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公認心理師試験用語集 : 産業・労働分野の法規や制度(労働災害に関わる法律など)

5 - 法律・行政産業・労働に関する法律 > 75- 育児介護休業法

 ここでは、「育児介護休業法」、「ワーク・ライフ・バランス」及び、「治療と仕事の両立支援」についてまとめます。

用語:育児介護休業法ワーク・ライフ・バランスワーク・ファミリー・コンフリクトスピルオーバー) / 治療と仕事の両立支援



育児介護休業法

 育児介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、育児及び家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるよう支援することにより、その福祉の増進と、経済及び社会の発展に資することを目的としています。
 1992年に施行され、2009・2016・2017(平成21・28・29)年、さらに2019年(令和元年)にも改正されています(参照:厚生労働省)。

 平成29年改正のおける「育児休業・休暇」と「介護休業・休暇」に関する内容をそれぞれまとめます。

育児関係の休業・休暇:
 育児休業
  1. 内容: 労働者が原則としてその1歳に満たない子を養育するためにする休業
  2. 対象: 労働者。労使協定によって「雇用期間1年未満、週2日以下、1年以内に退職する労働者」は対象外にできる。
  3. 回数や期間:
     子1人につき原則1回。事情におうじて再度取得が可能。
     期間は、子が1歳になるまでが原則。夫婦で取得等の要件を満たせば1歳2ヶ月まで取得可能。
     期間の延長は、保育園等への入所ができない等条件を満たせば、まず1歳6か月まで、さらに最大2歳まで延長可能。
  4. 手続き: 労働者が書面等で事業主に申出(事業主は証明書類の提出を求められる)。
     事業主には、当該労働者に対して個別に育児休業等に関する制度を通知する「努力義務」があります。
 子の看護休暇
  1. 内容: 労働者が養育する未就学児の看護や予防接種等のための休暇
  2. 対象: 労働者。労使協定によって「雇用期間6カ月未満、週2日以下の労働者」は対象外にできる。
  3. 回数など: 1年に5日まで(未就学児が2人以上は10日まで)。
     半日単位で取得が可能。令和3年からは、時間単位で取得可能。
 労働時間等に関する制度
3歳未満の子を養育する労働者」:
  1. 残業禁止: 労働者の請求により、所定外労働時間をさせてはならない(対象外:勤労1年未満、週2日以下の労働者)。
  2. 時短措置: 1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置等を講じる義務が事業者にはある(時短以外は、フレックスや事業所内保育施設設置等の措置)。

未就学の子を養育する労働者」:
  1. 残業制限: 労働者の請求により、事業主は制限時間(1か月24時間、1年150時間)を超えて労働時間を延長してはならない (対象外:勤労1年未満、週2日以下の労働者)。
  2. 深夜労働禁止: 事業主は深夜(午後 10 時〜午前5時)の労働をさせてはならない(対象外:勤労1年未満、、週2日以下の労働者、保育可能な16歳以上の同居の家族がいる)。
  3. 措置実施の努力義務: 育児休業に関する制度、残業やの短縮措置、フレックスタイム制等の措置に準じて、必要な措置を講ずる努力が事業者にはある。
  4. 育休の努力義務: 育児目的休暇制度を設ける努力義務が事業者にはある。


介護関係の休業・休暇:
 介護休業
  1. 内容: 労働者がその要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業
  2. 対象: 労働者。労使協定によって「雇用期間1年未満、週2日以下、93日以内に退職する労働者」は対象外にできる。
  3. 回数や期間: 対象家族1人につき、3回。
     期間は、対象家族1人につき「通算93日」まで。
  4. 手続き: 労働者が書面等で事業主に申出(事業主は証明書類の提出を求められる)。
 介護休暇
  1. 内容: 労働者が要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業
  2. 対象: 労働者。労使協定によって「雇用期間6カ月未満、週2日以下の労働者」は対象外にできる。
  3. 回数など: 1年に5日まで(対象家族が2人以上は10日まで)。
     半日単位で取得が可能。令和3年からは、時間単位で取得可能。
 労働時間等に関する制度
  1. 残業禁止: 労働者の請求により、所定外労働時間をさせてはならない(対象外:勤労1年未満、週2日以下の労働者)。
  2. 残業制限: 労働者の請求により、制限時間(1か月24 時間、1年 150 時間)を超えて労働時間を延長させてはならない(対象外:勤労1年未満、週2日以下の労働者)。
  3. 深夜労働禁止: 事業主は深夜(午後 10 時〜午前5時)の労働をさせてはならない(対象外:勤労1年未満、、週2日以下の労働者、保育可能な16歳以上の同居の家族がいる)。
  4. 措置義務: ”常時”介護を要する場合は、利用開始から3年以上の間で2回以上の利用を可能とする措置を講ずる義務が事業者にはある(措置:時短勤務、フレックスタイム、始業・終業時刻の繰上げ繰下げ、介護サービス費用助成)。
     常時ではない場合は、その介護を必要とする期間、回数等に配慮した必要な措置を講ずる努力義務がある。



ワーク・ライフ・バランス

 ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を実現した社会とは「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」とされます(仕事と生活の調和憲章)。

 具体的には下記の3つの実現が挙げられており、そのための行動指針や、数値目標が設定されています(行動指針)。

  1. 「就労による経済的自立が可能」
     若者や母子家庭の母等の経済的自立、非正規雇用から正規雇用へ移行などが求められる。
    【数値指標】就業率、フリーター数、時間当たり労働生産性の伸び率
  2. 「健康で豊かな生活のための時間が確保できる」
     長時間労働がなく有給取得が取得できる、労働時間関係法令の遵守などが求められる。
    【数値指標】週労働時間60時間以上の雇用者の割合、年次有給休暇取得率、など
  3. 「多様な働き方・生き方が選択できる」
     人生の各段階に応じて多様で柔軟な働き方が可能となる制度、公正な処遇や能力開発の機会、多様な働き方に対応した育児、介護、地域活動、職業能力の形成等を支える社会的基盤が整備されていることなどが求められる。
    【数値指標】短時間勤務を選択できる事業所の割合、男性の育児休業取得率など

