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公認心理師試験用語集 : 産業・労働分野の法規や制度(労働安全衛生法)

5 - 法律・行政産業・労働に関する法律 > 72- 労働安全衛生法

 ここでは、「労働安全衛生法」とそれに関連した指針や制度についてまとめます。
用語:

  1. 労働安全衛生法産業医, 面接指導, 自己保健義務, 健康診断と特定健診
  2. THP・快適職場心の健康の保持増進(予防・ケア)職場復帰支援
  3. ストレスチェック制度実施義務・実施者検査内容結果と措置


労働安全衛生法

 労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を守り、労働災害を防止することを目的とした法律です(1947年制定)。
 労働災害防止計画、安全衛生管理体制、労働者の危険・健康障害防止、労働者の健康保持増進のための措置などが規定されています。
 事業者による健康診断の実施義務、労働者の受診義務は、健康保持増進のための措置に含まれます。


安全衛生管理体制:

 職場における労働者の安全と健康を守るために、事業者は「総括安全衛生管理者」、「安全管理者」、「衛生管理者」、「安全衛生推進者」を事業内容や規模の応じて選任しなければなりません。
 50人以上の労働者を使用する事業所では、「衛生委員会の設置」、「産業医の選任」が義務付けられています。


産業医:

 50人以上の労働者を使用する事業所では「産業医の選任」が義務付けられています。
 産業医は、労働者が健康に就労できるように、「健康診断とその結果に基づく措置、治療と仕事の両立支援、ストレスチェック制度や長時間労働者に対する面接指導、職場巡視」などを行います。事業場内での診療は行いません。
 産業医は衛生委員会のメンバーであり、健康管理体制や職場環境、働き方についてに医学的な助言を行います。また、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告を行うことができます。


医師による面接指導

 事業場の人数に関係なく、事業者に対して、長時間労働者への医師による面接指導が義務付けられています。
 面接指導は基本は労働者の申出が必要ですが、職種によっては申出がなくとも実施する必要があります。

 (補足: ▼ 職種別の面接指導の対象

 医師による面接指導は原則直接対面ですが、条件を満たせば情報通信機器を用いる事も可能となっています。
 事業者は、面接指導の結果の記録を作成し、5年間保存する義務があります(実施年月日、労働者氏名、医師名、医師の意見内容)。


自己保健義務:

 健康管理に関する労働者自身の義務を「自己保健義務」、安全管理に関する労働者自身の義務を「自己安全義務」と言います。
 労働安全衛生法にも第26条において「労働者は、事業者が講ずる措置に応じて必要な事項を守らなければならない」と定められて、労働者には健康診断を受ける義務(第66条)があります。
 ストレスチェック制度においては、検査を受けることや、医師の面接指導を受けることは、自己保健義務に委ねられています。


労働者の健康状態に関する情報:

 事業者は「労働者の健康の確保に必要な範囲内」で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管、使用することが認められています(第104条)。
 労働者の健康情報は、要配慮情報であり、情報の取り扱いに十分な配慮が求められます。
 ストレスチェック制度においては、事業者は労働者の同意がなければ検査結果を得ることはできません。


健康診断と特定健診・特定保健指導:

 労働安全衛生法では、「事業者」は常時使用する労働者に対して「一年以内ごとに一回」、医師による「健康診断」を行わなければならないと定められています。定期健康診断のことです。

 「特定健康診査及び、特定保健指導」の実施は、「高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)」に定められています。
 生活習慣病の予防を目的としており、「医療保険者(国民健保や協会けんぽ等)」が「40歳以上75歳以下の保険加入者」を対象として行います。

  1. 特定健康診査は、いわゆるメタボ検診こと。医療保険者は、事業主に定期健康診断結果の一部を提出させ、それをもって特定健康診査結果とすることができる。
  2. 特定保健指導は、生活習慣病の発症リスクが高く、生活習慣の改善によって予防効果が見込まれる者に対して、「医師、保健師、管理栄養士」が指導を行う。



トータルヘルスプロモーションプラン指針・快適職場指針

 法律には規定されていませんが、ガイドラインである「トータルヘルスプロモーションプラン指針」と「快適職場指針」をまとめます。

THP(トータルヘルスプロモーションプラン)指針:

 THP(トータルヘルスプロモーションプラン)指針とは、事業場における労働者の心身両面の総合的な健康の保持増進を図ることを目標とした指針です(1988年)。
 THP指針における「メンタルヘルスケア」の対象は、積極的な健康づくりを目指す人であり、下記の実施を行います。

  1. 産業医による健康測定と、全般的な指導
  2. 必要に応じた「運動指導」、「保健指導」、「メンタルヘルスケア」、「栄養指導」の実施
快適職場指針:

 快適職場指針とは、事業者の快適な職場づくりを努力義務とした指針です(1992年)。職場のストレス軽減対策の先駆けとされます。



労働者の心の健康の保持増進のための指針

 労働者の心の健康の保持増進のための指針とは、労働安全衛生法に基づき、事業者が講ずるように努めるべきメンタルヘルスケア(4つのケア)の実施に関する指針です(2006年)。
 (労働安全衛生法第69条:事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない。)


メンタルヘルスの予防の種類:

労働者のメンタルヘルスの予防の種類として「1次予防、2次予防、3次予防」があります。

  1. 一次予防:未然防止
  2. 二次予防:早期発見、早期対応
  3. 三次予防:職場復帰の支援等
4つのケア:

