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心理学用語集: 危機介入・緊急支援

2 - 心理療法ケア・精神保健 > 92- 危機介入・緊急支援

 ここでは、災害発生時や、衝撃的な事件が起こった時などの援助である「危機介入、及び緊急支援」についてまとめます。
用語:サイコロジカル・ファーストエイドデブリーフィングデフュージング支援の留意点二次受傷被災者のケアDMAT・DPAT・DHEAT・災害医療コーディネーター災害拠点病院・EMIS) / 学校での緊急支援



危機介入/サイコロジカルファーストエイドの原則

 「危機介入」とは、「危機理論(Lindemann,EとCaplan,G)」に基づき、問題発生状況を理解し、具体的な介入を行う方法です。 戦争神経症の治療、自我心理学の心理療法、自殺予防運動の電話相談活動の中で徐々に形成されてきたとされます。
サイコロジカルファーストエイド(PFA:心理的応急措置)」もほぼ同様の意味合いをもつと考えらえます。

 危機とは、習慣的に身につけている防衛機制や対処方法が全てうまくいかない困難な状態です。心理的・身体的に不均衡な状態となり、不安、混乱、睡眠障害、食欲不振、抑うつ的状態などの症状などがみられます。
 危機の不安定な期間は、1〜6週間程度とされ、危機介入は「不均衡な状態をできるだけ早く元の状態に回復すること」を目的して行われます。

 危機介入の方法をWHOのサイコロジカルファーストエイドのガイドラインに基づきまとめます。

  1. 自然回復の重視:
     被災者であれば食料の確保や安全といったニーズが満たされ、適切な心理社会的な支援があれば自然回復していきます。心理的なケアを押し付けないようにします(デブリーフィングや表現活動は避ける)。
  2. 見る・聞く・つなぐの活動原則:
     活動原則として、「活動前の準備(P)」と「見る・聞く・つなぐ(Look,Listen,Linkの3L)」があります。状況について可能な限り正確に情報収集を行い、ニーズやリスクを確認します。また被支援者に寄り添い傾聴します。そして、情報提供を行ったり、公共サービスや他の長期的な援助へとつなぎます。
  3. 現地や現場の尊重:
     現地や現場の文化にあった行動をとり、被支援者の利益を最優先とします。個人や組織の営利のための支援はせず、支援団体間での衝突は被支援者の不利益となるため、連携や調和に努めます。

緊急支援の留意点

 災害支援や他の緊急支援における具体的な留意点をまとめます。

 サイコロジカルファーストエイドのガイドラインにもあるように、ケアの押し付けをせずに、自然回復のための環境づくりに配慮します。

  1. 体験の無理な言語的表現の促進(デブリーフィングなど)や、描画などの表現活動を導入は行わない。
  2. 災害支援において、被災者の求めがあれば、心理的支援でなくても、何の支援であれ積極的に行う。
  3. 利用出来る資源は活用し、具体的な情報提供や適切な紹介・引き継ぎといった対応体制の調整をしていく。心のケアを完了させることが目的ではない。
  4. スクリーニングテストやチェックリストの実施は、”状況やタイミング”を見て行う。「初期段階」でアンケートを配布して実施することは、トリアージの目的だとしても信頼関係を損なうリスクがある。
  5. 「子ども(青年を含む)」「患者や障害者・高齢者・妊婦等」「差別や暴力を受ける恐れがある人」はリスクが高いため、特別な注意を必要とする。
二次受傷(二次的外傷性ストレス:STS)

 支援者自身が、凄惨な場面を目撃したり、高いストレス環境が続くことによる「二次受傷」(二次的外傷性ストレス)を受けて、心身の変調をきたすことがあります。症状としては下記のような特徴が挙げるとされます(引用 )。

  1. 心的外傷後ストレス障害(PTSD)」とほぼ同様の症状が現れる
  2. 何の前触れもなく突然起こる(バーンアウトが徐々におきるのに対し)
  3. 無力感や困惑、孤立無援感がある
  4. 回復のペースも速い
 

 支援者のストレス反応に対しては、以下のような予防・対策が考えられます。

  1. 「役割分担と業務ローテーションの明確化」や「業務の価値づけ」が有効であるとされる
  2. セルフケア(リラクセーション法など)を行う
  3. 他者と話し合える環境や、ケースカンファレンスの機会を持つ(関連:デフュージング)、など

