ここでは、「労働安全衛生法」とそれに関連した指針や制度についてまとめます。
用語:
労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を守り、労働災害を防止することを目的とした法律です(1947年制定)。
労働災害防止計画、安全衛生管理体制、労働者の危険・健康障害防止、労働者の健康保持増進のための措置などが規定されています。
事業者による健康診断の実施義務、労働者の受診義務は、健康保持増進のための措置に含まれます。
職場における労働者の安全と健康を守るために、事業者は「総括安全衛生管理者」、「安全管理者」、「衛生管理者」、「安全衛生推進者」を事業内容や規模の応じて選任しなければなりません。
50人以上の労働者を使用する事業所では、「衛生委員会の設置」、「産業医の選任」が義務付けられています。
50人以上の労働者を使用する事業所では「産業医の選任」が義務付けられています。
産業医は、労働者が健康に就労できるように、「健康診断とその結果に基づく措置、治療と仕事の両立支援、ストレスチェック制度や長時間労働者に対する面接指導、職場巡視」などを行います。事業場内での診療は行いません。
産業医は衛生委員会のメンバーであり、健康管理体制や職場環境、働き方についてに医学的な助言を行います。また、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告を行うことができます。
事業場の人数に関係なく、事業者に対して、長時間労働者への医師による面接指導が義務付けられています。
面接指導は基本は労働者の申出が必要ですが、職種によっては申出がなくとも実施する必要があります。
(補足: ▼ 職種別の面接指導の対象)
医師による面接指導は原則直接対面ですが、条件を満たせば情報通信機器を用いる事も可能となっています。
事業者は、面接指導の結果の記録を作成し、5年間保存する義務があります(実施年月日、労働者氏名、医師名、医師の意見内容)。
健康管理に関する労働者自身の義務を「自己保健義務」、安全管理に関する労働者自身の義務を「自己安全義務」と言います。
労働安全衛生法にも第26条において「労働者は、事業者が講ずる措置に応じて必要な事項を守らなければならない」と定められて、労働者には健康診断を受ける義務(第66条)があります。
ストレスチェック制度においては、検査を受けることや、医師の面接指導を受けることは、自己保健義務に委ねられています。
事業者は「労働者の健康の確保に必要な範囲内」で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管、使用することが認められています(第104条)。
労働者の健康情報は、要配慮情報であり、情報の取り扱いに十分な配慮が求められます。
ストレスチェック制度においては、事業者は労働者の同意がなければ検査結果を得ることはできません。
労働安全衛生法では、「事業者」は常時使用する労働者に対して「一年以内ごとに一回」、医師による「健康診断」を行わなければならないと定められています。定期健康診断のことです。
「特定健康診査及び、特定保健指導」の実施は、「高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)」に定められています。
生活習慣病の予防を目的としており、「医療保険者(国民健保や協会けんぽ等)」が「40歳以上75歳以下の保険加入者」を対象として行います。
法律には規定されていませんが、ガイドラインである「トータルヘルスプロモーションプラン指針」と「快適職場指針」をまとめます。
THP(トータルヘルスプロモーションプラン)指針とは、事業場における労働者の心身両面の総合的な健康の保持増進を図ることを目標とした指針です(1988年)。
THP指針における「メンタルヘルスケア」の対象は、積極的な健康づくりを目指す人であり、下記の実施を行います。
快適職場指針とは、事業者の快適な職場づくりを努力義務とした指針です(1992年)。職場のストレス軽減対策の先駆けとされます。
労働者の心の健康の保持増進のための指針とは、労働安全衛生法に基づき、事業者が講ずるように努めるべきメンタルヘルスケア(4つのケア)の実施に関する指針です(2006年)。
(労働安全衛生法第69条:事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない。)
労働者のメンタルヘルスの予防の種類として「1次予防、2次予防、3次予防」があります。
労働者の心の健康の保持増進のためには、「ストレスへの気づきや対処法などに関する教育研修・情報提供」を行い、「4つのケア」を推進し、「職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、休業者の職場復帰のための支援等」が円滑に行われるようにする必要があるとされています。
「4つのケア」は下記のように定められています。
職場復帰支援の手引きは、メンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰支援についての事業所向けマニュアルです(2004)。
事業所は職場復帰支援を下記の5ステップに分けて行う事が望ましいとされています。
5つの各ステップの詳細は「職場復帰支援の手引き 」を参照ください。
留意点としては「プライバシー保護」が重要となります。労働者の情報収集や情報提供には本人との同意が必要です。
その他、下記のような検討が事業所において必要です。
ストレスチェック制度とは、労働者のメンタル不調の一次予防を目的に、労働者のストレス検査の実施する制度です(2014年)。
労働安全衛生法に基づいた制度であり、常時50人以上の労働者を使用する「事業者に対して義務化」されています。
下記にストレスチェック制度の概要をまとめます。
( 実施義務・実施者 / 検査内容 / 結果と措置 )
事業者には、ストレス検査を「1年ごとに1回」行うことが義務付けられている。
労働者が50名未満の事業所は努力目標。
事業者は、労働者の受検の有無を把握し、未受検の労働者に対して、受検を勧奨することができる。
ストレスチェックの実施者は、下記とされる。但し、医師と保健師以外は、厚生労働大臣が定める研修を修了する必要がある。
ストレスチェックにおいては、職場における「心理的負担」「心身の自覚症状」「他の労働者による支援」を検査内容に含む事とされている。
職業性ストレス簡易調査票は下記の3つから構成されている(参照 )。
1. 仕事のストレス要因 |
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| 2.ストレス反応 |
| 3. 修飾要因(サポート等) |
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ストレスチェックの結果は、検査実施者から「労働者個人」に通知される。
事業者は労働者の同意がなければ結果を得られず、また結果に基づく不利益な取り扱いを禁止されている。
実施者は、労働者に対して、面接指導の申出を行うよう勧奨することができる。
労働者(面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者)から事業者に申出があった場合は、事業者はその労働者に対して医師による面接指導を実施する。
事業者は、面接指導の結果に基づき、労働者に必要な措置に関して医師の意見を聴き、必要性に応じて措置(労働時間の短縮等)を講じなければならない。
事業者は努力目標として、「集団分析(部門など組織単位でのチェック)」を行い、職場のストレス要因の評価、職場環境の改善に努めることとされている。