 労働者の心の健康の保持増進のためには、「ストレスへの気づきや対処法などに関する教育研修・情報提供」を行い、「4つのケア」を推進し、「職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、休業者の職場復帰のための支援等」が円滑に行われるようにする必要があるとされています。
 「4つのケア」は下記のように定められています。

  1. セルフケア
     労働者自身によるケア
  2. ラインケア
     管理監督者(経営者と一体的立場の「管理職」)によるケア
  3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
     事業場にいる産業医や保健師、人事労務担当者などによるケア
  4. 事業場外支援によるケア
     医療・保健機関サービス、EAPサービスなどによるケア



職場復帰支援の手引き

 職場復帰支援の手引きは、メンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰支援についての事業所向けマニュアルです(2004)。

 事業所は職場復帰支援を下記の5ステップに分けて行う事が望ましいとされています。
 5つの各ステップの詳細は「職場復帰支援の手引き 」を参照ください。

  1. 病気休業開始・休業中のケア
     労働者が安心して療養に専念できるように、傷病手当金などの補償、悩みの相談先等や職場復帰支援サービスの情報提供を行います。
  2. 主治医による職場復帰可能の判断
     事前に主治医に対して職務内容等の情報提供します。また主治医の判断に対して、産業医等が精査した意見書を提出してもらいます。
  3. 職場復帰可否判断、復帰支援プランの作成
     労働者の職場復帰に対する意思の確認後、必要な情報収集と評価を行った後、職場復帰の可否判断を行います。その後、復職プランの作成を、産業保健スタッフ、上司、休職中の労働者などの間で連携して行います。復職プランは個別で具体的な内容とします。
  4. 最終的な職場復帰の決定・職場復帰
     主治医からの情報、産業医からの意見書、事業所の対応や配慮などから、事業者が最終的な復職決定を行います。労働者の個々のケースに応じて、業務務遂行能力が完全に改善していない状況や職場の受け入れ制度や態勢との組み合わせ等を考慮した、総合的な判断が必要です。
  5. 復帰後のフォローアップ
     プランの実施状況を確認はし、問題が生じている場合はプラン内容の変更を検討します。再発・再燃についての早期な気づきと対応が不可欠です。

 留意点としては「プライバシー保護」が重要となります。労働者の情報収集や情報提供には本人との同意が必要です。
 その他、下記のような検討が事業所において必要です。

  1. 主治医との連携の仕方(労働者の業務内容の共有、情報提供の費用負担等)
  2. 正式な職場復帰決定の前の試し出勤(模擬出勤や通勤訓練)制度等の設置
  3. 段階的復職の実施や,就業上の配慮(短時間出勤などの時間調整、軽作業など業務内容調整等)



ストレスチェック制度

 ストレスチェック制度とは、労働者のメンタル不調の一次予防を目的に、労働者のストレス検査の実施する制度です(2014年)。
 労働安全衛生法に基づいた制度であり、常時50人以上の労働者を使用する「事業者に対して義務化」されています。
 下記にストレスチェック制度の概要をまとめます。
 ( 実施義務・実施者検査内容結果と措置


ストレスチェック制度の実施義務:

 事業者には、ストレス検査を「1年ごとに1回」行うことが義務付けられている。
 労働者が50名未満の事業所は努力目標。
 事業者は、労働者の受検の有無を把握し、未受検の労働者に対して、受検を勧奨することができる。


ストレスチェックの実施者:

 ストレスチェックの実施者は、下記とされる。但し、医師と保健師以外は、厚生労働大臣が定める研修を修了する必要がある。

  1. 「医師」
  2. 「保健師」
  3. 「歯科医師」
  4. 「看護師」
  5. 「精神保健福祉士」
  6. 「公認心理師」

ストレスチェックの検査内容:

 ストレスチェックにおいては、職場における「心理的負担」「心身の自覚症状」「他の労働者による支援」を検査内容に含む事とされている。
 職業性ストレス簡易調査票は下記の3つから構成されている(参照 )。

1. 仕事のストレス要因
  1. 値が高いとストレス反応を高める
     仕事の負担[量],仕事の負担[質],身体的負担,対人関係,職場環境
  2. 値が高いとストレスを緩和
     仕事のコントロール,技能の活用,仕事の適性度,働きがい
2.ストレス反応
  1. 活気, イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感,身体愁訴
3. 修飾要因(サポート等)
  1. 値が高いとストレス反応を緩和
     上司からのサポート,同僚からのサポート,家族や友人からのサポート,仕事や生活の満足度



検査結果の通知:

 ストレスチェックの結果は、検査実施者から「労働者個人」に通知される。
 事業者は労働者の同意がなければ結果を得られず、また結果に基づく不利益な取り扱いを禁止されている。


面接指導:

 実施者は、労働者に対して、面接指導の申出を行うよう勧奨することができる。
 労働者(面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者)から事業者に申出があった場合は、事業者はその労働者に対して医師による面接指導を実施する。


必要措置:

 事業者は、面接指導の結果に基づき、労働者に必要な措置に関して医師の意見を聴き、必要性に応じて措置(労働時間の短縮等)を講じなければならない。
事業者は努力目標として、「集団分析(部門など組織単位でのチェック)」を行い、職場のストレス要因の評価、職場環境の改善に努めることとされている。




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