ここでは、知能に関する基本的な理論・検査である「ビネー式」及び「ウェクスラー式」について記載していきます。
用語:知能とその発達(知能のピーク) / Flynn効果(フリン効果) / ビネー式知能検査 / ウェクスラー式知能検査
知能とは、個人の知的な機能の差を表しますが、アメリカ心理学会による一般的な定義は下記の通りです。(2000年)
知能とは、「学習する能力、学習によって獲得された知識及び技能を新しい場面で利用する能力であり、また、獲得された知識を選択的適応をすること」です。
(「1. 知識や習慣を新たに学ぶ能力」「2.学んだ事を記憶し、後で再現できる能力」「3. 再現が適切かどうか判断できる能力」)。
知能に関する理論には、後述のビネー式、ウェクスラー式のほか、様々なものがあります。
知能の発達は、加齢とともに進み、ピークは60代頃にあると推定されています。従来は「青年期(20代)」がピークと考えられていましたが、これは「横断法研究」の結果であり、「縦断法研究」のデータ結果は、それと大きく異なり、60代がピークです(横断法・縦断法)。
結晶性知能と流動性知能とで分けると、結晶性知能(≒言語性:文化や教育による過去の経験や学習によって発達)は、年齢を重ねても上昇、維持され、ピーク後の下降が緩やかです。
流動性知能(≒動作性:脳や個体の生理的成熟によって発達)は、結晶性知能よりもピーク後の下降が急速です。従来は20代以降下降するとされていましたが、60代頃まで維持されると推定されています(結晶性知能によって補完される)。
(文献)
Flynn効果とは、20世紀に世界の多くの地域で測定された知能指数が上昇を続けているという現象です。
ビネー式やウェクスラー式の知能検査、レーヴィン色彩マトリックス検査といった知能検査でスコアの上昇が認められています。
結晶性知能と流動性知能の両方に対してこの効果は見られますが、特に「流動性知能」が影響を強く受けるとされます。
フリン効果は、1970年代半ばにピークに達して、それ以降は知能指数が低下しているという「負のフリン効果」も報告されています。
Binet,A (ビネー)は、知能を「外界を全体として再構成するための認識能力」としました。普通教育に適する子どもとそうでない子どもを見分けるための検査として、知能を客観的に測定するためのビネー式知能検査を考案しました。
精神発達の早さには、同じ年齢の子供でもそれぞれ個人差があると考え、あらかじめ特定年齢の子供が50%〜75%が正しく答えられるテスト項目を作りました。それに回答できれば、その発達水準に発達していると評定し、そこから「精神年齢」を算出しました。
ビネーの後、知能テストの結果を表す指標として「知能指数(IQ)」(Intelligence Quotient)を「Stern,W.(シュテルン)」が考案しました。そして、「Terman,L.(ターマン)」が知能検査に採用したことで、使用されるようになりました。知能指数IQは、実年齢に対する精神年齢の程度(発達の割合)を示します。
知能指数IQ =「精神年齢MA」÷「生活年齢CA」*100
田中ビネー式知能検査とは、日本で用いられている田中寛一によって作成されたビネー式知能検査です。
ビネー式知能検査は、認識能力や全体能力を測定するため「総括的検査」と呼ばれます。
精神遅滞の程度を測定でき、ある程度重度の対象者にも適用可能です。
ビネー式知能検査の詳細については、心理査定・検査の「ビネー式知能検査」を参照ください。
Wechsler, D.(ウェクスラー)は、知能を「知的な諸機能の複合」とし、ウェクスラー式知能検査を開発しました。
ウェクスラー式知能検査には、適用する年代別に分かれた3つがあります。
ウェクスラー式知能検査は、知能構造の診断をするため「診断的検査」と呼ばれます。年齢別に広範囲に適応できますが、重度の精神遅滞には不可となります。
知能指数には、「偏差知能指数=DIQ(Deviation IQ)」が用いられます。偏差知能指数とは、一般的な知能指数(平均)からどの程度異なるかを示した値です。集団の平均を100とします。
偏差知能指数DIQ = 100 + 15*{「(各個人の点数 - 同年齢集団の平均点)」÷「同年齢集団の標準偏差」}
ウェクスラー式知能検査において、版の改定により知能の評定には、「全体検査IQ(FSIQ)」と「指標得点」や、「一般知的能力指標(GAI)」などが用いられています。
以前の版で用いられていた「言語性IQ」、「動作性IQ」の指標は最新版ではなくなっています。
ウェクスラー式知能検査の詳細については、心理査定・検査の「ウェクスラー式知能検査」も参照ください。