ここでは愛着理論と、その測定法についてまとめます。
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愛着理論とは、Bowlby,Jhon(ボウルビィ)が提唱した理論であり、大変有名です。初期の Bowlby は「愛着」を「自らが“安全である という感覚(felt security)”を確保しようとする生物体の本性に基づき、危機的な状況,あるいは 潜在的な危機に備えて、特定の対象との近接を求め, これを維持しようと個体(人間やその他の動物)の傾向」であるとしました(Bowlby,1969/1982)。
その後、Bowlbyは、愛着は「特定の対象との情緒的な結びつきを指し、乳幼児が母親との情緒的な相互作用を通して形成される、母親と確固たる絆である」としました。
Harlow,H.Fのサルの実験は、子ザルを、ミルクをくれる金網ザルとミルクをくれない毛布ザルと一緒に檻に入れると、ミルクを飲むとき以外は大半を毛布ザルにしがみついて過ごし、そこを「安全基地」として、様々な「探索行動」を行ったというもので、愛着理論を実証した実験です。
愛着行動とは、ストレスのある状況で特定の対象への親密さを求めるために行っていると考えらえれる行動です。生後3か月から6か月が最も顕著とされます。
愛着行動には、「発信行動 - 泣き、笑い、発生」、「定位行動 - 接近、後追い」、「能動的身体行動 - よじのぼり、抱きつき」があります。
内的作業モデルとは、「母親との愛着が内在化し、他者との関係の取り方として機能するモデル」のことをさします。内的作業モデルは、加齢とともに安定性を増し、社会的行動・対人関係の基礎となるとされます。
マターナル・デプリベーションとは、愛着形成や健全な発達のために必要な心理的、情緒的相互作用のある環境を指す「母性的養育環境」が極端に阻害された状況のことを指します。
愛着が形成されていると他者へ対しても信頼感を持ち、友達を作ったり、他者の行為を好意的に受け止めますが、マターナル・デプリベーションにより、愛着が形成されないと相手を避けたり、対応が一貫しなかったり、意図を取り違えたりすると考えられています。
愛着の測定方法としては、エインズワースによる「ストレンジシチュエーション法」とメインによる「成人愛着面接法」が代表的です。
ストレジシチュエーション法(SSP)とは、Ainsworth,M.D.S.(エインズワース)が考案し、人見知りの激しい「満1歳児を対象」とし、実験室での母子分離(母親は部屋から出て子供だけ残す)と再会、他人の導入などへの子どもの反応を組織的に観察する方法です。
エインズワースは、ストレジシチュエーション法により、愛着の質のタイプを下表のように4つに類型化しました。
Aタイプ:回避型 |
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母子分離時の混乱がほとんどなく、親との再会時も無関心で、母親が安全基地として機能しません。 [親の特徴] 子どもの働きかけに拒否的で、微笑んだり身体的接触が少なく、子どもの行動を強く規制しようとします。 |
Bタイプ:安定型 |
母子分離時に多少の混乱を示しますが、親との再会時には積極的に身体的接触を求め、混乱は容易に沈静化し、母親が安全基地として機能しています。 [親の特徴] 子どもの欲求や状態変化に敏感で、過剰あるいは無理な働きかけは少なく、遊びや身体的接触を楽しんでいます。 | Cタイプ:葛藤型/アンビバレント型 |
母子分離時に強い不安や混乱を示し、親との再会時には強く身体接触を求める一方で、怒りや攻撃を示します。母親は安全基地としてあまり機能していません。 [親の特徴] 子どもの働きかけに敏感でなく、子どもへの働きかけが母親の気分や都合に合わせたもので、結果的に、子どもが同じことをしても、それに対する反応に一貫性を欠いたり、タイミングが微妙にずれます。 |
Dタイプ:無秩序型 |
突然のすくみ、顔を背けて親に接近するなど、不可解な行動パターンや本来は両立しない行動が同時に活性化され、観察者に個々の行動がバラバラで組織立っていない印象を与えます。 [親の特徴] このタイプは、子供の持つ未解決の心的外傷や、抑うつ傾向の強い母親の養育、虐待によることが推測されます。 |
成人愛着面接法は、Main, M(メイン)が考案した方法で、成人を対象に、過去の愛着の質を想起させ、現在の愛着スタイル、社会的適応性、対人関係などとの関連性を検討しました。メインは、愛着の個人差は、対人関係やパーソナリティ発達の基礎となり、生涯発達過程の個人的傾向となると考えました。
Mainの研究では、60%の対象者が過去から現在においての「愛着の時間的安定性・連続性」が維持されていることが確認されています。同時に個人の経験により内的作業モデルが修正される可能性が見られました。
一方、「愛着が遺伝的要因の影響を受けているか」について研究もなされています。アメリカ、アイオワ大学のキャスパーズと言う人が中心で行った研究では、同じ養育者に育てられた実の子どもと、養子として育てられた血のつながりのない子どもとで、どの程度愛着パターンが一致するかを調べました。
結果は被験者の平均年齢が38歳であっても、両者の一致率は60%を示し、一卵性双生児で示された結果と比べても、あまり差は出なかったようです。
この研究からも、愛着の生涯発達には、「養育的要因が強い」と考えられますが、一方で個人の生得的な個性(気質)や遺伝的基盤も考慮しなければならない、と主張する立場はあります。