ここでは、「自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)」(ASD: Autism Spectrum Disorder)についてまとめます。
自閉スペクトラム症とは、ICD-10の診断名である「自閉症(自閉性障害)」や「アスペルガー症候群」(DSM-5以前のアスペルガー障害)などを含んだ包括的な概念であり、障害を連続体として捉えます。
用語:
自閉症は、「Kanner,L.(レオ・カナー)」が、1943年に「早期幼児自閉症」を提唱したのが始まりとされます。
その後、1944年に「Asperger,H.(ハンス・アスペルガー)」が「自閉精神病質」を提唱したのがアスペルガー症候群の最初であるされます。アスペルガー障害は、”知的障害のない自閉症”とも呼ばれ、言葉や認知的発達に遅れはないという特徴があります。
1981年に「Wing,L.(ローナ・ウィング)」が「アスペルガー症候群」という名前を始めて導入しました。
2013年に公開されたDSM-5において、ICD-10に含まれている「自閉性障害(自閉症)」、「アスペルガー症候群」、「小児期崩壊性障害」などを包含した診断名として「自閉スペクトラム症(自閉スペクトラム障害)」が定義されました。
自閉症の原因は、養育の問題ではなく、遺伝的な器質的要因が大きいとされていますが、わかっていないことも多いとされます。
男女比としては、2倍〜10倍と幅がありますが「男子が多いこと」が報告されています。
自閉スペクトラム症は、ローナ・ウイングの「三つ組の障害」と呼ばれる「社交性・コミュニケーション・想像力」の3つの障害から成り立っていると言われます。
他者との交流がスムーズにいかない障害です。
「視線が合わない、表情や身振りなどの非言語的な行動がとれない、仲間関係を作ることの失敗、楽しみや達成感などを他人と分かち合うことを自発的に求めない」等の特徴が挙げられます。
乳幼児にしばしば見られるサインは、「共同注視と指差しの欠如」です(指した指の方向を同じように見てくれない)。
言語性及び、非言語性のコミュニケーションに偏りがある障害です。
会話に不自然さやぎこちなさがあり、言葉に遅れがある、延々と話し続ける、丁寧すぎる、細部にこだわる、コピー的である、不自然にくだけた口調である等の特徴が挙げられます。また、表情や声のトーンなど非言語性コミュニケーションの理解の難しさがあります。
統語論(文法などの理論)の問題と言い切れず、意味論(語が表す意味の理論)、語用論(意味をどう理解するか)の障害が大きいという指摘があります。
見えないものを思い浮かべる能力(想像力)の障害です。このことが「こだわり」、「興味の偏り」に直結しています。
「ごっこ遊び」が欠如する、再生的なものとなる、相互遊びができない等の特徴が挙げられます。
障害のタイプとして、「孤立型(相手が存在しないかのように振舞う)」、「受身型(従順で問題行動が少ない)」、「積極奇異型(他者に対し関心を持ち、質問攻めや一方的に話す)」があります。
「受け身型」は問題がないように見えるため、学校で放置される危険性が高く注意が必要とされます。
自閉スペクトラム症の認知特性に関する理論として「心の理論障害説」「中枢性統合の弱さ」「実行機能障害説」といったものがあります。
自閉症の説明としてよく用いられるのが、通常は3〜4歳頃に獲得される「心の理論」の発達の遅れです。
心の理論とは、「種々の心的状態を区別したり、心の働きや性質を理解する知識や認知の枠組み」です。与えられた情報から他者の心の状態を推し量ったり、ある信念や欲求・意図のある人はどのような行動をとるか理解したり予測したりするために必要とされます。
心の理論の獲得は、「サリーとアンの課題」(サリーが探すボールの場所はどこかを答える)で、検証されます。
中枢性統合の弱さとは、情報を統合して「全体の意味」を求める指向性や意欲の傾向が低いということです。
部分の意味が全体の意味につながらず、目の前の出来事にこだわる、細部にとらわれ大局的に判断することが難しいといった特性を説明するものです。
実行機能の障害は、「新たな事態」において、自分で「目標の設定や計画を立てて実行する事」が難しいということです。
実行機能の障害によって、パターン化・マニュアル化されていない事や予測がつかないことに直面すると、対応する計画変更ができないことなどで不安になるため、常同行動をとっているとされます。
