認知行動療法の4大モデルの「認知行動療法モデル」は、人間は「刺激-認知-行動」という一連の情報処理を行うと捉え、人間の内的認知のプロセスに焦点を当て、不適応な認知の変容を目指すという心理療法です。
代表的な療法として、A.T.Beck(ベック)の「認知療法」とA.Ellis(エリス)の「論理情動行動療法(REBT)」をまとめます。
また、第3世代の認知療行動療法の「マインドフルネス・ACT」や、認知行動療法の「技法」に関してもまとめます。
用語:
「認知療法」は、A.T.Beck(ベック)が開発した療法です。人の感情や行動を認知の関数と考え、認知あるいは認知のプロセスを変えることで治療を行います。
ベックの認知療法は、主にうつ病に有効で、不安神経症や強迫神経症、身体化障害にも適用されます。治療は15〜25回のセッションで終了し、強く構造化され、指示的で、現在の適応状態に焦点化しています。「自己、現在の体験、未来」の3対象の認知を扱います。
ベックが考える治療とは、患者が治療者と一緒に共同作業で問題を解決していくものであり、これを「共同経験主義」(協同的経験主義)といいます。
ベックは、うつ病の機序を下記のように考えました。
認知療法では、「自動思考」、「体系的な推論の誤り」、「スキーマ」に対して働きかけ、それらを変えていくことでうつ病の治療を行います。
また、ベックは性格類型によるうつ病の発病機序についても指摘しています。
「論理情動行動療法:REBT(rational emotive behavior therapy)」は、A.Ellis(エリス) によって提唱された心理療法で、論理療法から名称が変化して現在に至っています。
REBTでは、「認知」「感情」「行動」の3側面を統一的に捉えて、クライエントの不適応の原因は、過去の出来事や経験にあるのではなく、何を信じているかという信念体系の中の「非合理的信念(iB:irrational Belief)」にあると考えます。
そして、非合理的信念を明らかにした上で、徹底的に反論し粉砕し、それに代わる合理的な信念(rB:rational belief)を身につけさせる方法を取ります。
最終的には、将来、似たような場面にぶつかっても、自分で非合理的信念を発見し、反論して正しい合理的な信念が引き出せる自己統制力を養うことを目的としています。
REBTにおける不適応に至る理論を「ABC理論」、または治療までの理論「ABCDE理論」と呼びます。
ABCDE理論とは過程をした用語の頭文字を表しており、下記の内容となります。
第3世代の認知行動療法と呼ばれる新しい療法としては、「マインドフルネス」や「アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)」、「弁証法的行動療法」、「メタ認知療法」があります。
マインドフルネスとは、「今ここでの体験に、評価せずに、とらわれない状態のまま、ただ観察していく心的活動およびその状態」と定義されます。
マインドフルネスのための訓練は、瞑想によって行われます。呼吸、音(聴覚)、味(味覚)などが用いられます。
「マインドフルネス認知療法(MBCT)」とは、マインドフルネスを基礎に置いた認知療法の1つであり、マインドフルネスの技法を取り入れ、否定的な考え、行動を繰り返えさないようにします。
アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT:Acceptance and commitment therapy)とは、心理的柔軟性の向上を目指した療法です。
アクセプタンスとマインドフルネスの方略にコミットメントと行動変容の方略を併せて用いられ、困難な気分を取り除くことではなく、むしろ自らの人生と共に今この瞬間に留まり、価値づけられた行動へと向けて前に進むようにすることを目的とします。
弁証法的行動療法(DBT:Dialectical behavior therapy)とは、境界性パーソナリティ障害(BPD)に特化したマインドフルネスに基づく認知行動療法です。
個人精神療法のほか,「マインドフルネス・スキル,対人関係保持スキル,感情抑制スキル,苦悩耐性スキル」の習得を目的としたグループスキルトレーニングが行われます。
メタ認知療法とは、認知をコントロールするメタ認知の内容を変えることで、心配や反芻の持続を低減させる療法です。
認知行動療法の技法は「認知的戦略」「行動的戦略」「認知行動的戦略」「予防戦略」という4つの治療的戦略という形で整理されることもあります。
それら4種に分類される技法や、その他、ストレス免疫訓練法、問題解決技法についてまとめます。
認知的戦略(認知療法・セルフモニタリング) |
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認知的戦略は、ベックの認知療法に代表されるように認知に働きかけたり、苦痛を呼び起こす考えを抑制する技法です。
多くの場合、「セルフモニタリング法」といわれる自らの行動、思考、感情などの側面を自己観察する方法をホームワークとして与えます。
誘導による質問とは、クライエントが「自分で解決方法をディスカバーリー(発見)できるように援助」する認知行動療法の技法です。「ソクラテス的式質問法(ソクラテス式問答)」などの質問法を用いて行われます。 「気晴らし技法」といった、気分の良い出来事や考えを広げるように質問していく方法もあります。 | 行動的戦略(行動活性化療法) |
行動的戦略は、「行動活性化療法」に代表され、気分を高める活動を広げようとするものです。
うつ病などにより非活動となった悪循環にある対象を、生活の中で症状が回復するような「快」の行動を増やすことで、段階的な脱出を支援します。 日常生活の快感(P)と達成感(M)の観察、評価を行ったり、「活動スケジュール」の作成と段階的課題の作成を行ったりします。 | 認知行動的戦略(SST・アサーション・行動実験) |
認知行動的戦略は、「ソーシャルスキルトレーニング」や、「アサーショントレーニング」、「行動実験」などの実践的訓練です。
「行動実験(Behavioural Experiments)」とは、対象者の不合理な信念の妥当性を、実験的手法によって検証する技法です。 強迫性障害に対する認知的介入として有効とされ、新しい考え方に基づき「新しい行動」を実生活の中で試してみます。 「アサーショントレーニング」とは、「自分も他者も大切にする自己表現」のトレーニングのことです。平木典子によって日本に導入されました。 他者との合意を必要とする場面を想定し、「DESC法」や「Iメッセージ」などを用いてトレーニングを行います。
| 予防戦略 |
今後うつ病をひき起こすかもしれないと予想される出来事に対して、あらかじめ十分な対応策と対応能力を身につける訓練を行います。 |
ストレス免疫訓練法は、D.Meichenbaum(マイケンバウム)が開発した認知行動療法の介入プログラムであり、ストレスへの対処法を学ぶ事で、ストレスへの免疫を増やす事を目標としています。
ストレス免疫訓練法の技法である「自己教示訓練」は、特定場面で生じる「自己陳述(自分に向かって話す言葉)」を自分で把握し、非機能的な内容から”対処的な内容”へと自己陳述を変容させることによって、自分の認知、情動、行動を変容させる訓練です。
自己教示訓練を通して、認知的方略とセルフコントロールスキルを習得していきます(文献)。
問題解決技法は、問題解決過程の心理プロセスに基づく、様々な技法をパッケージ化したものとされます。問題解決療法(problem-solving therapy)とも呼ばれます。
解決過程のモデルには、「1. 問題志向性の段階(問題をどのように捉えるか)」、「2. 問題の明確化の段階」、「3. 解決策の産出の段階」、「4. 意思決定の段階(解決策の決定)」、「5.解決策の実行と評価の段階」といった5段階のものがあります。
「3.解決策の産出の段階」では、下記のような法則(ルール・原則)にのっとり解決策を考えてあげていきます。