ここでは、「乳幼児の発達過程・検診(身体的・精神的発達過程と乳幼児健診)」と「乳幼児発達に関する研究方法」についてまとめます。
用語:
乳幼児の発達過程
乳幼児研究法(馴化-脱馴化法, 選好注視法, 期待違反法, スティルフェイス実験)
人の発達において、最も重要なのものの一つが乳幼児期の発達です。ここでは、その基礎となる具体的な発達過程の概要を整理しておきます。
乳幼児の「身体的・認知的発達」「言語発達」「情動発達」と、乳幼児の健診については下表にようになります。(関連:ヒトの成長)
内容 | 説明 | 新生児〜1ヶ月 |
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身体的・認知的発達 | 泣く、体を動かすといった行動を取り、生理的な欲求などを表現します。生後から視線と意図を検出する二項関係が見られます。 |
言語発達 | アーアー、アウーなどの生理的な発声である「クーイング」が、「生後1か月〜2か月くらい」からみられます。 |
情動発達 | 「快(充足)、不快(苦痛)、興味」という感情を備えているとされます。 |
乳幼児健診 | 新生児:外表奇形、先天性代謝異常などのチェック。 1ヶ月:成熟度、呼吸や哺乳状況、原始的反射などのチェック。 | 生後3ヶ月〜4ヶ月 |
身体的・認知的発達 | 顔の基本的特徴に注目し母親と他の女性を区別するようになります。「笑う、声を出す、動くものを追う」などの精神発達・運動発達がみられ、また、別々に発達する感覚の統合が進みます。4ヶ月児で既に別の物が空間上で重ならないという空間認識を持っています。 |
言語発達 | バババやバブバブと同じ音を繰り返す「喃語」(バブリング)がみられ始めます。「基準喃語(規準喃語)」とは、「子音+母音」の構造をもった喃語で、ババ(baba)、ダダ(dada)などの事です。 喃語は10ヶ月過ぎから減り始めます。 |
情動発達 | 「喜び、悲しみ、嫌悪、興味」という感情が現れてくるとされます。 |
乳幼児健診 | 首の座り、神経・運動の発達、注視のチェック。4ヶ月で首が座らない場合は、脳性麻痺や知的発育遅滞などが疑われる。 | 生後6ヶ月〜7ヶ月 |
身体的・認知的発達 | 寝返りによる視野の広がりや視覚と運動協応が発生します。生後5ヶ月ごろからみられる「リーチング(目の前にある物に触れようとすること)」が完成し、さらにハイハイによる移動も可能になり空間の広がりと触れたものを認識するようになります。 手の届く世界の物と人は個々に安定しているという世界が成立しています。人見知りが激しくなる時期でもあります。 |
情動発達 | 「怒り、恐れ、驚き」の感情が現れてくるとされます。生後半年後までに基本的感情(喜び、悲しみ、嫌悪、興味、怒り、恐れ、驚き)が現れます。 |
乳幼児健診 | 寝返り、座位、視覚・運動協応、はいはいのチェック。 | 生後9ヶ月〜10ヶ月 |
身体的・認知的発達 | 両手を持ったり打ち付けたり、つたい歩きができるようになり、探索活動が活発になります。 移動の経験で世界が広がり、対象の永続性(見えなくなっても、そこにある)、空間的理解(別のものとの位置関係で理解)ができてきます。 他者の注意の所在を理解し、その注意の対象に対する他者の態度を共有する「共同注意(指さし行動・視線追従・社会的参照)」がみられ始めます。 |
乳幼児健診 | 立位などをチェック。 | 生後1歳(12ヶ月) |
身体的・認知的発達 | 9ヶ月から見られはじめた共同注意が成立することによって、対象物を介して他者と意思を共有することが可能となります。 |
言語発達 | 喃語と相まって、無意味の言葉の羅列である「ジャーゴン」が増加します(例:だがご、ててれ)。その後、喃語に”意味”の加わった「初語」(マンマ、ブーブ、など)も見られはじめます。 1歳に達するまでに、徐々に母国(幼児が自然に習得する言語)ではない、非母語の音韻に対する識別力は弱くなります。音韻とは同類の言語音としてひとまとめにできるものです。 |
乳幼児健診 | 歩行、喃語(なんご)のチェック。 | 生後1歳半〜2歳 |
