ここでは、「認知症」についてまとめます。DSM-5では認知症は「神経認知障害群」に含まれます。
日本における認知症の患者数は年々増加しており、推定では65歳以上の高齢者における有病率は「8%〜10%」と推定されています。
用語:
認知症とは、「後天的な脳疾患(萎縮、病変、損傷など)により認知機能が不可逆的に低下した症状」を特徴とした障害です。
ICD-10や行政上は19歳以上が対象となり、過去に獲得した認知機能の水準からの低下している状態となります。知能検査の結果が平均的であったとしても、過去において高い知能結果の人は知能の低下があるため、認知症のなりえます。
DSM-5での認知症の診断基準としては、「1つ以上の認知機能(1.複雑性注意、2.実行機能、3.学習と記憶、4.言語、5.知覚と運動、6.社会的認知)において、以前の水準から有意な低下がある」、「認知欠損が毎日の活動の自立が阻害されていること」となります。
認知機能の症状は中核症状と呼ばれ、下記のような障害が生じます。
認知機能の障害は「中核症状」と呼ばれますが、認知症に伴う行動及び心理症状は「周辺症状 、またはBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Demntia )」と呼ばれ、下記のような症状があります。
中核症状の悪化と周辺症状の出現や悪化は必ずしも一致しないとされています。周辺症状は軽減や予防が可能であるとされており、それに対する援助や対応が重要視されています。
認知症ではないですが、その手前の状態は、「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」という診断名になります。MCIは、健常者と認知症の中間にあたり、記憶などの認知機能と生活機能が障害され、生活に支障はあるが「自立生活可能な状態」を言います。
また、65歳未満の認知症は「若年性認知症」と呼ばれます。
認知症の種類は、病因によって「アルツハイマー型」、「血管性」、「レビー小体型」、「前頭側頭葉型」に代表されます。
日本では、アルツハイマー型と血管性の認知症がほとんどを占めていると報告されています。
アルツハイマー病による認知症(Alzheimer型) |
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「アルツハイマー病による認知症」は、脳の全般的な萎縮に起因して発症し、進行性の認知症です。 緩やかな発症と持続的な認知の低下があり、症状には下記の段階があるとされます。脳組織の萎縮と大脳皮質の老人班(アミロイドの沈着)の出現も特徴とされます。
アルツハイマー病の患者は、自信喪失、意欲減退、閉じこもりなどの問題を抱え、うつ症状を呈することがしばしば見られます。うつ病との鑑別は、自発性の低下や記憶の障害などから行います。 | 血管性認知症 |
「血管性認知症」とは、認知症の原因が脳血管の疾患であり、急激に発症し段階的に進行することが特徴とした認知症です。 若年性認知症で最も多いのは血管性認知症が最も多いと報告されています。 脳の特定部位に対応した、局在性の身体症状が生じる特徴があり、「抑うつ症状、感情失禁/情動失禁(感情表出が制御しにくい)、片麻痺や構音障害(発声できない)」を伴うことが多く、早期から「歩行障害や尿便失禁」もみられます。 多発梗塞性認知症: 多発梗塞性認知症は、血管性認知症の代表で、文字どおり脳梗塞が多発することにより持続性の神経症状と認知機能障害がみられるようになるものです。 精神機能の低下が一様でなく、記名障害が重度だとしても、理解力や判断力は保たれているなど、精神機能がところどころ「まだら状」に保存されていることが特徴です。 | レビー小体型認知症(Lewy小体型/Lewy bodies:DB) |
「レビー小体型認知症(レビー小体病に伴う認知症)」は、認知障害だけでなく「幻視(幻覚)」と「パーキンソン病のような運動障害」の併発を特徴とした認知症です。 アルツハイマー病では障害されない「後頭葉機能障害」が幻視の出現と関連しています。
| 前頭側頭型認知症(frontotemporal:FT) |
「前頭側頭型認知症」は、前頭葉と側頭葉前方に萎縮や変性がみられる認知症です。 行動障害(無気力・共感欠如・強迫的行動・食行動変化)または、言語障害(反響言語・自発語の乏しさ)を特徴とします。学習・記憶や知覚運動機能は比較的保たれています。 ピック病: ピック病(行動障害型)は、代表的な前頭側頭型認知症であり、「特有の人格変化、行動異常・常同行動、抑制の低下、情緒障害、感覚鈍麻など」を特徴とします。 「40代〜60代」の初老期の認知症であり、若年性アルツハイマー病と比較されます。 前頭側頭型認知症にはピック病のほか、「意味性認知症」(意味記憶の障害)や「進行性非流暢性失語」(発話やアクセント等の困難さ)も含まれます。 |
アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭葉型の以外に、「クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob)」による急速に進行する認知症や、一般身体疾患による認知症(頭部外傷、水頭症、低酸素脳症、ビタミン欠乏症など)、物質誘発性持続認知症、進行麻痺などがあります。
( 詳細: ▼ 認知症を伴う疾患 )
認知症に症状が類似した疾患には、アルコール依存症などによって、ビタミンB1が欠乏により生じる「ウェルニッケ脳症(Wernicke脳症)」があります。
ウェルニッケ脳症は、意識障害、部分的眼球運動障害、運動失調が生じ、その続発症として「コルサコフ(Korsakoff)症候群」を引き起こします。コルサコフ症候群とは、健忘症状、見当識の障害、作話などを特徴とする症状です。ウェルニッケ-コルサコフ症候群と呼ばれることもあります。健忘症状は、病気になる前の記憶が失われたり(逆行性健忘)、新しいことを覚えることができなくなったりします(前向性健忘)。
認知症は、病歴、認知機能評価、画像診断(MRIなどの形態画像検査、SPECT/PETなどの機能画像検査)で診断されます。
認知症の検査としては、スクリーニングとして「長谷川式認知症スケール(HDS-R)」や「MMSE」など、重症度として「MSQ」、「ADAS」などがあります(認知症検査一覧)。
治療法としては、認知症状の悪化を防ぐため、「身体管理と家族・介護者を含めた介護環境の調整」を行います。周辺症状は軽減や予防が可能であるとされており、それに対する援助や対応が重要視されています。
「バリデーション」とは認知症患者とのコミュニケーションをとるための方法のひとつであり、認知症の方の言動や行動を意味のあることと捉え、認め、受け入れることをいいます。患者の感情の表出を促して共感していくことを目指します。
心理療法としては「回想法(ライフレビュー)」、「リアリティ・オリエンテーション」、「動作法」が行われ、そのほか「訓練法(リハビリテーション)」も用いらえます。
より積極的な治療への流れもあり、「抗認知症薬」による薬物療法も選択されます。
「回想法」とは、高齢者を対象としてバトラー(Butler,R.N.)が開発した心理的援助技法です。
高齢者が人生を振り返ること、つまり「ライフレビュー」の心理的な価値を考察したことから始まりました。回想による人生の振り返りの過程を過去の再評価と再構成につなげ、過去を現在に生かすという特徴があります。
グループで行い、高齢者にとって「昔の懐かしい写真や生活品など」を見たり触れながら、昔の経験や思い出を語り合います。
認知症の援助としては、参加者の記憶を刺激することで心の安定を図り、認知症の進行を遅らせることを目指します。
「リアリティ・オリエンテーション」とは、フォルソン(Folsom,J.)が提唱した見当識障害に対する訓練法です。プログラムの中で、または、日常的な会話の中で、時間や場所、季節などの質問を行い現実認識の機会を提供することで、見当識障害の解消や認知症の進行を遅らせることを目指します。
「パーソンセンタード・ケア」とは、T. Kitwood(キットウッド)が提唱したケアであり、認知症をもつ人を一人の「人」として尊重し、その人の立場に立って考えるというアプローチです。また、認知症の患者だけでなく、介護者・支援者の人間性や感情も尊重されることを重視します。
パーソンセンタード・ケアでは、目の前の認知症をもつ人々の行動や状態は、認知症の原因となる疾患のみに影響されているのではなく、その他の要因との相互作用と考えます。行動や状態の要因には下記の5つがあり、ケアにおいては心理的なニーズを満たすことが重要となります。
高次脳機能障害に対する訓練法として、下記のようなものがあります(引用:国立障害者リハビリテーションセンター)。
「 記憶障害 」への訓練法 |
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| 「 実行機能障害(遂行機能) 」への訓練法 |
| 「 注意障害 」への訓練法 |
| 「 社会的行動障害 」への訓練法 |
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