやかに持続する感情とされます。
(補足:▼情動の種類 - 恐怖・不安・怒り)
情動の起源における代表的な考えには下記の3つが挙げられます。
ジェームズ=ランゲ説は、心理学者のJames,W と Lange,C によって1890年に提唱され、「環境に対する身体的・生理学的反応の認知が情動を生む」という説です。
「末梢起源説」とも言われ、情動は「1. 外部刺激→ 2. 身体反応→ 3. 身体反応の意識化→ 4.情動」の順に生じるとするものです。
この説の応用としては、トムキンス(S. Tomkins)が提唱した「顔面フィードバック説」があります。これは、知覚された表情(身体反応)が、主観的な経験に影響を及ぼし、感情体験が生じるという考えです。
例えば、笑うという表情が、幸せな気分をもたらすというものです。表情と気分の相関関係は認められている研究もあります。
キャノン=バード説は、Cannon,W とBard,P によって1927年に提唱され、 「情動は、知覚の神経細胞の興奮が視床下部を介して、大脳皮質と末梢器官に伝えられ、情動体験(皮質)と情動反応(末梢)が起こる」とする説です。「中枢起源説」とも呼ばれます。
Cannon,Wは、大脳皮質を除去された犬が「偽の怒り」と呼ばれる攻撃を伴わない威嚇の表出を見せることに着目し、視床下部が全て除去されるとこの行動が見られなくなることを発見しました。現在では、情動には視床下部以外に、大脳辺縁系、網様体、大脳新皮質なども関与していると考えられています。
情動の二要因説は、社会心理学者のSchachter,S(シャクター)とSinger,J(シンガー)によって1964年に提唱され、『情動は身体反応による「生理的な喚起」とその原因の「認知的な解釈(ラベリング)」の両方の相互作用で生じる』という説です。
彼らは、大学生に興奮剤としてアドレナリンを投与する実験を行い、身体に与える影響(心拍上昇など)についての3つ教示と、アドレナリンの有無を注射を組み合わせて6グループを作りました。そして、怒りと喜びを誘う「サクラ」を入れた結果、身体反応が同じでも、状況(サクラ)によって感情が違うことが突き止めらました。
つまり、感情は身体反応の知覚そのものではなく、身体反応の原因を説明するためにつけた「認知解釈のラベル」であると考えました。
感情の構成や起源に関する理論としては、以下のようなものがあります。
基本感情理論では、基本感情とその表情は普遍的であると考えますが、その表出には社会的、文化的な影響を受けます。
感情表出の統制は、「社会的表示規則(与えられた状況に対し、社会的に適切な感情表現をすること)」の獲得によって行われるとされます。子どもが、社会的な慣習に従って、自分の感情表出行動の表示をモニターしたり統制したりすることを学び、社会的表示規則を獲得するとされます。
感情の表出は「相互独立的自己観/相互協調的自己観」という観点からも違いをみることができます。
( 補足: ▼ 相互独立的自己観/相互協調的自己観 )
感情が認知等に与える影響に関する理論を記載します。
感情に関する理論の一つである認知的評価理論では、刺激に対して認知的評価が介在した結果、情動反応が生じると考えます(関連:ストレス理論)。
「怒り」の感情に関連した認知的評価である「敵意帰属バイアス」、「パラノイド認知」をまとめます。
「フラストレーション」と「葛藤(コンフリクト)」についてまとめます。
フラストレーションとは、「動機付けられた行動の欲求が何らかの障害により阻止された状態(=欲求不満状態)、および、それによる失望や挫折、落胆、いらだちなどの一連の不快な感情」をいいます。障害には、外的なもの以外に、価値観、遠慮、能力不足などという内的なものもあります。
フラストレーションを感じると、生体は攻撃行動や迂回行動(代償行動)といった対処行動を取ります。例えば、暴飲暴食や、趣味に没頭したり、思い切り暴れ回ったりといった、さまざまな行動です。
フラストレーションに耐える能力を「フラストレーション耐性」といい、心理検査法の「P-Fスタディ」で検査する構成概念です。
コンフリクト(葛藤)とは、「2つ以上の誘因・目標があり、それらの誘意性が相互に拮抗、抗争していて、行動が取れなくなっている状況」をいいます。フラストレーションの長期化したものもコンフリクトです。
Lewin,K(レヴィン)は下記のようなコンフリクトの3つのモデルを提示しています。
好ましい2つの誘引が拮抗するものです。一時的に迷いが生じますが、多くの場合バランスが崩れて解消、または、時間的にずらして解決されます。( + <= 個人 => + )
例えば、ラーメンも食べたいし、カレーも食べたい、という状況です。
回避したい誘引が拮抗するもので、どちらにも進めない苦境に陥ります。このとき、他にの誘引があれば、逃避的行動を取りますが、逃避できないときには、不安や抑うつを感じます。( - => 個人 <= - )
例えば、運動したくないし、食事制限もしたくない、という状況です。
対象に両面価値(相反感情)が生じるもので、いらだちや不安を感じます。( +/- <=> 個人 )
例えば、食べたいが、太りたくもない、という状況です。