身体的・認知的発達 | 運動機能がめざましく発達し、身体のコントロールが進みます。 外の大きな世界の認識し始め、身の回りの様々な出来事を表象として捉え、記憶し、後で使えるようになります。 心の理論は、生後1歳半から見られ始め、4歳ぐらいまでには獲得するとされます。 |
言語発達 | 言語の獲得が進み、対象のカテゴリー化が起こり、次々とそれを命名します(命名の爆発/語彙爆発)。手順の獲得により、2〜3個の連続した出来事を記憶し再構成できるようになります。 |
情動発達 | 客観的自己意識(自己参照行動)という認知能力の獲得によって、「てれ、羨望」という感情や「共感」が現れるとされます。 |
乳幼児健診 | 2、3語話す、手足の運動発達チェック | 生後3歳 |
身体的・認知的発達 | 基礎的な運動能力が育ち(全身運動)、話し言葉の基礎が身に付き、食事や排せつなども自立してできるようになります。 指先も器用となり、はさみや箸が使えるようになり、社会性の発達が徐々に見られます。また、「なぜ」の質問が盛んとなり知識欲が強くなります。 |
情動発達 | 自分の行動を基準と比べて評価するようになり、「驕り、誇り、恥、罪」という感情が現れるとされます。 |
乳幼児健診 | 手足の細やかな動きや運動のチェック。 |
補足#1: ▼ メタ言語能力の発達
補足#2: ▼ DOHaD仮説
共同注意(joint attention)とは、「他者の注意の所在を理解し、その注意の対象に対する他者の態度を共有すること」や、「自分の注意の所在を他者に理解させ、その対象に対する自分の態度を他者に共有してもらう行動」を指します。
生後9ヶ月から見られ始め、1歳半までには成立するとされます。共同注意は三項関係における行動であるとされます。
「三項関係」とは、「自己」と「他者」と「モノ」の三者の関係を表します。二項関係とは、「自己と他者」または「自己とモノ」という2者間の関係です。
共同注意の行動には下記のようなものがあります。
乳児の原始反射は動物としての人間に先天的に備わっている反射行動で、生後短期間に消失するものをいい、主に以下のようなものがあります。順番は、早く消失するものから順番に並べています。
ここでは乳幼児発達に関して実施されてきた研究方法についてまとめます。
馴化(じゅんか)とは、ある刺激がくり返し提示されることで、その刺激に対する反応が徐々に見られなくなる現象です(馴れ、慣れ)。
「馴化-脱馴化法」は、見慣れたものより目新しいものを長く見つめるという特性を利用した乳児の視覚や認知に関する研究法です。乳児の再認記憶の有無を確かめる方法の1つでもあります。
馴化-脱馴化法では、同じ視覚刺激を繰り返し提示して、注視時間を測定します。その後、視覚刺激を別のものに変えて、再び注視時間を測定します。
刺激に対する注視時間の回復や、吸啜反応(吸てつ)の変化を指標とすることができます。
「選好注視法」は、興味のあるものを長く見つめるという特性を利用した視覚や認知に関する研究法です。
乳児に2つの視覚刺激を同時に提示し、左右の位置をランダムに変え、どちらに対して長く注視するかを測定します。
「オペラント選好注視法」とは、一方を注視した場合にだけ行動が強化される好子(乳児が喜ぶご褒美など)を与えると、好子が与えられる視覚刺激をより注視するようになるという方法です。
「期待違反法」は、対象の振る舞いに関する乳児の期待を調べる方法です。乳児が知っていることと(期待していること)とは異なる事象を呈示して、乳児がどれだけ興味や驚きを示し、長く注視するかを見ます。
「スティルフェイス実験(スティルフェイスパラダイム)」は、乳児の社会的随伴性を調べる方法です。社会的随伴性とは、他者とのやり取りにおける相互作用の流れであり(刺激-反応-環境変化)、やり取りの順番(ターンテイキング)などを含むとされます。
スティルフェイス実験では、対面で子と相互交流をしていた母親が突然無表情になり、相互交流しなくなった時の、乳児の反応の変化をみます。乳児は母親に対応し、視線や笑顔の減少といったスティルフェイス効果(無表情)を示すかどうかを調べます。