 災害救援者に対する心理的デブリーフィングは、有効な場合と悪化する場合があり、一貫した結果ではないことが報告されています( 松井ら, 2007 )。



被災者のケア

 被災者のこころのケアのためには、「地域コミュニティの維持回復・再構築」が非常に重要であるとされます。被災者のこころのケアのガイドラインの内容をまとめます(内閣府 )。

 被災者のこころのケアは「一般被災者・見守り・疾患」という3段階のレベルに応じて適切なケアを行います。
 被災者支援の活動原則や、被災者のケアにおける留意点については「緊急支援の留意点」と同様となります。

 「一般の被災者レベル」のケア
  1. 一般の被災者には地域コミュニティの維持回復・再構築が非常に効果的。被災者の孤立化を防ぐ。
  2. 行政やボランティアなどがコミュニティ形成の仕掛け作りとして、自発的に人が集まるような居心地の良い場所、相談場所の提供やかわら版などの情報発信を行う。
  3. コミュニティ形成については、「発生前」に関連NPO等のリストアップとその組織への研修を行います。
 「見守りレベル」のケア(こころのケア)
  1. ケアを行わないと「疾患」レベルに移行する可能性が高い被災者(悲嘆・ひきこもり等の問題を抱える)に対して「こころのケア」を実施する。
  2. 保健師、精神保健福祉士、臨床心理士、医師・看護師が、被災者に対する傾聴、アドバイス等のこころのケアの実施や、必要性を判断して、医療機関や地域コミュニティへの引継ぎを行う(公認心理師も該当すると思われる)。
  3. ケアの必要性に対するスクリーニングは「市町村のこころのケア担当や保健センターの保健師」が中心となり実施。
 「疾患レベル」のケア
  1. 医療ケアが必要と判断された被災者や発災前から精神疾患を持つ患者に対して、精神科医療ケアを行う。
  2. 精神科医や精神科医療機関によって行われる。

 都道府県は災害前に「こころのケアチーム」を整備し研修を行っておき、災害発生時には担当部局が他県を含めてこころのケアチームを派遣します。
 こころのケアチームにおいては市町村災害対策本部が中心となり、毎日担当者間で情報共有会議を開催します。
 都道府県、精神保健福祉センター、市町村等との情報共有のため「情報記録用紙標準書式」に記録をします。個人情報保護の観点から、被災者から情報共有の同意を取る事も求められます(例外事項に該当する事も考えられますが)。


DMAT・DPAT・DHEAT・災害医療コーディネーター:

 DMATとDPATは災害時に派遣される医療チームです。

  1. DMAT」は「災害派遣医療チーム」のことであり、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期から活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医師、看護師、業務調整員で構成される医療チームです。
     厚生労働省の認めた専門的な研修・訓練を受けたもの、または同等と認められたものは、厚生労働省にDMAT登録者として登録されます。DMAT登録者は災害時にDMAT指定医療機関から派遣されます。
  2. DPAT」は「災害派遣精神医療チーム」のことであり、「都道府県及び指定都市」によって組織されています。
     派遣された被災地にて被災によって失われた精神科病院機能への支援及び災害時のこころのケア活動を実施します。
     「こころのケアチーム」による見守りレベルのケアではなく、「疾患レベルのケア」を支援します。

 DHEATは自治体の指揮調整機能を支援するチームであり、災害医療コーディネーターは保健医療活動の総合調整を支援する者です。

  1. DHEAT」は「災害時健康危機管理支援チーム」のことであり、被災自治体の指揮調整部門や保健所の「指揮調整機能を支援する」チームです。
     「都道府県及び指定都市」の専門的な研修を受けた医師や薬剤師、保健師などで編成されます。
     一元的な情報収集・分析に基づき、限られた資源の総合調整を行います。個人に向けた支援を行うチームではありません。
  2. 災害医療コーディネーター」とは、災害時に、都道府県又は保健所が保健医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう支援する者であり、被災地の医療ニーズの把握、保健医療活動チームの派遣調整等を行うことを目的として、都道府県により任命された者です。

災害拠点病院・EMIS:

