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心理学用語集: 労働者管理法・ワークモチベーション

1 - 基礎心理学産業心理学 >67- 労働者管理法・ワークモチベーション

 ここでは、「労働者管理法」、「ワークモチベーション理論」、「ワーク・エンゲイジメント」及び「組織コミットメント」について説明します。
用語:

  1. 科学的管理法(Taylor)/ ホーソン研究(Mayo)・ホーソン効果
  2. ワークモチベーション理論
    欲求階層説(Maslow) / X-Y理論(McGregor) / 動機づけ-衛生要因理論(Herzberg) / 欲求理論(McClelland)
     期待理論(Vroom) / Atkinsonモデル衡平理論(公平理論:Adams) / 目標設定理論(Locke)
  3. ワーク・エンゲイジメント
  4. 組織コミットメント(存続的・情緒的・規範的)

科学的管理法とホーソン研究

 産業心理学においては、労働者の作業環境、作業効率、人間関係などの幅広く扱います。
 労働者のや作業効率に関する代表的な研究としては、Taylor,F.W.の「科学的管理法」と、Mayo,G.E.の「ホーソン研究」が挙げられます。


科学的管理法:

 「科学的管理法」とは、Taylor,F.W.(テイラー)によって生み出された労働者管理の方法論です。
 労働者の負荷のかからない一般的な作業条件や作業量や賃金率を体系的に設定するシステムであり、「課業管理」・「作業の標準化」・「作業管理のために最適な組織形態」の3つを原理とします。


ホーソン研究・ホーソン効果:

 「ホーソン研究」は、Mayo,G.E.(メイヨ―)によって行われた研究であり、ホーソン工場にて労働環境、作業時間、人間関係などの要因と生産能率との関連を調べたものです。

 ホーソン研究の結果からは、労働者の生産能率は、職場における「個人の人間関係や目標意識に左右される」ということが示されました。
 労働者間のインフォーマルな人間関係が、労働者の作業の「モラール(士気)」を高め、それが生産能率に影響を与えるとされます。
 ホーソン研究によって「経営管理論」だけでなく「人間関係論」の視点がもたらされました。

 ホーソンの研究から発見された現象として「ホーソン効果」があります。
 「ホーソン効果」とは、患者が信頼する治療者(医師など)に期待されていると”感じること”で、行動の変化を起すなどして、結果的に病気が良くなる現象をさします(良くなったように感じる、良くなったと治療者に告げるを含んでいる)。
 統計上において症状が改善されたようにみえることを、特に「統計上のホーソン効果」とよび、プラセボ効果の一部として統計上扱われる場合があるとされています。
 ホーソン効果は実験者効果(実験者が被験者の行動に及ぼす現象)に類似していますが、変化を起こす原因が異なります。実験者効果は「実験者のもつ期待」が被験者の行動に変化を及ぼしますが、ホーソン効果は「被験者が他者からの期待を感じている事」が被検者の行動に変化を及ぼすと言えます。



ワークモチベーション理論

 ワークモチベーションとは労働者が「目標に向けて行動を方向づけ、活性化し、そして維持する心理的プロセス」と定義されます。
 ワークモチベーションに関する理論は多数ありますが、ここでは、「内容理論」と「過程理論」、「その他」に分類し、代表的な理論をまとめます。

  1. 「内容理論」:何によって動機づけられるかの理論
     「欲求階層説(A.H.Maslow)」・「X-Y理論(D.McGregor)」・「動機づけ-衛生要因理論(F.Herzberg)」・「欲求理論(D.C.McClelland)」
  2. 「過程理論」:どのように動機づけられるかの理論
     「期待理論(V.H.Vroom)」・「Atkinsonモデル(J.W.Atkinson)」・「衡平理論(公平理論)(Adams)」
  3. 「その他」:「目標設定理論(E.A.Locke)」
X-Y理論:

 「X-Y理論」とは、McGregor,D.(マクレガー)によって提唱された動機づけに関わる経営手法に対する理論です。
 マズローの欲求階層説をもとにしながら、人間をX理論とY理論から捉えたマネージメント方法となります。

  1. 「X理論」(権限行使による命令と統制):
     マズローの欲求段階説における低次欲求を比較的多く持つ人間の行動モデルで「人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる」という考え方。
     命令や強制で管理し、目標が達成出来なければ処罰といった「アメとムチ」によるマネジメント手法となる。
  2. 「Y理論」(統合と自己統制):
     マズローの欲求段階説における高次欲求を比較的多く持つ人間の行動モデルで「人間は生まれながらに嫌いということはなく、条件次第で責任を受け入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」という考え方。
     魅力ある目標と責任を与え続けることによって、従業員を動かしていく「機会を与える」マネジメント手法となる。
動機づけ-衛生要因理論:

 「動機づけ-衛生要因理論」とは、Herzberg,F(ハーズバーグ)によって提唱されたモチベーションの理論です。
 人々に影響を与える職場の要因を「動機づけ要因」と「衛生要因」の「2要因」に分類しました。
 ワークモチベーションは、「動機づけ要因」を与える事によって高められますが、「衛生要因」の改善では高まるとは限らないとされています。

  1. 「動機づけ要因」: 人々に「満足」を与える要因
     達成、承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長
  2. 「衛生要因」: 人々に「不満」を生じさせる要因
     会社の方針と管理や監督、監督者や部下との関係、同僚との関係、個人生活、作業条件、給与、身分
欲求理論:

 D.C.McClelland(マクレランド)はワークモチベーションとして「欲求理論」を提唱しました。
 労働者には「達成動機(欲求)」、「達成動機(欲求)」、「親和動機(欲求)」という3つの主要な動機が存在すると考えました(類似:社会的動機)。

  1. 達成動機: 目標を達成し成功しようと努力する
  2. 権力動機: 他の人々に、何らかの働きかけて行動をおこさせようとする
  3. 親和動機: 友好的な対人関係を結ぼうとする


 「期待−価値理論」とは、人の行動の生起は「目標達成への期待」と「目標の価値(誘因価)」との関数であると仮定する諸理論の総称です。
 期待‐価値理論に含まれる「Vroomの期待理論」と「Atkinsonのモデル」を説明します。

期待理論:

 「期待理論」とは、Vroom(ブルーム)によって提唱されたモチベーションの理論です。道具性の理論とも呼ばれます。
 ワークモチベーションは、「期待(expectancy)」と「誘意性(value)」の積(かけ算)で表されます。

  1. 「期待」:ある行動が結果につながると考える主観的な期待
  2. 「誘意性」:その人にとってのその結果(例:業績達成など)の好ましさや魅力、重要性、満足感

 誘意性は、さらに行動の結果によってさらにもたらされる「二次的な結果(例:賃金や昇進など)の魅力(二次的な結果の誘意性)」と行動の期待が二次的な結果をもたらす上で「役立つ度合い(道具性:instrumentality)」の積として表現されます。

Atkinsonのモデル:

 「Atkinsonのモデル」とは、J.W.Atkinson(アトキンソン)によって提唱された達成行動の動機づけに関する理論であり、期待‐価値理論の1つとされます。
 個人のパーソナリティ要因である達成動機と、課題達成の成功の期待が、達成行動の生起を決定すると考えます。

  1. 成功への傾向(接近傾向)は、「達成動機、成功の確率、課題成功の魅力」の積で決まり、傾向が高いほど、達成への行動は起こりやすい。
  2. 失敗回避への傾向(回避傾向)は、「失敗回避動機、失敗の確率、失敗の不快さ」の積で決まり、傾向が高いほど、達成への行動は起こりにくい。
  3. 実際の達成行動への傾向は、成功への傾向と失敗回避傾向の合算によって決まる。

衡平理論(公平理論):

 「衡平理論(公平理論)」とは、Adams,J.S.(アダムス)によって提唱されたモチベーションの理論です。
 職場において、自分と他者の「仕事量に対する対価(報酬)」を比較し、不公平さを感じる場合、それを解消し公平となるように動機づけられるという理論です。

「自分得た結果・報酬」÷「自分の貢献」=「他者の得た結果・報酬」÷「他者の貢献」
となるように動機づけられます。


目標設定理論:

 目標設定理論は、目標設定がモチベーションに効果をもたらすかに関する理論であり、E.A.Locke(ロック)が研究しました。
 目標設定においては、「目標の困難度」、「明確な目標」、「フィードバック」が、パフォーマンスやモチベーションに影響を与えるとされます。

  1. 労働者が納得した目標においては「高い目標」ほど、より高いパフォーマンスをもたらす。
  2. 「明確で具体性を持った目標」は、曖昧な目標よりも高いモチベーションをもたらす。
  3. 目標設定に「フィードバック」が組み合わさると、モチベーション効果はより高くなる。



ワーク・エンゲイジメント

 「ワーク・エンゲイジメント」とは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態のことであり、下記の3つの要素から構成されます(参照:厚生労働省「令和元年版労働経済の分析」)。

  1. 活力: 仕事から活力を得ていきいきとしている状態
  2. 熱意: 仕事に誇りとやりがいを感じている状態
  3. 没頭: 仕事に熱心に取り組んでいる

 ワーク・エンゲイジメントは、バーンアウトの対極の概念とされます。
 ワーク・エンゲイジメントがプラスの影響を与えるものとしては、「組織コミットメントの向上」、「パフォーマンスの向上」、「離職率の低下」、「健康増進」などが報告されています。




組織コミットメント

 「組織コミットメント」とは「組織のために働きたいという意欲や、組織に留まりたい願望などによって特徴づけられる情緒的な愛着」などと定義されます(Porter, Steers,Mowday, & Boulian(1974))。社員の生産性や、離退職を予測できることなどから多くの研究が行われています。
 組織コミットメントの要素(種類)には、下記のようなものがあります(参考文献 )。

  1. 功利的/情緒的コミットメント
    「功利的」コミットメントは、個人が組織に対して支払うコストと組織から受ける報酬との均衡に基づくものとしてとらえます。
    「情緒的」コミットメントは、組織への愛着や深いかかわり、同一化に基づくものとしてとらえます。
  2. 行動的/態度的コミットメント
    「行動的」コミットメントは、個人の行動が組織を離れがたくなるプロセスとしてとらえます。
    「態度的」コミットメントは、個人が自己の価値や目標と組織のそれとが一致することを認識するプロセスとしてとらえます。

 Meyer & Allen(1991)は、功利的―情緒的,行動的−態度的という視点を統合・発展させ,組織コミットメントの構成要素を下記の3つと定めました。

  1. 「情緒的コミットメント」
    組織への愛着や深いかかわり、同一化に基づくもの
  2. 「存続的コミットメント」
    組織を去る時のコストや転職先の不足にもとづく組織への執着に基づくもの
  3. 「規範的コミットメント」
    組織への恩義から生じた忠誠心に基づくもの




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