ここでは「知覚」と「注意」に関してまとめます。
用語:
知覚とは、「感覚器の情報を学習・知識・経験により編集されたもの、及びその機能のこと」を呼びます。
知覚の元となる各々となる感覚情報(感覚モダリティ)に対して処理や統合がなされ、知覚が生じます(感覚モダリティ=感覚様相とはいわゆる五感のこと)。
( 補足:▼ 視聴覚情報統合 - McGurk効果 )
感覚モダリティの情報間に矛盾があるときには「視覚優位」の判断が働くとされます。
知覚には単純な情報を扱う「低次知覚」と複雑で多様なレベルの情報を扱う「高次知覚」があり、これを「知覚の階層性」と呼びます。
知覚の恒常性とは、刺激対象がある程度変化しても、「明るさ、大きさ、形、色、音」などの知覚においては、同一であると分別されることを指します。知覚に関わる様々な脳の特異的な処理のメカニズムのひとつです。
例えば、「異なる向きから見ても同じサイコロと知覚できる」、「照明の強さに関係なく対象物の色を同じと知覚できるなど」は知覚の恒常性によって説明されます。
知覚の恒常性は、知覚が感覚受容器の情報だけに依存せず、推論的な知性が補正を加えているために生じているということが考えられます。
(詳細:▼ 遠刺激/近刺激と分節化)
知覚の恒常性は、視覚で語られることが多いですが、聴覚など、他の感覚でも生じます。
ゲシュタルト心理学では、刺激をまとまりとして知覚することを「体制化」といいます。
その最も典型的なものが、視覚における「形の知覚」であり「図と地」や「プレグナンツの法則」といった概念があります。
Rubin,E.J(ルビン)によれば、一様な視野は知覚されず、異質な2領域があって初めて形が知覚され、2領域は「図」と「地」に分化します。「図」は形として浮き出して見える領域であり、「地」はその背景となる領域です。
Wertheimer,M(ヴェルトハイマー)によれば、複雑な図はなるべく簡潔で「良い」形にまとまりを作る傾向(群化)があるとされ、それを「プレグナンツの法則(傾向)」と呼びます。
群化が生じる要因は、「ゲシュタルト要因」と呼ばれ、「近接、良い連続、良い形、共通運命、閉合、客観的調整、類合、経験」といったものがあります。
空間知覚とは、複雑で多様な情報を扱う高次知覚であり、すべての感覚を動員して統合し、3次元的な外界空間を脳内で表現する機能です。その知覚された空間を知覚空間(空間枠組み)といいます。
空間知覚で重要な知覚が、遠近感や3次元的広がりの知覚である「奥行き知覚」です。
奥ゆき知覚は、手がかりとなる「2次元情報(きめの勾配・重なり・線遠近法的配置など)」や「3次元情報(両眼視差・両眼輻輳・運動視差)」を基になされます。
(詳細:▼ 奥ゆき知覚の手がかり)
「視覚的断崖」とは、ギブソンが、奥行き知覚能力の研究のために用いた実験装置のことです。高床式の台の半分を透明ガラスにした状態で、台の地柄と、ガラスを通して見える地柄が、勾配をなすようにしておき、断崖絶壁と知覚されるます。視覚的断崖は、社会的参照能力の実験にも用いられています。
「社会的参照」とは、共同注意の一つであり、乳児のある対象への評価や感情(恐ろしい、興味が湧くなど)が、親の表情などを見ることに影響されることです。
問題解決場面や行動選択場面において、周囲の表情や態度、反応を手がかりにして、情緒的な安定を導き、決定を行う能力でもあります。
視覚的断崖で、母親に向かって進んでいた幼児は、断崖を知覚すると止まってしまうが、母親の表情を確認することで、断崖を渡り安心して母親へ向かうことが確認されています。
「錯覚」とは、推論的な知覚の補正のため、外的刺激を客観的性質通り認識しない現象を指します。
代表的な錯覚には、視覚による錯覚である「月の錯視、幾何学錯視、色の錯視」、重さの錯覚である「シャルパンティエ効果(大きいほうが軽く感じる)」などがあります。
視覚による錯覚の1つである、幾何学錯視には「ミュラー・リヤー錯視(Muller-Lyer)」が有名です。同じ長さの線分の両端に内向きの矢羽を付けると長く見え、外向きの矢羽を付けると短く見えるという錯覚です。
