公認心理師としての職業倫理について説明します。
用語: 職業倫理の種別 / 多重関係 / 秘密保持 / 保護義務 / インフォームド・コンセント / 公認心理師が不在時の対応 / 専門範囲内の理解・リファー
職業倫理には、「命令倫理」と「理想追求倫理」の二つのレベルがあるとされます。
命令倫理とは、「最低限の基準に従って行動すること(しなければならない・してはならないこと)」をさします。
理想追及倫理とは、「専門家としてめざす最高の行動規範」をさします。
公認心理師の倫理として、7つの原則が挙げられています。7原則を「A 関わり方・態度」「B 専門範囲の理解」「C 秘密保持とインフォームド・コンセント」に分類してまとめました。
A 関わり方・態度: |
B 専門範囲の理解:
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C 秘密保持とインフォームド・コンセント:
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公認心理師の職業倫理の「A 関わり方・態度」、「B 専門範囲の理解」、「C 秘密保持とインフォームド・コンセント」に分類において留意すべき事項をまとめます。
多重関係とは「複数の専門的関係性の中で業務を行っている状況」や「専門家と、それ以外の明確・意図的な役割を持っている状況」をさします。
後者の例としては、「カウンセラーとクライエント、職場での上司の部下」の両方の関係を持つことが挙げられます。
性的多重関係者を含む問題はもっとも多い問題とされており、非性的多重関係の連続線上にあるとされています。
また「関係者への利益誘導」(例:利害関係のある機関へのクライエント紹介)と「商取引・物品交換」なども多重関係に含まれます。
多重関係の弊害としては、下記のような事が考えられます。
要心理支援者を傷つける恐れのある言動として「相手を見捨てること」が挙げらます。具体的な例として、公認心理師の不在があります。
不在には、「時間的余裕がある場合(退職、育児休暇など)」と、「突然の不在の(急病、事故など)」の2種類がありますが、それぞれに対応が必要となります。
時間的余裕がある場合:
早期に要心理支援者に説明し、不在の意味や影響、目標達成の状況、今後の課題、他の心理師へのリファー(紹介)や終結などを話し合います。
突然の不在の場合:
職場の同僚が要心理支援者の意思を尊重した対応を行います。予め、その組織としての対応についてマニュアルを作成しておくことや、対応の内容について要心理支援者と話し合い、希望する対応方法を明確にしておく必要があります。
自身の専門的能力の範囲を超えた要心理支援者を支援することが、症状の悪化をもたらす要因という報告もあります。
専門的能力の範囲内で支援を行うためには、初回面接(インテーク面接)において、的確に心理的アセスメントを行い、自分自身が対応できる範囲内の事柄なのかを迅速に判断する必要があります。
自身の専門的能力の範囲外と判断した場合は、他の専門家に「リファーする」(紹介する)などの処置をとり、リファーは「できるだけ早い時期、可能な限り初回の時点」で行う必要があります。
リファーにおいては、要心理支援者が見捨てられ感を抱かないようにその理由をしっかりと説明し、複数のリファー先を公認心理師が提示して、要心理支援者が次の機関・専門家を自身で決めることができるようにします。
自分の専門範囲であるかの判断には、「1. 注意の標準」と「2. 教育・訓練・経験に基づく専門的能力」があるとされます。
秘密の定義には、法的と倫理的に内容の違いがあります。
法的な「秘密」とは、「本人が隠しておきたいと考えることだけでなく、隠すことに本人が実質的利益のあると客観的に認められる事柄」とされます。
職業倫理的な「秘密」とは、「本人が専門家に対する信頼を基にして打ち明けた事柄」とされます。秘密の価値の判断は含まれず、法的な秘密より範囲が広いです。
( 補足#1: ▼ 個人情報/個人情報保護法)
( 補足#2: ▼ 要配慮個人情報)
秘密保持とは、業務を通してクライエントから得た個人情報や秘密を第3者に開示しない事です。個人情報等の安全な管理も含まれます(電子データや紙データ・ファイル管理)。
支援にあたり、秘密保持がなされないと「要心理支援者が安心して話ができない」、「援助要請を諦め、孤立化を招く恐れがある」などの弊害やリスクがあるため、心理的援助には不可欠とされます。
公認心理師法第41条では秘密保持義務が定められています。
第3者へ情報開示を行う場合には「クライエントの承諾」が必要となります。
秘密保持の例外としては、下記のような、法令の遂行に支障を及ぼす場合やクライエントの承諾を得る事が困難な場合といった「正当な理由」がある場合とされます(参照:個人情報保護法第5条)。
「所属する医療チーム以外」の専門家とクライエントに関して話し合う場合は、専門家同士で「秘密」の扱いに違いがあるため、法律上課題があるとされています。チーム以外の専門家と情報共有する場合は、クライエント本人に情報共有する理由と目的を伝えて、同意を得ること(インフォームド・コンセント)が必須です。
クライエントによる明確的な意思表示がある場合や、専門家同士での情報共有のためにクライエントから情報開示の同意を得る場合は、「誰に(開示対象者)」・「何を(対象範囲)」・「何のために(目的)」を明確にして吟味することが必要とされます。
保護義務(警告義務)とは、自傷・他害の明確で切迫した危機があり、クライエント自身と他者の両方を含んだ犠牲者となり得る人に対して、専門家が果たすべき義務です。秘密保持義務の例外となる状況です。
インフォームド・コンセントとは、クライエントが十分な情報を得たうえで医療行為などに合意することです(詳細:インフォームド・コンセント)。
インフォームド・コンセントは、「クライエントの権利を尊重する・情報の扱いについて明確にする」という職業倫理的の観点だけでなく、「クライエントからの評価や信頼を高め、心理的援助に対するクライエントの理解を促進する」という心理的支援の実践においても不可欠とされます。
インフォームド・コンセントの具体的な内容としては、下記の点があげらます(関連: 治療構造)。