DSM-5における自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)の診断基準は、「A.社会コミュニケーション、相互関係の持続的障害」と「B.行動、興味、活動の限定された反復された様式」の2つが主となっています。
「B.行動、興味、活動の限定された反復された様式」には、「感覚過敏」も含まれています。
A.社会コミュニケーション、相互関係の持続的障害
B.行動、興味、活動の限定された反復された様式
DSM-5では自閉スペクトラム症の重症度が、「レベル1(支援を要する)」・「レベル2(十分な支援を要する)」・「レベル3(非常に十分な支援を要する」)の3段階に定義されています。
DSM-5において、自閉スペクトラム症に包含または除外された診断名をまとめておきます。
<包含された診断名>
自閉症、アスペルガー障害、小児期崩壊性障害
<除外された診断名>
レット障害
自閉スペクトラム症の心理検査としては、下記のような検査が挙げられます。
<質問紙による検査>
<親・保護者への面接による検査>
<行動観察や面接による検査>
「M-CHAT」(Modified Checklist for Autism in Toddlers)は、「乳幼児期自閉症チェックリスト」の事であり、自閉症のスクリーニング検査です。
2歳前後の乳幼児を対象としており、日本では18か月児(1歳6ヶ月検診)に対して導入されています。
親記入式の23項目の質問紙であり、「社会的行動、特異的知覚、常同行動、言語理解」に関する質問項目があります。
「AQ-J」(Autism-Spectrum Quotient)は、「自閉症スペクトラム指数日本語版」であり、自閉症のスクリーニング検査です。
50項目からなる質問紙であり、成人(16歳以上)向け以外にも、児童版があります。成人は「33点」、児童版は「20点」がカットオフであり、それ以上が自閉症傾向があるとされます( 参考文献 )。
「ADOS-2」(Autism Diagnostic Observation Schedule Second Edition)は、「自閉症スペクトラム評価のための半構造化観察検査」です。
対象は「月齢12カ月以上」であり、検査用具や質問項目を用いて、対象者に「行動観察と面接」を行い、自閉スペクトラム症(ASD)の評価を行います。「5領域に対する行動評価(言語と意思伝達、相互的対人関係、遊び・想像力、常同的行動と限定的興味、他の異常行動」と「DSMの診断モデルに基づくASDの判定と、重症度の目安の評価」が特徴です。
自閉症児・者に対する援助としては、対人関係を円滑に行うための社会的スキルの獲得や、問題行動の改善、自発的な行動形成などを目標として行われています。
TEACCHプログラムや応用行動分析などによる援助があります。また、教育アプローチのモデルとして、SCERTSモデル(サーツモデル)があります。
TEACCHプログラムとは、アメリカノースカロライナ州で行われている全州規模の自閉症児・者に対するプログラムです。
自閉症児者の”生涯”にわたる支援サービスで、「診断・評価に始まり、家庭療育への支援、教育現場へのサポート、居住プログラムや職業プログラムへの援助」を行います。乳幼児期から成人期までの一貫した支援システムとなっています。
生活や学習の環境を構造化するということが重視されています。「構造化」とは、さまざま場面で、自閉症児・者が言動の意味を理解し、期待されている事を伝えるための方法です(例:視覚化によって、いつ、どこで、何をするなどを伝える)。
応用行動分析(Applied Behavior Analysis)は、行動変容法(行動修正法)とも呼ばれ、スキナーのオペラント条件付けの理論を背景意図した応用行動分析モデルによる技法です。
自閉症児や、他の発達障害児に対して問題行動を改善するために用いられます。
SCERTモデルとは、自閉症スペクトラムの人たちの社会コミュニケーションや情動調整の能力を支援するための包括的な教育的アプローチです。
SCERTモデルは、「社会コミュニケーション(Social Communication)」、「情動調整(Emotional Regulation)」、「交流型支援(Transactional Support)」の3つの領域からなります。