ここでは、「グリーフケア」と「ターミナルケア」についてまとめます。また、「障害受容」の理論についてもまとめます。
用語:
「グリーフケア」とは、家族や親しい人など大切な人を失ったときに生じる「悲嘆」をもつ人に対して、悲しみから立ち直れるように援助することです。
援助の方法としては、クライエントに寄り添い、ペースを合わせて心的過程を共に体験し、安心して感情表現できる環境を作るようにします(悲しみなどの感情を肯定し、表現をさせる環境づくり)。
そして、故人に対する束縛から解放され、故人のいない今の環境へ適応し、新しい関係を形成することを目標とします。
リンデマン(Lindemann,E)によると、悲嘆には身体的症状と心理的症状があるとされます。
正常の悲嘆は、死者への思慕の情を除き、ほとんどの心理的反応は6カ月以内に安定するとされます。
複雑性悲嘆とは、強度が持続し、6カ月以上蔓延するなど複雑化した悲嘆であり、日常生活に支障をきたします。
「喪の作業(ものさぎょう)」(モーニングワーク)とは、フロイト(Frued,S.)が提唱した概念であり、愛着や依存の対象を失うことを意味する「対象喪失」によって生じる心理的過程のことです。
(補足: ▼ 曖昧な喪失)
フロイトは正常な喪を「悲哀」とよび、異常な喪を「メランコリー」(今のうつ病)と呼びました。対象喪失によって、故人に対する思慕の感覚が生じますが、それは愛情だけでなく憎しみや後悔といった感情も含んだアンビバレンス(両価的感情)であり、喪の作業はアンビバレンスを乗り越える過程とされています。
心理過程の段階は複数の定義がありますが、ここでは「ボウルビィ(Bowlby,J.M.)」の4段階の心理的過程を記載します。
以前は、喪失対象の断念が強調されました。しかし現在では、結果的には断念の方向に進展しますが、「喪失対象との持続する絆の維持」が求められています。
J.W.Worden(ウォーデン)は、悲嘆のプロセスを完了させるためには課題に取り組み、努力する必要があるという課題モデルを提唱しています。受動的でなく能動的に悲嘆プロセスに向き合うということが特徴です(河合,1999 )。
Wordenは下記の4つの課題を提起しています(J.W.Worden, 2018 )。
グリーフケアにおける「Dual process model of coping(2重過程モデルのコーピング)」と呼ばれる対処過程が提唱されています(Margaret Stroebe & Henk Schut, 2010 )。
これは、「喪の作業」と平行しながら、「日常生活のコミット(死別によって生じた問題の対応)」を行うことであり、悲嘆の対処に有効とされています。
(例:故人を思慕して涙する。一方で、故人の役割であった家事を行って日常生活を送る。)
「ターミナルケア」とは、死の宣告を受けた患者(臨死患者)に対する治療や看護のことをさします。
患者が近づく死を受容し、残された時間の生活の質(QOL:Quality of life)を高めることを目指します。また、死を心理的発達における1つの機会と捉えられるような援助の考え方もあります。
援助においては、最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目し、患者を観察しながら、訴えの傾聴を通して、患者の生き方を踏まえたかけがえのない存在であることへ配慮します。また、家族への援助も重要となります。
「キューブラー・ロス(Kubler-Ross,E.)は、臨死患者へのインタビューから、その心理的過程を5段階にまとめました。
すべての患者が同様の経路をたどるわけでも、最期の段階まで到達するわけでもありません。段階を把握し、それに応じた支援を行います
アドバンス・ディレクティブとは、「患者や健常人が、将来自らが判断能力を失った際に自分に行われる医療行為に対する意向を前もって意思表示すること」と定義されます。
アドバンス・ディレクティブを記しておくものに「リビングウィル」や「事前指示書」があります。
アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning :ACP)とは、患者さん本人と家族が医療者や介護提供者などと一緒に、現在の病気だけでなく意思決定能力が低下する場合に備えて、あらかじめ、終末期を含めた今後の医療や介護について話し合うことです。また、意思決定が出来なくなったときに備えて、本人に代わって意思決定をする人を決めておくプロセスも意味しています。
アドバンス・ケア・プランニングの結果は、アドバンス・ディレクティブとして、リビングウィルや事前指示書に盛り込みます。
尊厳死とは、末期の患者が「本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断り、自然の経過のまま受け入れる死のこと」とされ、アドバンス・ディレクティブの一つと言えます。
尊厳死は、本人からの意思表示がなくても、家族などによる本人の推定的意思があればよいとも考えられていますが、日本では、尊厳死に関する法的整備はなされていないため、裁判の判例に基づいています。
障害受容の理論としては、下記ような理論が挙げられます(文献:田垣,2002; 岩井, 2009)。日本では、特にはCohn(コーン)とFink(フィンク)の「段階理論」が影響力を持つとされます。
Grayson(グレイソン)は、障害受容に関して障害者の身体的・社会的・心理的側面についてそれぞれ論じ、障害受容とは「身体的障害を認知していること、社会的関係(雇用関係や家族関係など)を現実的に認知していること、心理的には酷い情動的認知を示さないことである」としました。
Wright(ライト)は、障害受容とは「障害を不便かつ制約的なものでありながらも、自分の価値を低下させるものではないと認識すること」としました。
障害受容には下記の4つの価値変換が必要だと考えました。
このような価値転換の過程には、「1.ショック」、「2.否認」、「3.混乱(怒り・ うらみと悲嘆・抑鬱)」、「4.解決への努力」、「5.受容」の5段階があるとされています。
Cohn(コーン)は、Freudの「悲哀の作業」を障害受容に取り入れ、障害を喪失と捉え,その後の反応を心理的な回復過程と位置づけました。
一方、Fink(フィンク)は、ストレス理論の影響を受けて,障害受容の過程を危機への対処(コーピング)と位置づけました。
両者それぞれ、障害受容の過程の段階を下記のようにまとめました。
# | 段階 | 説明 |
---|---|---|
Cohn(コーン)の障害受容の段階 | ||
1 | ショック段階 | 「これは私ではない」という衝撃を感じる |
2 | 回復への期待段階 | 現実を否認し「自分は病気であり,すぐに直るのだ」と思いこもうとする |
3 | 悲哀段階 | 「すべてが失われてしまった」と感じる |
4 | 防衛段階 | 良い方向に向かえば「障害をものともせずにやっていこう」と感じられるが、そうでなければ障害の影響を否定するために防衛機制を多用する |
5 | 適応段階 | 「違っているだけで悪くはない」と感じることのできる |
Fink(フィンク)の障害受容の段階 | ||
1 | ショック段階 | 強いショックをうけ混乱状態となる |
2 | 防衛的退行段階 | 否認によって現実の認知を回避する |
3 | 自認段階 (現実認識) | 現実的自己像を認知する。抑うつが生じる。 |
4 | 適応と変化段階 | 新しい価値観を持つ。自己を以前と同じではなくても、周囲の世界にとっては貴重な存在であると考える |