ここでは、「記憶の忘却」と「記憶に関連した学習方法」についてまとめます。
用語:忘却曲線(Ebbinghaus) / 系列位置効果(初頭・新近効果) / 文脈依存効果・自己関連づけ効果 / 干渉説・減衰説・抑圧説 / 健忘 / 舌先現象(TOT) / 系列学習・対連合学習・体制化
「記憶の忘却」とは、記憶のプロセスにおいて記銘や保持ができていないのではなく、「想起」ができなくなることをいいます。
忘却に関する研究としては、忘却の時間的変化を示したエビングハウス(Ebbinghaus,H)の「忘却曲線」が有名です。
忘却(保持)曲線は「記憶の保持量と時間経過の関係を示した曲線」です(曲線図)。
一般的に、記憶の保持量は記憶直後の約20分で急激に減少する結果(保持量が58%に低下)が得られています。
記憶の保持量とは、「無意味綴りを用いた再学習法によって得られる節約率(学習にかかる時間効率)」を表しています。
(補足:▼ 無意味綴り)
記憶(忘却)に関する現象としては「系列位置効果」や「文脈依存効果」があります。
系列位置効果とは、「記憶の始めと終わりで保持率が高くなる現象」を指します。記憶の二重構造の説明となる現象です。
「初頭効果」とは記憶の始めで保持率が高くなる現象のことです。前の情報の妨害が無くリハーサルがしやすいので長期記憶へ転送されやすくなっていると考えられます。
「新近効果」とは終わりの方で保持率が高くなる現象のことです。記名したばかりで、短期記憶内にあり忘却途中のため保持率が高いと考えられます。
実験では「自由再生法」が用いられ、その結果の系列位置曲線は、始めと終わりの保持率が高いため「U字型」となります。
文脈依存効果とは、「記銘時/符号化時」と「想起時/検索時」の文脈(その時状況や手がかり)が、記憶成績に影響を及ぼす現象を指します。
例えば、適切な検索の手がかりがないため想起できなくなったり、記憶したときの状況が再現されると思い出すことなどが挙げられます。
「自己関連づけ効果」は、記銘時に自己に関連した処理を行うと、記憶保持がされやすい現象です。
忘却のメカニズムには色々な説があります。「干渉説」、「減衰説」、「抑圧説」について説明します。
干渉説 | 刺激と反応の連合が2つ以上形成されると、両者間に相互作用が生じ、その抑制的な作用が忘却となって現れるというものです。(マギュー, J.A. が提唱)
|
減衰説 | 時間の経過によって忘却が生じるというものです。 |
抑圧説 | 防衛機制の一つである抑圧(不利なこと、自我への脅威を与えるものを無意識世界へと押しやる)によって忘却が生じるというものです。 |
忘却に関連する症状としては「認知症」や「健忘」が挙げられます。
認知症は脳の後発的な障害により、症状の一つとして忘却が生じます。詳細は、精神病理の認知症を参照ください。
健忘とは、「記憶障害」の一種で、症状として忘却が生じている事です。心因性健忘と器質性健忘があります。
想起できない対象に応じて、下記のような種類があります。
前向性健忘と逆向性健忘に関する患者の研究として「健忘症患者HMの研究」が有名です。
(詳細:▼ 健忘症患者HMの研究)
忘却に関連する現象としては「舌先現象(TOT)」があります。
舌先現象(TOT:Tip of the tongue phenomenon)は、思い出そうとすることが「喉まで出かかっているのに思い出せない」現象とされます。
舌先現象(TOT)は、自分の記憶の状態を対象として認識しようとしているため、「メタ記憶のモニタリング機能」を示しているとされます。
舌先現象(TOT)に類似した用語として「フィーリング・オブ・ノーイング(FOK:Feeling-of-knowing)」がありますが、これは、自分は答えを知っているはずだという感覚を表します。
忘却しにくくするには、何らかの方法で想起しやすくすればよいため、次のような学習方法があります。