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心理学用語集: グリーフケア・ターミナルケア・障害受容

2 - 心理療法ケア・精神保健 > 91- グリーフケア・ターミナルケア・障害受容

 ここでは、「グリーフケア」と「ターミナルケア」についてまとめます。また、「障害受容」の理論についてもまとめます。
用語:

  1. グリーフケア : 悲嘆喪の作業(Mourning Work) / Wordenの悲嘆課題Dual process model(2重過程モデル)
  2. ターミナルケアキューブラー・ロス (Kubler-Ross) / アドバンス・ディレクティブ(リビングウィル, アドバンス・ケア・プランニング, 尊厳死)
  3. 障害受容の理論障害受容理論 (Grayson) / 価値転換理論 (Wright) / 段階理論 (Cohn;Fink)

グリーフケア

 「グリーフケア」とは、家族や親しい人など大切な人を失ったときに生じる「悲嘆」をもつ人に対して、悲しみから立ち直れるように援助することです。

 援助の方法としては、クライエントに寄り添い、ペースを合わせて心的過程を共に体験し、安心して感情表現できる環境を作るようにします(悲しみなどの感情を肯定し、表現をさせる環境づくり)。
 そして、故人に対する束縛から解放され、故人のいない今の環境へ適応し、新しい関係を形成することを目標とします。


悲嘆:

 リンデマン(Lindemann,E)によると、悲嘆には身体的症状と心理的症状があるとされます。
 正常の悲嘆は、死者への思慕の情を除き、ほとんどの心理的反応は6カ月以内に安定するとされます。
 複雑性悲嘆とは、強度が持続し、6カ月以上蔓延するなど複雑化した悲嘆であり、日常生活に支障をきたします。

  1. 悲嘆の身体的症状:
     身体的苦痛、脱力、呼吸障害、疲労感など
  2. 悲嘆の心理的症状:
     罪責感、敵意反応、抑うつ、行動パターンの喪失など
喪の作業(Mourning Work):

 「喪の作業(ものさぎょう)」(モーニングワーク)とは、フロイト(Frued,S.)が提唱した概念であり、愛着や依存の対象を失うことを意味する「対象喪失」によって生じる心理的過程のことです。

 (補足: ▼ 曖昧な喪失


 フロイトは正常な喪を「悲哀」とよび、異常な喪を「メランコリー」(今のうつ病)と呼びました。対象喪失によって、故人に対する思慕の感覚が生じますが、それは愛情だけでなく憎しみや後悔といった感情も含んだアンビバレンス(両価的感情)であり、喪の作業はアンビバレンスを乗り越える過程とされています。
 
 心理過程の段階は複数の定義がありますが、ここでは「ボウルビィ(Bowlby,J.M.)」の4段階の心理的過程を記載します。

  1. 麻痺/無感覚(激しくショックを受けている)
  2. 否認・抗議(対象喪失を認めず、失った対象がいるように振る舞う)
  3. 絶望・失意(激しい失意、抑うつの体験)
  4. 離脱・再建(喪失を受け止め、立ち直る努力をはじめる)

 以前は、喪失対象の断念が強調されました。しかし現在では、結果的には断念の方向に進展しますが、「喪失対象との持続する絆の維持」が求められています。


Wordenの悲嘆カウンセリング(セラピー):

 J.W.Worden(ウォーデン)は、悲嘆のプロセスを完了させるためには課題に取り組み、努力する必要があるという課題モデルを提唱しています。受動的でなく能動的に悲嘆プロセスに向き合うということが特徴です(河合,1999 )。
 Wordenは下記の4つの課題を提起しています(J.W.Worden, 2018 )。

  1. 喪失の現実を受け入れる。
     故人が亡くなった事実と直面する。感情を取り扱う前に、死が真実だと受け容れる事(時間がかかる課題)。
  2. 悲嘆の苦痛にむきあう。
     悲しみ、怒り、罪、孤独、うつ、不条理、無援などの感情を感じる。苦痛の回避は、悲嘆反応の遅れ、身体症状になって後に現れる。
  3. 故人のいない環境に適応する。
     外部調整(自身の役割と機能の変化)、内部調整(死による自我、自尊感情、自己効力感への影響)、スピリチャルな調整(信仰への影響)を行う。
  4. 故人を情緒的に再配置する。
     故人を心の中に新たに位置づけ「絆の継続」をする(思慕、故人について話す、夢をみる、遺品を持つなど)。

Dual process model of coping(2重過程モデルのコーピング):

 グリーフケアにおける「Dual process model of coping(2重過程モデルのコーピング)」と呼ばれる対処過程が提唱されています(Margaret Stroebe & Henk Schut, 2010 )。
 これは、「喪の作業」と平行しながら、「日常生活のコミット(死別によって生じた問題の対応)」を行うことであり、悲嘆の対処に有効とされています。
(例:故人を思慕して涙する。一方で、故人の役割であった家事を行って日常生活を送る。)




ターミナルケア

 「ターミナルケア」とは、死の宣告を受けた患者(臨死患者)に対する治療や看護のことをさします。
 患者が近づく死を受容し、残された時間の生活の質(QOL:Quality of life)を高めることを目指します。また、死を心理的発達における1つの機会と捉えられるような援助の考え方もあります。