「カニッツァの三角形(Kanizsa triangle)」の錯視は、物理的に存在しない輪郭線が知覚される現象であり「主観的輪郭」と呼ばれます。
主観的輪郭は、「知覚的補完(欠損した情報が、補われて知覚されること)」の現象の1つだとされます。
異なるものを並べるとその違いが強調される現象は「対比効果」と呼ばれ、似たものは同じであると知覚される現象は「同化効果」と呼ばれます。
対比効果や同化効果によって、色や明るさの錯視が生じます。
「マッハバンド(マッハの帯)」は明るさの錯視の一種であり、微妙に濃淡の異なるグレーの領域が接触している場合に、暗い方の領域の境界付近はより暗く、明るい方の領域の境界付近はより明るく強調されて見える現象です。
「残効」とは刺激が除去されたのちに残るなんらかの効果であり、残像などが含まれます。
「McCollough効果(マッカロー効果)はマッカローによって発見された残効です。縞刺激の方向とその背景色に生じる色の残効であり、方向随伴性色残効とも呼ばれます。
運動知覚は、網膜像(視覚)と随意運動、運動視差などが中枢で処理された結果としての「知覚空間内での運動」に対する知覚です。
典型的な運動知覚は視覚的運動で「運動視」とも言われます。
運動視の特徴は「仮現運動」、「誘導運動」、「自動運動」、「運動残効」といった現象から理解できます。
運動視に関連した現象としては「フラッシュラグ効果」があります。この現象は、運動している対象と隣合う位置に一瞬別の静止対象を呈示すると、両者の位置がずれて見えるというものです(運動とは反対方向にずれて見える。サッカーのオフサイドの誤判定をもたらす要因ともいわれる)。
静止網膜像の実験とは、実験的に網膜上を全く動かない像を作った知覚実験です。
このような静止像は、すぐに消失し見えなくなりますが、少しでも動くとすぐに見えます。この実験は、知覚には変化が必要である事を示しています。
また、輪郭や点の集まりで示された人やものにおいて、その輪郭や一連の点が動くと何かがわかることがあります。これは、刺激要素間の実際には存在しない因果関係が知覚されていることを示しています。
心的回転とは、イメージ空間で3次元の物体を回転させる操作をいい、「空間知覚」と「運動知覚」を含む脳の高次機能を指します。
イメージ空間での運動や操作は、現実の空間における運動や操作と対応しています。
注意に関する現象や機能に関してまとめます。
「選択的注意」とは、多様な情報が渦巻くような環境条件下において、その個人にとって重要な情報のみを選択し、それに注意を向ける認知機能を指します。
選択的注意に関する現象や研究として、「カクテルパーティー効果」、「両耳分離聴の実験」があります。
「カクテルパーティー効果」とは、選択的注意の代表的な現象の一つであり、音楽や多くの話し声があるパーティ会場のような騒がしい場所でも、特定の人と会話ができることを指します。
「両耳分離聴の実験」も選択的注意を示す実験として有名です。この実験は、左右の耳に別々に文章を聞かせるもので、指定した耳から聞かされた文章だけが追唱できるという結果が得られました。
この結果から、感覚記憶から短期記憶へ移行する際に選択的注意が働くとされています。
その他の注意に関する現象として「ストループ効果」と「変化の見落とし」についてまとめます。
「ストループ効果」とは、文字意味と文字色のように同時に目にするふたつの情報が干渉しあう現象のことです。
例えば、色名を答える質問を行った場合、青インクで書かれた「あか」の色名(『あお』)を答えることに時間がかかる現象です。
また、文字の意味を答える質問を行った場合、青インクで書かれた「あか」の意味(『あか』)を答える場合の方が時間がかかる事を逆ストループ効果と呼びます。
「変化の見落とし」とは、実際には視覚的に十分認知可能と思われる物理的変化を被験者に与えているにも関わらず、それを検出できない、もしくは被験者自身が驚くほど遂行成績が悪くなる現象のことを指します。