ここでは、「思考と内言・外言」、「推理・推論」、「素朴理論」についてまとめています。
用語:思考・内言・外言(Piaget/Vygotsky) / 推理・推論 /素朴理論(心の理論/信念-欲求心理学)
思考とは、「内化された心的表象、概念、言語を操作する心的過程」とされています。
思考に関する理論としては、ピアジェとヴィゴツキーの理論が挙げられます。
ピアジェは、思考には、「1. 動作を通した思考や具体的な対象についての思考」と
「2. 抽象的で論理的な思考」があり、前者には、言語は不要であり、後者は言語によって完成すると考えました。
そして、「内言」とは、「頭の中で概念操作するために使われる言語」であるとしました。
内言の獲得過程において、思考が影響を受け、抽象的で論理的な思考が完成していくと考えました。
ヴィゴツキーは、人の思考(高次精神機能)は心理的道具としての記号である言語により媒介されると考えました。
ヴィゴツキーは、外言(社会的言語)とは「他人に話す言葉」であり、それに対して、内言とは「考えるための言語」であるとしました。
思考はそもそも言語使用する場面で起こる相互作用と切り離せないものであり、「まず個人間で交わされる外言(精神間機能)から始まり、その痕跡が個人内に内化されることで内言(精神内機能)へと転化する」と考えました。
そして、内言による個人内での対話が「思考そのもの」であると考えました。
なお、発達に関するヴィゴツキーの理論では発達の「最近接領域(ZPD)」が有名です。
(詳細:▼ 最近接領域)
ヴィゴツキーは、幼児期の内言の発達の過程では、未分化で不完全な内言が発声され、これを「自己中心語」といいました。
一方、ピアジェは、自己中心語は、子供のひとり言であり、内言が漏れたもので、非社会的言語(伝達機能を持たない)としました。
大人のひとり言は、内外言と呼ばれ、子供のひとり言とは別物であるとされます。
思考に関連した推理・推論について記載します。
推理(推論)とは、既知の前提から、新しい結論を導き出す思考の働きやその過程および結論をいいます。
推理・推論に関する課題としては、「ハノイの塔課題」や「ロンドン塔課題」があります。検査法の一つである神経心理学検査に用いられます。
以下の表に推論の種類を記載しました。
帰納法 | 個別事例から一般的原理を引き出す方法です。 蓋然性の高い結論は得られても、それが正しいかどうかは定かではありません。この方法は、概念の形成や言葉の獲得などに用いられ、学習の基礎になっていると考えられています。 |
演繹法 | 一般原理から個別事例を推論する方法です。 正しい用い方をすれば、正しい結論に到達する方法ですが、誤りを犯すことがよくある考え方です(例:命題の対偶は成立するが、裏が必ずしも成立しないことを無視したりすることによる誤り) |
類推による推理 | AとBに類似性があるとき、Aの性質がBにもあるのではないかと推論する方法です。 この方法は、論理学では重要ではありませんが、心理学では重要です。 |
転導推理 | 特殊な個別事例から個別事例を推理する方法です。 論理的には矛盾していますが、幼児の推理には特徴的に見られる方法で、素朴理論とも関係があります。 |
素朴理論とは、主にこどもが、「経験的なある思い込みにより概念形成している考え方」のことです。
これは、学習の初期には促進効果を持ちますが、実存物との混同により誤解を生じる原因にもなります。
心の理論とは、「種々の心的状態を区別したり、心の働きや性質を理解する知識や認知の枠組み」で、心に関する素朴理論です(D.PremackとG.Woodruffが1987年のチンパンジーを対象とした研究論文で初めて用いる)。
生後1歳半(18ヶ月)から見られ始め、4歳ぐらいまでには獲得するとされます。
心の理論の検査としては、「サリーとアンの課題」が有名であり、「誤信念課題」の一つです。
サリーとアンの課題は、自分の視点以外(サリーの視点)に立てるかどうか、そして、サリーが持っている「玉は、カゴの中にある」という信念を理解できるかどうかを、テストする課題です。自閉症の子供は、心の理論の習得に困難がみられると言われています。
ウェルマンの「信念-欲求心理学」とは、ある行為を意図的にするということは、「欲求を持ち、かつ、その欲求を満たすのに役立つと信じる行為を行うこと」だと考えます。
人の意図的な行為(行動)を素朴理論(経験的なある思い込みや考え方)で説明するものです。
ここでいう信念とは、「行為者の知識、確信、考え、意見の総称」で、知覚より作られます。
欲求とは、欲望から目標までを含む広い意味を持ち、基本感情により作られます。