ここでは、「心神喪失者等医療観察法(医療観察制度)」、「医療保険」、「医療倫理」についてまとめます。
用語:
心神喪失とは、「精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力またはその弁識に従って行動する能力のない状態(大審院判決)」をいいます。
心神耗弱とは、欠如する程度には達しないが著しく減退している状況をいいます。
「刑法第39」には、「心神喪失者の行為は、罰しない」、「心神耗弱者の行為はその刑を減軽する」とあります(関連:精神鑑定)。
「心神喪失者等医療観察法」とは、心神喪失などの状態で重大な他害行為を行った者に対し、症状改善と再発防止、社会復帰促進を目的に継続的かつ適切な医療の確保とそのための観察・指導を行うことに関する法律です(厚生労働省 )。
対象となる重大な他害行為の主要な罪名は「殺人」、「放火」、「強盗」、「強制性交等」、「強制わいせつ」、「傷害」の6種類となります。
「医療観察制度」は、心神喪失者等医療観察法に基づき、適切な処遇の決定、専門的な医療提供、生活環境の調整などを行う制度です。
医療観察の流れの概要は下記の通りです。
「a) 入院」は、指定入院医療機関にて多職種行動チームによる医療を受けます。
「b) 通院」は、保護観察所(社会復帰調整官)による精神保健観察を受けながら指定通院医療機関に通院します。
医療観察法に定められた「精神保健審判員」、「精神保健参与員」、「社会復帰調整官」を下表にまとめます。
選任要件及び、役割 |
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精神保健審判員: 精神保健審判員は、精神保健判定医の名簿から選任されます。精神保健判定医は、精神保健審判員の職務を行うのに必要な学識経験を有する医師であり、厚生労働大臣が該当する者の名簿を「最高裁判所」へ送付します。 精神保健審判員は、「精神障害者の医療に関する学識経験に基づき、その意見を述べなければならない」(第13条)とされ、裁判官と処遇を決定します。 |
精神保健参与員: 精神保健参与員は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術を有する者であり、厚生労働大臣が該当する者の名簿を「地方裁判所」へ送付します。 精神保健参与員は、裁判所が必要な場合に、処遇の要否・内容について意見を聴かれ、審判に関与します。 |
社会復帰調整官: 社会復帰調整官は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者です。 社会復帰調整官は、保護観察所に配置され精神保健観察を行います。また、裁判所や司法精神専門施設などの関係機関と調整したり、多職種と連携を図ります。 |
日本の医療保険制度は、国民であれば、被保険者として誰でも医療をうけることができる「国民皆保険制度」です。
診療報酬とは、個別医療サービスの公的価格であり、2年ごとに改定されます。患者は、保険医療機関・保険薬局で医療サービスを受け、医療費の自己負担を支払います。
自己負担額は、「70才未満・現役並み所得高齢者は3割」、「義務教育就学前は2割」、「70才以上は2割」、「75才以上は1割」です。
保険医療機関や保険薬局は「審査支払機関」に診療報酬を請求します。審査支払機関は、請求を審査した後に、保険医療機関・保険薬局への支払いを行い、医療保険者へは支払い請求を行います。
「医療保険者」とは、医療保険料(税金)を徴収したり、保険給付を行う下記の団体のことです。
公認心理師の診療報酬は、現行の臨床技術者等に相当し、下記のような医療サービスに対して適用されます。
「臨床心理・神経心理検査」、「通院・入院集団精神療法」、「精神科ショートケア・デイケア・ナイトケア」、「精神科リエゾンチーム加算」、「入院生活技能訓練療法」、「包括病棟」、「退院調整加算」など
保健医療分野における倫理について説明していきます。
医療倫理には、「医療倫理の4原則」として、「自律尊重原則」、「善行原則」、「無危害原則」、「正義原則」があります(T.L.BeauchampとJ. F.Childressが提唱)。
また、臨床場面での倫理的問題の検討するときに有用な枠組みとして、「Jonsenの四分割法」があります。
患者には権利がありますが、同時に果たすべき義務もあります。
患者の権利には(世界医師会リスボン宣言)、「良質の医療を受ける権利」、「選択の自由の権利」、「自己決定の権利」、「情報に対する権利」、「守秘義務に関する権利」、「健康教育をうける権利」、「尊厳に対する権利」、「宗教的支援に対する権利」があります。
患者の義務については、各医療機関で定められていることが多く、
「主体的な医療・療養への参加 (正確な情報の提供、疾病や治療、治療の限界の理解、希望の伝達)」、「他者を含めた療養環境の維持への協力」、「診察費支払い」などがあります。
過去においては、患者と医療関係者の関係は、医師を頂点とした垂直的な関係でしたが、現在は、患者を中心とした水平的な関係に移行しています(患者と医療者の水平的・共同的関係)。
水平な関係において、患者と医療者が共同で治療の意思決定を行うことを「シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM:Shared Decision Making)」と呼びます。
エビデンスベースドメディシン(EBM)とは、エビデンスに基づく医療行為の実施であり、治療効果と経済効果を検討するための方略とされます。
EBMの3要素とは、「1)科学的根拠」、「2)臨床上の経験・技能」、「3)患者の価値観」とされます。科学的根拠だけが強調されますが、3要素を考慮します。
(エビデンスベイストメディシン・エビデンスベイスドメディシンとも訳されています)
医療は生命財という1回性、不可逆性において価値が唯一無二となるものを取り扱うため、医療安全への圧力につねにさらされます。
医療安全への取り組みの具体的な事項としては、医療安全管理室の設置などの「組織的取り組み」、インシデント報告などの「医療安全活動」、「感染対策」などが挙げられます。
医療機関には、「医療安全管理室、院内感染管理室、リスクマネージメント委員会、医療事故調査委員会」などの組織や委員会を構成し、事故の事前予防・防止にむけて活動します。
医療安全のために医療者の実践する活動としては「患者確認」、「インシデント・アクシデント報告と分析」、「KYT(危険予知トレーニング)」、「5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、躾)」、「転落防止」などがあります。
(詳細:▼ アクシデント/インシデントレポート)
感染対策は医療者自身を感染から守るだけでなく、患者を感染から守るために必須の技能です。
すべての患者を対象にする予防策である「標準予防策」には、アルコール手指消毒薬、石鹸と流水による「手指衛生」(WHOの手差し衛生ガイドラインがある)のほか、「手袋、マスク、アイプロテクション、フェイスシールド、ガウンの着用」など含まれています。
以下に、標準予防策における手袋と防護具の留意点を記載します。
医師は患者を診断したら遅滞なく「経過を記録すること(診療録の記載)」と、その診療録の5年間の保存が義務づけられています(医師法第24条)。
また、診療録以外の検査記録、画像記録、手術予見、安全管理の体制確保の状況等を含む診断に関する諸記録は「2年間保存」が必要と定められています(医療法第21条)。
診療録は、問題志向型記録(POMR: Problem-Orientated Medical Record)を用いるのが一般的であり、
「SOAP形式」で記載されます。
診療情報とは、「診療の過程で、患者の身体状況、病状、治療等について、医師またはその指揮・監督下にある医療従事者が知り得た情報」を指します。診療録も含まれます。また、紹介状とは診療情報提供書を意味します。
診療情報は、口頭による説明、説明文書の交付、診療記録等の開示等、具体的状況に即した適切な方法により提供することとなっています。
医師および医療施設の管理者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求めた場合には、原則としてこれに応ずるものとするとされています。