 「災害拠点病院」とは、災害発生時に医療を行う医療機関を「支援する病院」のことです。DMATがある、救命救急が可能、患者の多数発生時に対応可能なスペースを有すなどの要件を満たしている必要があります。また、災害拠点病院を指定するのは、都道府県となります。
 「EMIS(広域災害救急医療情報システム)」とは、インターネット上で災害時の医療情報の共有を図るシステムです。災害時に1人でも多くの負傷者へ医療を提供するために開発され、病院の被災状況・稼働状況を把握する機能を有しています。


災害後の心理的過程(緊急支援時とその後):

 被災者が示す心理過程には「茫然自失期」「ハネムーン期(蜜月期)」「幻滅期」「再建期」の4段階があるとされます。どの段階にあるかを理解した緊急支援及び、その後の心理的援助が必要となります。
(詳細:▼ 災害後の心理的過程)



学校における緊急支援など

 学校における緊急支援(事故や自殺等)においても、スクールカウンセラー(学校臨床心理士)は教職員との連携やコンサルテーションが重要です。

  1. 危機状況では、できるだけ早い段階で「教職員」に対して、心理教育セッションを行う。教職員へ実施後、生徒に対するストレスに関する心理教育の実施を提案していく。
  2. 教師にコンサルテーションを行い、教師の子供理解と適切な関わりを促進する。
  3. 緊急時の対応としては、「長期的な支援との役割分担」と「非侵襲的な支援法」が求められる。
自殺の対応:

 生徒・児童の自殺が生じたときは、学校だけでなく教育委員会の職員派遣や複数のスクールカウンセラーなどによる現地でサポートが不可欠です(参考 )。

  1. 対応態勢: 保護者、報道担当、ケア担当など、校内危機管理チームを編成する。
  2. 遺族との関わり: 早急にコンタクトを行い、葬儀後もかかわりを続ける。
  3. 情報収集・発信: 警察の公表に基づき正確な情報発信を行う。自殺の連鎖(後追い)の可能性に配慮する。
  4. 保護者への説明: 保護者会を開き正確な情報発信を行う。心理教育を行う。
  5. 生徒への説明: 十分な準備を行い、子どもへは「校長から全員にむけた説明(短時間)」及び、「クラス内での説明」を行う。事実を伝え、自然な感情が表現できるようにし、表現を強いることはしない。反応の強い子どもには別の機会に個別に関わる。
  6. 心のケア: 養護教諭、教育相談担当者、スクールカウンセラー等によるケア会議を開く。「自殺した子どもと関係の深い人、元々リスクがある者、現場を目撃した者」のリストアップと評価を行い、アプローチをする。教職員に対してもサポートを行う。


デブリーフィング・デフュージング
デブリーフィング:

 デブリーフィングには、心理的介入や研究、組織活動おいて使用される用語です。それぞれの意味に注意が必要です。
 ブリーフィングとは「簡単に報告する」という意味であり、デブリーフィングは「事後の報告」という意味合いをもっています。

  1. 心理的デブリーフィング:
     心理的デブリーフィングとは、ストレスとなった出来事における経験(認知・情緒的反応)を詳しく話し、感情の表出を促すものです。体験を正しく認識することで、自身の心身の反応が正常なものだと認識され、回復へとつながると考えに基づきます。PTSDの予防を目的としていましたが悪化の報告もあるため、「緊急時支援等」においては行いません
  2. 研究におけるデブリーフィング:
     ある研究や実験が"完了したとき"に被験者に与える説明のことです。研究の理論の概略や、問題・仮説、対象者になされたことの意味を含めます。
     「ディセプション」とは、事前の説明が研究に影響する場合に、本当の目的を知らせない事です。ディセプションを行ったら、デブリーフィングはセットで行います。
  3. 組織活動におけるデブリーフィング:
     組織や企業でのミッションや業務の終了時に専門家や社員たちが行う「業務報告」です。緊急支援における”専門家同士”の日々のデブリーフィングは情報共有のためにも重要とされます。

デフュージング:

 デフュージングとは、災害救援者や支援者が活動終了後に、その日に体験したことを雑談に近い形で話し合い、感情の爆発を予防することです。災害救援者等の間で行われる一次ミーティングの位置づけられます。
 ストレスへの効果は、実施内容の質や災害前の職場や隊の雰囲気によって効果が左右されるという報告があります(青木ら,2019)。




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