ここでは、「出来事や他人の行動や自分の行動の原因を説明する心的過程」である帰属についてまとめます。
本来あいまいな因果関係を特定の原因に帰属させることを帰属過程といいます。帰属過程に関する理論の総称を「帰属理論」といい、Heider,F(ハイダー)が最初に提唱しました。
帰属理論は、抑うつのモデル理論の一つである「改訂学習性無力感理論」や「ホープネスレス理論」にも取り込まれており、臨床的にも重要な理論となっています。
用語:統制の所在(内的・外的帰属) / 統制・安定性の原因帰属 / 共変動モデル(共変原理) / 割引・割増原理 / 自己知覚理論(情動の錯誤帰属・吊り橋効果) / 対応バイアス・行為者-観察者バイアス(基本的帰属錯誤)
行動や評価の原因を自己や他人のどこに求めるかという概念は、「統制の所在 (locus of control)」と呼ばれます。
Rotter, J.B.(ロッター)が提唱しました。統制の所在に関する心理検査もあります。
統制の所在には内的帰属と外的帰属があります。
Weiner, B. (ワイナー)は、達成課題における成功と失敗の原因を何に帰属させるのか、人はあるスタイルを持つと考え、2次元の原因帰属理論を提唱しました。
原因帰属のスタイルは、「統制(内的統制/外的統制)」及び、「安定性(安定/不安定)」の組み合わせからなり、4つに分かれます。
統制は、学習における強化が基礎となっており、「内的統制」とは自分の能力や技能によって強化が統制されているという信念、「外的統制」は運や他者などの外部要因によって強化が統制されているという信念です。
安定性のうち、「安定」はほぼ変わらない要因、「不安定」は変動する要因を意味します。
下表に統制と安定性の組み合わせである4つのスタイルをまとめます。
統制・安定性 | 安定 | 不安定 |
---|---|---|
内的統制 | 「1) 本人の先天的・潜在的能力」が原因だと考える。 | 「2) 本人の努力」が原因だと考える。 |
外的統制 | 「3) 課題の困難度」が原因だと考える。 | 「4) 運」が原因だと考える。 |
例えば、数学の試験で失敗した場合は下記のような考えとなります。
学習において,今後の学習意欲(成功への期待)につながる原因帰属は,学習の成功と失敗において異なります(文献)。
「成功した場合」(例:試験の得点が良かった)
「失敗した場合」(例:試験の得点が悪かった)
学習において、「学習方略、自己制御方略(計画・モニタリング・努力の調整等)」は自己効力感や成績に関連するとされています。
学習で失敗した場合は、「2)努力が原因」と考えるよりも、「学習方略を変える」ということが「学習成果(成績の向上)」においては最も効果的と考えられます(文献)。
Kelly,H.H(ハロルド・ケリー)は、「共変原理、割引原理、割増原理」という原因帰属の原理を示しました。
ケリーの共変原理とは、「行為の効果の原因は、その効果が生じたときに存在し、生じなかったときに存在しない要因に帰属される」という理論です。そして、行動とともに存在する要因(共変要因)の関係により、その原因が「合意性、弁別性、一貫性」の3つの情報を基準に判断されるとしました。
基準 | 説明 | 外的帰属 | 内的帰属 |
---|---|---|---|
合意性 | 他の人物の反応と一致していること。 | 高い | 低い |
弁別性 | 他の刺激事象と区別していること。 | 高い | 低い |
一貫性 | 時と様態に関らず一貫していること。 | 高い | 高い |
原因の帰属先(内的・外的)は、これら3つの基準の高低の組み合わせによって決定されます。
すべての基準が高い場合には外的帰属がなされます(例:全員のテストの点数が低い。→自分の点数が低いのは、問題が難しかったため)。
弁別性と合意性が低く、一貫性が高い場合には内的帰属がなされます(例:テスト平均点が高い。→自分の点数が低いのは、勉強しなかったため)。
ケリーの割引原理とは、「結果に対する、ある原因の役割は、他にももっともらしい原因が存在する時には割引かれる」という理論です
(例:英語のテストの点数が悪かったのは、英語が苦手というよりも、テストの問題が難しかったからだ→英語の苦手さが割り引かれる。)
割増原理とは、「結果に対して、促進要因のみが存在する場合よりも、もっともらしい抑制要因と促進要因の両方が存在する場合の方が、促進的要因の役割はより大きい(割増す)と判断される」という理論です。
(例:テストの点数が良かったのは、”好きなゲームを我慢してまで”、勉強をしたためだ。→ 例え、テストが簡単だったとしても、勉強を頑張ったことが強調される。)
Bem,D.J(ベム)は、人が自分の「内的状態」を、自分の行動やそれが生起した状態に関する手がかりを利用して推測することが多いとし、「情動の錯誤帰属」(情動の帰属で間違ったラベリングをしてしまう)を説明しています。
遊園地でデートをすると、体験の興奮を相手に対するものと勘違いして、相手に対する魅力が上がることが実験で確かめられています。吊り橋の上のような、不安や恐怖を強く感じている時に出会った人に恋愛感情を持ちやすくなる現象である「吊り橋効果」も、情動の錯誤帰属と言えます。
「対応バイアス」は、基本的帰属錯誤、根本的な帰属の誤りとも呼ばれ、『他者の行動はその人の「内的属性(性格や個性)」によって決定されると評価してしまい、「社会的かつ状況的な影響」を軽視する』という人間の傾向をさします。
逆に、”自分自身”の行動に対して、「周囲の状況の影響に決定される」と評価し「自身の内的属性は軽視する」傾向があります。この他者の行動と自身の行動に対する原因帰属の違いを「行為者-観察者バイアス」と呼びます。
例:「”彼”が大声で叫んだのは、怒りやすい性格だからだ→周囲が騒がしかったためではない」と考える(他者はその人の属性を重視)。
一方で「”私”が大声で叫んだのは、周囲があまりに騒がしかったからだ→私が怒りやすいわけではない」と考える(自身は周囲を重視)。