性格特性論とは、「人間のパーソナリティは、心理的特性の構成とその量的差異によって表すことができる」という考えです。ここでは、性格特性論の代表的な理論とそのほかの理論を説明します。
用語:
オルポートは人の特性を「共通特性」とその個人が持つ「個人的特性」で分けました。
オルポートは、「共通特性」を使って、他者との比較をしました。
また、個人のパーソナリティの特徴を「心誌」(サイコグラフ:心的プロフィール、個人の特徴を一目瞭然に理解できるように視覚化したもの)を用いて示しました。
オルポートは、民族性や国民性などの集団の特性は成員個々の心のなかに存在する意識であって、個人を離れては存在しないと指摘しています。
McDougall(マクドゥーガル)が提唱した「集団心(集団がもつ、成員個々の心理を超えた固有の心性)」は、存在しないと指摘し、それは錯誤(集団錯誤)であると批判しました。
アイゼンクは、人の類型は、特性から形成されると考え、類型論と特性論の統合を目指しました。
性格特性を、4つの水準の階層で捉えて定めています。下位の階層から順番に記します。
階層1 -「個別的(特殊)反応水準」
階層2 -「習慣反応水準」
階層3 -「特性水準」
階層4 -「類型水準」
また、因子分析によって、性格に3つの次元「内向-外向」、「神経症傾向」、「精神病的傾向」があることを示しました。アイゼンクの考案した「モーズレイ人格目録- MPI」は、「内向・外向」と「神経症傾向」の2次元からなる性格検査です。
これら次元は、「内向- 外向は、大脳皮質の興奮のしやすさ」、「神経症傾向は、自律神経の安定性」という神経学的な特徴を示していると考えられています。
キャッテルは、人の特性を定量化可能な「共通特性」と質的特性である「独自特性」に分類しました。
さらに、この2者に基づいた状況的で、観察可能な「表面的特性」と観察不能な要因である「根源的特性」から性格を理解しようと試みました。
パーソナリティは、根源特性による16軸の両極性をもった獲得性尺度における程度を示すプロフィールとして描かれ、
この根源特性を基に「16PF:16パーソナリティ因子質問紙」という性格検査が作成されました。
Grayは、人間の行動は「行動抑制系」と「行動賦活系」という2つの大きな動機づけシステムの競合によって制御されているという強化感受性理論を提唱しました。
ビッグファイブ理論(BIG FIVE)とは、L.R.Goldberg(ゴールドバーグ)や、McCrae,R.R.(マックレー)とCosta,P.T.(コスタ)によって提唱された、現在、もっとも支持されているパーソナリティの特性理論です。
人の特性を5つの基本特性次元から捉えるものであり、性格検査「NEO-PIR / NEO-FFI」は、この理論からなります。
特性次元 | 次元の下特性 |
---|---|
N:神経症的傾向 (Neuroticism) |
不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ |
E:外向性 (Extraversion) |
温かさ、群居性、断行性、活動性、刺激希求性、よい感情 |
O:開放性 (Openness to Experience) |
空想、審美性、感情、行為、アイデア、価値 |
A:調和性 (Agreeableness) |
信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ |
C:誠実性 (Conscientious-ness) |
コンピテンス、秩序、良心性、達成追求、自己鍛錬、慎重さ |
ビッグファイブの5因子、N・E・O・A・Cは、因子が確認された順番に並べられています。Eysenckらによって、「神経症的傾向(N)」と「外向性(E)」が見いだされ、その後「開放性(O)」、「調和性(A)」、「誠実性(C)」が順番に見出されています。
覚え方としては、その頭文字を並び替えて、海「O・C・E・A・N」という方法も良いです。
クロニンジャー(Cloninger,C.R.)は、パーソナリティの構成概念を「気質」と「性格」に大別し、気質を生理的・遺伝的なものと対応させています。パーソナリティが、遺伝的要因と環境的要因からなる事を説明するモデルの一つです。
このモデルを基に、性格検査TCI(Temperament Character Inventory)が作られています。
類型論と特性論以外にも、パーソナリティ理論は幾つかありますが、ここでは学習理論とパーソナル・コンストラクト理論について説明します。
学習理論においては、学習された数多くの習慣の束として考え、習慣を形成していく過程で、パーソナリティが形成されるという考えます。
スキナー (Skinner, B.F.)は、パーソナリティとは「個人の強化歴の結果として自発される行動の総体」と定義し、個人差及び個体内一貫性は、各個人の過去ならびに現在の強化随伴性の違いによる考えました。
ワトソン (Watson,J.B)は、発達を規定する要因をワトソンは行動主義の立場から、動物や人の発達は経験による条件づけにより成り立つと考えた、発達規定要因における「学習優位説」を提唱しました。
Kelly,G.A(ジョージ・ケリー)は、「人間の処理過程は事象を予測するやりかたによって心理学的に規定される」と示し、こうした事象の予測には「コンストラクト」が用いられるという「パーソナル・コンストラクト理論」を提唱しました。
コンストラクトとは「現実を眺める透明なパターンあるいは眼鏡」とされ、人は有限数の二項対立するコンストラクトを保有するとされます。
ケリーの考えに従えば、人が保有するコンストラクトの構造や内容を知ることこそが、その人のパーソナリティを理解することになります。
ケリーの理論は、認知論的パーソナリティ理論として位置づけられ、認知的複雑性をはじめ、最近の社会的認知研究などの基盤として,さまざまな領域の研究に大きな影響を与えています。
「認知−感情システム理論(CAPS :cognitive affective processing system)」とは、MischelとShodaが提唱した理論であり、人の行動は人と環境及びそれらの相互作用の包括的な理解によって予測されるというものです。
Mischel(ミッシェル)は、パーソナリティと人の行動の相関関数がそれほど強くないこと(r=0.3程度)を報告し、それが、行動の一貫性は「人」か「状況」のどちらに影響されるのかという「人−状況論争(一貫性論争)」のきかっけになったとされます。ミッシェルがその後、提唱したのが、認知−感情システム理論です。