ここでは、「精神保健福祉法」についてまとめます。
用語:
精神保健福祉法とは、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の通称です。
その目的は、第1条に記載されており、下記の3つに努め「精神障害者の福祉の増進及び、国民の精神保健の向上を図ること」とされています。
法律における精神障害者の対象は、「統合失調症」,「精神作用物質による急性中毒又はその依存症」,「知的障害」,「精神病質その他の精神疾患を有する者」をいいます。
「精神病質その他の精神疾患を有する者」には、「うつ病、躁うつ病などの気分障害、てんかん、高次脳機能障害、発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)、ストレス関連障害等」が含まれます。
過去の法律としては、1949(昭和25)年に精神衛生法、1988(昭和63)年7月に精神保健法が制定されており、1995年(平成7年)7月に現在の精神保健福祉法に改められました。
1993(平成5)年に「障害者基本法」施行がされ、精神障害者が福祉の対象となり、精神保健福祉法は1995(平成7)年に障害者基本法に基づき定められています。また、2006(平成18)年に障害者自立支援法を受けて改正、2014(平成26)年には保護者・医療保護入院などの改正がされています。
精神保健指定医とは、精神科医師に認定される国家資格であり、精神保健福祉法第18条に規定されています。精神障害者の人権を制限する非自発的入院・処遇のすべてに関わり、各学会が運営している他の専門医とは、性質が全く異なります。
( 補足: ▼ 精神保健指定医の資格申請 )
精神症状の悪化などで行動制限を行う場合には、保護のための入院措置を取りますが、緊急避難または本人の同意がある場合(任意入院)などの状況に応じて以下の何れかの手続きが行われます。
入院の種類:措置入院 / 緊急措置入院 / 医療保護入院 / 応急入院 / 任意入院
精神障害の疑いのある者についての指定医の診察や保護の措置は、一般市民の誰でも都道府県知事に申請できます。
精神障害により自他に危害を及ぼす疑いがある者を都道府県知事に通報する「通報義務」が「警察官、検察官、保護観察所長、矯正施設長」にはあります。警察官については、最寄りの保健所長を経て通報します。
ただちに入院させなければ、”精神障害のために自身や他人を害するおそれがある”と、「2名の精神保健指定医の診察が一致した場合、都道府県知事または政令指定都市市長の命令により」、精神科病院である指定病院に強制入院させることができる制度です。
原則公費医療であり、自傷他害のおそれがないと認められるまで無期限に継続します。手紙などの発信、電話および面会は許可されていますが、症状におうじて制限される場合があります。
”精神障害のために自身や他人を害するおそれがある”が、何らかの理由で措置入院の手続きを待てない場合、「精神保健指定医1名の診断で、72時間まで措置入院(強制的な入院)」ができます。措置入院より手続きが簡易ですが、時間制約があります。ただし、72時間の入院期間中に、改めて2名の指定医により措置入院についての診察が行われることが通例です。
精神障害者で、”医療及び保護のために入院を要する”と精神保健指定医によって診断された場合、精神病院の管理者は本人の同意がなくても、「家族等の同意により」、入院させることができる制度です(平成26年改正)。家族等とは「配偶者、親権者、扶養義務者、後見人・保佐人、市町村長」が該当します。
医療保護入院者を入院させている精神科病院の管理者は、退院促進に向けて「退院後生活環境相談員」を選任しなければなりません。
ただちに入院させなければ、”医療及び保護を図る上で著しく支障がある”のに、保護者の存在が不明や、生活史(記憶)を想起できない患者で、他の入院手段が 取れない場合に「応急入院指定病院」であれば、病院の管理者が入院させることができる制度です。精神保健指定医の診察を経て、72時間まで、本人の同意がなくても入院させることができます。
任意入院とは、自分の意志で入院する場合です(精神保健指定医の診察は不要)。
任意入院の「退院制限」とは、任意入院中の患者が退院を申し出た場合、精神保健指定医の診察により、医療及び保護のために入院の継続を要することが認められた場合、精神病院の管理者がその患者を72時間を限って退院させないことができる制度です。
<移送制度>
移送制度とは精神保健福祉法34条に規定されている、精神科治療が必要な患者を応急入院指定病院に搬送する制度です。
警察官通報がなされてから精神保健指定医による診察の場まで患者を搬送することが主流です。また、家族が保健所に相談し、保健所による事前調査、精神保健指定医が患者宅に赴いて本人を診察し、保健所などの行政機関が病院への搬送する場合もあります。
<隔離と身体拘束>
緊急措置入院や応急入院緊急において、自傷他害や、自殺企図がある患者は、医師の診察により、12時間を限り「隔離」をおこなうことができます(隔離室は個室で複数の患者を同室にはできない)。
12時間を超える場合は、指定医の診察が必要です。隔離開始に際し文書での告知と記録をし、その後の隔離継続中は毎日医師診察が必要です。
また、「身体拘束」をおこなう場合も、文書での告知と記録をし、その後の継続診察が必要です。
<退院等の請求>
入院措置に対して、入院中の患者、またはその家族等(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人・保佐人、市町村長)は、都道府県知事に対して退院や処遇改善の請求を行う事ができます。
都道府県知事は、退院等の請求を受けた事を「精神医療審査会」に通知し、入院の必要があるか、その処遇が適当であるに関して、審査を求めなければなりません。
「精神医療審査会」とは、都道府県及び指定都市に設置が義務付けられた、患者の人権擁護の観点に立って、入院患者の入院継続の要否や入院中の患者や家族などからの不服申立て(退院請求・処遇改善請求)について妥当性審査を行う機関です。
2006(平成18)年の改正で「指定医2人以上」、「法律に関し学識経験を有する者1人以上」、「その他の学識経験者1人以上」の5名をもって構成する合議体で審査を行い、任命は都道府県知事がすると精神保健福祉法に規定されています。
そのほか、精神保健及び精神障害者の福祉に関する事項を調査審議させるため、都道府県が置くことができる機関として、「地方精神保健福祉審議会」があります。以前は設置が義務付けられ、指定病院の取り消しの意見聴取の機能がありましたが、2006年の改正で設置が任意となり、設置されない場合は、その機能は、都道府県医療審議会が担当することとなっています。
精神保健福祉センターとは、精神保健福祉法に規定された施設であり、精神保健の向上及び精神障害者の福祉の増進を図るために都道府県に設置が義務付けられています。
医療、福祉、労働、教育、産業等の他の機関との連携を図りながら、保健所や市町村の技術指導及び技術援助を行うことを指針として、以下のような業務を行っています。
精神障害者保健福祉手帳は、平成7(1995)年より都道府県県知事により発行され、障害に応じて1-3級があります。対象となる障害は「精神保健福祉法」参照。
所得税・住民税の控除、公共施設入場料や交通機関の割引を受けることができます。
今まではプライバシーの保護のため写真が無く、表紙には「障害者手帳」とのみ記載されているのが特徴でしたが、受けられるサービスが限定されるという問題があり、平成18年の改正で写真が添付されるようになっています。
知的障害者は、「療育手帳制度」があるため、精神障害者保健福祉手帳の対象外です。療育手帳の別名は、愛の手帳(東京都)などが有名です。ただし、知的障害と精神疾患を両方有する場合は、両方の手帳を受けることができます。