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心理学用語集: 言語の獲得理論

1 - 基礎心理学発達 > 46- 言語の獲得理論

言語の獲得については、様々な仮説や理論が展開されています。
 ここでは言語の獲得に関する理論と、そのほか、言語に関連する理論についてまとめます。
用語:

  1. 言語の獲得:  変形生成文法理論(Chomsaky) / 言語相対性仮説(Sapir-Whorf) / 学習理論マザリーズ言語学習の制約論(マークマン)
  2. 言語獲得の関連用語:  自己調整機能(自己抑制・自己主張)
  3. 言語学の用語:  語用論(Griceの会話の公理/協調の原理) / 認知言語学

変形生成文法理論:Chomsaky,N.A(チョムスキー)

 発達の重要な側面である言語の領域において、基本的な言語機能が生得的に備わっているとするのがChomsaky,N.A(チョムスキー)の「変形生成文法理論」です。
 子供は、文法的な文を全て記憶するのではなく、有限の文法文から無限の文法分を生成するというものです。

 この理論では、言語(文法)は生得的に備わる心的器官である「言語習得装置(LAD)」によって決定されると考えます。
そして、文法の基本部分(普遍文法)は生得的に決まっていて、その可変部分(言語習得関数)が経験により決定されて個別の言語が生成されます。

  1. 深層構造とは、規則的な構造持った文の原型のこと。深層構造に含まれている単語の並びの規則を表したものを句構造規則。
     (句構造規則の例:英語の文は名詞句と動詞句の順番からなる)
  2. 表層構造とは、実際に表出された文章のこと。深層構造が変形規則によって表層構造となる。
     (例:英語の深層構造SVOが変形規則により疑問形はOSV?となる)


言語相対性仮説:サピア=ウォーフの仮説

 言語が、人の外的事象に対する認知的処理(思考の型や認識など)を規定するという仮説について説明します。この考えは、人の高次精神機能は言語により媒介されますが、言語化できないものは高次な認知が困難であるということを示しています。

 Sapir,E、Whorf,B.L(サピア=ウォーフの仮説)の「言語相対性仮説」とは、母国語となる言語によって語彙や構文法などには偏りがあり、このことが民族的な認知・思考の偏りを支配しているという説です。

この仮説には、「言語が人の思考を支配する」という強い仮説と、「言語が思考の傾向に影響を与える」という弱い仮説があります。



学習理論による言語獲得過程 : Skinner(スキナー)

 学習理論による言語獲得過程とは、「子供は、大人の言語を模倣し、正しければ強化、誤っていれば罰を受け、選択的な強化を受けるために正しい言語を学習して獲得する」という考えです。
Skinner(スキナー)によって提唱されました。

 この理論には、子供は、大人からすべての言語について模倣できるわけではないし、常に強化を受けているわけではないという疑問点が残りますが、言語獲得の一つの側面を表していると考えられます。


マザリーズ :

 マザリーズ(motherese)とは、母親を始め、大人が乳幼児に向けた、意識するしないにかかわらず自然と口をついて出る、声の調子が高くゆったりとしたリズムの話し方をいいます。
 このマザリーズや対乳児音声の働きに関して一般的には、子供の言葉の発達を促進するように働くと仮定されています。




制約論 : Markman.E.M(マークマン)

 Markman, E.M. (マークマン)は、人間が言葉の意味を理解する学習プロセスに大きく3つの制約があるとする制約論を考えました。
モノ(事物)が提示されてそのモノを指し示す『言葉(単語)』が語られたときには、以下の制約があるとされます。

事物全体制約 語られたその言葉は『モノの部分』ではなくて『モノの全体』を指示するという制約のこと。
事物分類制約 語られたその言葉は『モノが所属するカテゴリー』を指示するという制約のこと。たとえば幼児は、言葉を特定事物に対してではなく、それと形の似たもの全般(カテゴリー)に適用する傾向がある。
相互排他性 『一つのモノ(対象)』には『同一カテゴリーに属する名称』しかつかないという制約です。『一事物一名称の原理』と呼ばれることもあります。「犬」を猫やライオンなどと呼ぶことはできないという傾向です。




言語の獲得・発達が関連する概念

 言語は、思考の発達や自己調整機能などに影響を与えるとされます。
 ここでは、「言語の思考の関係」以外の用語について記載します。

自己調整機能/自己制御機能の発達:

 「自己調整機能」とは、状況に応じて、自己の情動や行動を制御する機能であり、同様の概念に「自己制御機能」、「自己統制」があります。
 自己調整機能には、「自己抑制(集団場面で自分の欲求や行動を抑制、制止する)」と「自己主張(自分の意思を他人や集団の前で主張する)」の2側面があるとされます(参照)。
 自己抑制も自己主張も、3歳から4歳にかけて発達することは複数の研究で一致した結果となっています。


 「個体内コミュニケーション」とは、心のなかで自分に言い聞かせたり、自分と会話したりすることを意味します。
 Luria,A.(ルリア)によれば、人の自己調節機能(自己制御機能)の発達には、言語の獲得と個体内コミュニケーションが関与しているとされます。

  1. 1歳半までは、言葉の発動機能により行動が促進されるが、言葉の意味的側面に応じた行動の調節はできない。
  2. 3、4歳になると、外部からの言葉の意味に応じた行動ができるようになる。
  3. 5、6歳になると、自分自身に向けた言葉の意味に応じた行動の調節、つまり「言語的な自己調整機能」が獲得され、意思的な振る舞いができるようになる。



語用論

 語用論とは聞き手が「話し手が伝えたいと思っている意味」を理解できるのはどうしてかということを研究する学問であるとされます。
 語用論の代表的な理論の1つである「協調の原理(会話の公理)」を記載します。

協調の原理(会話の公理):

 「協調の原理」とは、H. P. Grice(グライス)が提唱した理論であり、聴き手は4つの原則(maxims of conversation)に基づいて、話者の発話意図を推測するというものです。maximsは「格率、公理、原理」などに翻訳されています。
 4つの原則(格率/公理/原理)は下記のとおりです(引用:脳科学辞典 )。

  1. 量に関する原則: 話者は「聴者が理解するために必要かつ十分な量の情報」を提供しなければならない。
  2. 質に関する原則: 話者は「自分が信じていないことや根拠のないこと」を言ってはならない。
  3. 関連性に関する原則: 話者は「当面の話題と関係のないこと」を言ってはならない。
  4. 様式に関する原則: 話者は「曖昧な表現を避け、簡潔に、順序よく」言わなければならない。



認知言語学

 認知言語学は、言語を一般的な認知能力の反映として捉える学問や理論などとされています。
 下記に認知言語学の特徴や前提とする考え方をまとめます(参考文献:辻,2003.認知言語学への招待.)。

  1. 言語は認知の産物であると考える。事象の認知は「図と地」の分化が基本となる。
  2. 生成文法理論(Chomsaky)における生得的な文法とは逆であり、言語表現の「経験」の反復・強化によって文法が作られていくと考える。
  3. 言語表現はカテゴリー化に基づいており、認知のしやすさや類似性はカテゴリー化に影響を与える(プロスペクト理論)。
  4. 様々なカテゴリーは様々に関係づけられ、明確な境界はない。



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