 援助においては、最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目し、患者を観察しながら、訴えの傾聴を通して、患者の生き方を踏まえたかけがえのない存在であることへ配慮します。また、家族への援助も重要となります。

  1. 医療従事者は、患者の人生の最終段階において、患者とのインフォームド・コンセントに基づき医療を進めることが最も重要な原則とされている。
  2. 多専門職種の医療・ケアチームによって医学的妥当性と適切性をもとに、医療行為の開始、変更、中止などを判断しながら、患者や家族に対する総合的な医療とケアを行う。
    (総合的ケア:身体的、心理社会的、スピリチュアル的ケア)
臨死患者の心理的過程:

 「キューブラー・ロス(Kubler-Ross,E.)は、臨死患者へのインタビューから、その心理的過程を5段階にまとめました。
 すべての患者が同様の経路をたどるわけでも、最期の段階まで到達するわけでもありません。段階を把握し、それに応じた支援を行います

  1. 「否認」
     自分の死を疑い、その事実を認めない。
  2. 「怒り」
     なぜ自分なのか。怒りを周囲に向ける。
  3. 「取引」
     死なずに済むように取引を試みる。
  4. 「抑うつ」
     死は免れないとわかり抑うつになる。
  5. 「受容」
     死を受け入れるようになる。
アドバンス・ディレクティブ/尊厳死:

 アドバンス・ディレクティブとは、「患者や健常人が、将来自らが判断能力を失った際に自分に行われる医療行為に対する意向を前もって意思表示すること」と定義されます。
 アドバンス・ディレクティブを記しておくものに「リビングウィル」や「事前指示書」があります。

 アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning :ACP)とは、患者さん本人と家族が医療者や介護提供者などと一緒に、現在の病気だけでなく意思決定能力が低下する場合に備えて、あらかじめ、終末期を含めた今後の医療や介護について話し合うことです。また、意思決定が出来なくなったときに備えて、本人に代わって意思決定をする人を決めておくプロセスも意味しています。
 アドバンス・ケア・プランニングの結果は、アドバンス・ディレクティブとして、リビングウィルや事前指示書に盛り込みます。

 尊厳死とは、末期の患者が「本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断り、自然の経過のまま受け入れる死のこと」とされ、アドバンス・ディレクティブの一つと言えます。
 尊厳死は、本人からの意思表示がなくても、家族などによる本人の推定的意思があればよいとも考えられていますが、日本では、尊厳死に関する法的整備はなされていないため、裁判の判例に基づいています。



障害受容の理論

 障害受容の理論としては、下記ような理論が挙げられます(文献:田垣,2002岩井, 2009)。日本では、特にはCohn(コーン)とFink(フィンク)の「段階理論」が影響力を持つとされます。


Graysonの障害受容理論:

 Grayson(グレイソン)は、障害受容に関して障害者の身体的・社会的・心理的側面についてそれぞれ論じ、障害受容とは「身体的障害を認知していること、社会的関係(雇用関係や家族関係など)を現実的に認知していること、心理的には酷い情動的認知を示さないことである」としました。


Wrightの価値転換理論:

 Wright(ライト)は、障害受容とは「障害を不便かつ制約的なものでありながらも、自分の価値を低下させるものではないと認識すること」としました。
 障害受容には下記の4つの価値変換が必要だと考えました。

  1. 「価値範囲の拡大」: 失った部分以外にも多く価値があるという認識する。
  2. 「障害に起因する波及効果の抑制」: 障害が自分の価値全体を低下させるものではないと認識する。
  3. 「身体的価値を人格的な価値に従属」: 身体的な外見より内面的価値を重要とすること。
  4. 「比較価値から資産価値への転換」: 他者や一般基準と比較しない自身の価値(資産価値)に目を向けること。

 このような価値転換の過程には、「1.ショック」、「2.否認」、「3.混乱(怒り・ うらみと悲嘆・抑鬱)」、「4.解決への努力」、「5.受容」の5段階があるとされています。


CohnとFinkの段階理論:

 Cohn(コーン)は、Freudの「悲哀の作業」を障害受容に取り入れ、障害を喪失と捉え,その後の反応を心理的な回復過程と位置づけました。
 一方、Fink(フィンク)は、ストレス理論の影響を受けて,障害受容の過程を危機への対処(コーピング)と位置づけました。
 両者それぞれ、障害受容の過程の段階を下記のようにまとめました。

#段階説明
Cohn(コーン)の障害受容の段階
1ショック段階「これは私ではない」という衝撃を感じる
2回復への期待段階現実を否認し「自分は病気であり,すぐに直るのだ」と思いこもうとする
3悲哀段階「すべてが失われてしまった」と感じる
4防衛段階良い方向に向かえば「障害をものともせずにやっていこう」と感じられるが、そうでなければ障害の影響を否定するために防衛機制を多用する
5適応段階「違っているだけで悪くはない」と感じることのできる
Fink(フィンク)の障害受容の段階
1ショック段階強いショックをうけ混乱状態となる
2防衛的退行段階否認によって現実の認知を回避する
3自認段階
(現実認識)
現実的自己像を認知する。抑うつが生じる。
4適応と変化段階新しい価値観を持つ。自己を以前と同じではなくても、周囲の世界にとっては貴重な存在であると考える



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