ワーク・ファミリー・コンフリクト:

 ワーク・ファミリー・コンフリクトとは「個人の仕事と家庭からの役割の要請が、互いに両立しないような役割葛藤の形態」とされます。

 「仕事領域から家庭領域への葛藤(仕事→家庭)」と「家庭領域から仕事領域への葛藤(家庭→仕事)」の2つの方向があるとされます。

  1. 仕事→家庭: 仕事のために「家事・子育て・会話等」ができない・時間が少なくなる。
    (例:仕事のために家事がおろそかになる、仕事のせいで夫婦関係が悪い、教師といった職業人として子供や家族に接する)
  2. 家庭→仕事: 家庭のために「仕事の時間が取れない・休む・集中できない」等。
    (例:家事や介護で疲れて仕事に十分取り組めない、子育てのために仕事量を抑える、子供の発熱により重要な会議の欠席など)

 一方で、仕事と家庭のポジティブな関係を示す「ワーク・ファミリー・ファシリテーション」があります。
 ワーク・ファミリー・ファシリテーションとは仕事と家庭の両方に携わる事で得られる資源が、相互に役割の遂行を容易にする相乗効果の形態とされます。


スピルオーバー/クロスオーバー:

 「スピルオーバー」とは「人の一方の役割における状況や経験が、他方の役割における状況や経験にも影響を及ぼすこと」を意味します(文献 )。
 スピルオーバーには、悪い影響を及ぼすネガティブ・スピルオーバーと、良い影響を及ぼすポジティブ・スピルオーバーがあるます。
 仕事と家庭の役割の関係において、ネガティブ・スピルオーバーは「ワーク・ファミリー・コンフリクト」と類似した概念を意味しています。逆に、ポジティブ・スピルオーバーは「ワーク・ファミリー・ファシリテーション」に類似した概念です。

 「クロスオーバー」とは「個人の感情や態度が別の個人に伝播する現象」をさします。
 個人のネガティブ・スピルオーバーが、配偶者や会社の同僚などのストレスに影響を与えることはクロスオーバーにあたります。
 ネガティブだけでなく、ポジティブなクロスオーバーもあります。



治療と仕事の両立支援

 仕事を持ちながら、がんで通院している者の数は増加しており、事業場における疾病を抱えた労働者の「治療と仕事の両立のためのガイドライン」が厚生労働省から出されています(ガイドライン )。
 ガイドラインは、事業者は疾病にかかった労働者に対しても就業の機会を失わせないよう努めなければならないという、労働安全衛生法・労働安全衛生規則を根拠としています。
 ガイドラインの対象は「反復・継続して治療が必要となる疾病」であり、「雇用形態に関わらず、全ての労働者」となっています。
 反復・継続して治療が必要となる疾病には「がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病など」が挙げられており、メンタルヘルスに関する疾病も対象です。
 事業者は「基本方針等の表明と労働者への周知、啓蒙活動、相談窓口や休暇・勤務制度の整備等」を行います。
 ガイドラインには治療と仕事の両立支援を行うに当たっての留意事項として下記が挙げられています。

  1. 安全と健康の確保
    就労によって、疾病の増悪等が生じないよう、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行う。仕事の繁忙等を理由に措置や配慮を行わないことがあってはならない。
  2. 労働者本人による取組
    労働者本人が、主治医の指示等に基づき、治療や疾病の増悪防止について適切に取り組む。
  3. 労働者本人の申出
    労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となる。
  4. 治療と仕事の両立支援の特徴を踏まえた対応
    労働者本人の健康状態や業務遂行能力も踏まえた就業上の措置等が必要となる。
  5. 個別事例の特性に応じた配慮
    個人ごとに取るべき対応やその時期等は異なるため、個別事例の特性に応じた配慮が必要
  6. 対象者、対応方法の明確化
    事業場の状況に応じて、対象者や対応方法といった事業場内ルールを労使の理解を得て制定する。
  7. 個人情報の保護
    健康診断において把握した場合を除いては、事業者が本人の同意なく取得してはならない。
  8. 両立支援にかかわる関係者間の連携の重要性
    労働者本人以外に次の関係者と連携する。「1)事業場の関係者(事業者、人事労務担当者、上司・同僚等、労働組合、産業医、保健師、看護師等の産業保健スタッフ等)」、「2)医療機関関係者(医師(主治医)、看護師、医療ソーシャルワーカー等)」、「3)地域で事業者や労働者を支援する関係機関・関係者(産業保健総合支援センター、労災病院に併設する治療就労両立支援センター、保健所(保健師)、社会保険労務士等)」。
    両立支援コーディネーター」は、労働者の同意のもと、本人及び関係者の連携を支える。

    参考)ガイドラインの根拠「労働安全衛生法・労働安全衛生規則の抜粋・要約」
  1. 事業者は、「心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者」については、その就業を禁止しなければならない。
  2. 上記規定は、その労働者の疾病の種類、程度、これについての産業医等の意見を勘案してできるだけ配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講ずることによって就業の機会を失わせないようにし、やむを得ない場合に限り禁止する趣旨であり、種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものである。
  3. 事業者は、その就業に当たって、中高年齢者等の特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行うように努めなければならない


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