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心理学用語集: 研究法の種類

6 - 統計・研究法研究法 > 21- 研究法の種類

 研究法は、分類する方法によって複数の種類がわかれます。
 ここでは、データの収集方法によって分類される「観察法・実験法・面接法・質問紙法」および、データの収集時点によって分類される「横断的研究法・縦断的研究法」についてまとめます。
 また、「実験計画(研究デザイン)」についても記載します。
用語:

  1. 研究法の種類: 観察法実験法面接法質問紙法横断的・縦断的研究法
  2. 研究バイアスや現象: 実験者効果・確証バイアス・反応バイアス・観察者バイアス中心化傾向・黙認傾向・キャリーオーバー効果
  3. 実験計画・研究デザイン無作為化盲検化その他(一定化、バランス化、カウンターバランス、マッチング)
  4. 精神物理学的測定法(極限法、恒常法、調整法、マグニチュード推定法、二肢強制選択法、心理測定関数)


観察法・実験法・面接法・質問紙法

 それぞれの研究法の特徴をまとめます。

 観察法(自然観察法)
 観察法(自然観察法)とは、「調査対象を客観的にありのまま観察して、データを収集する方法」です。
(参照:参与観察法
  1. 長所:
     「非言語的な反応や、観察された状況、行動の経過も記録することができる」という長所があります。
  2. 短所:
     「目的とする事象が生起する時間・場所を選べない」、「観察者が対象に影響を与える」、「記録が主観的になる(観察者バイアス)」などの短所があります。
     信頼度を高めるために、「観察記録のコードを作成し記録基準を統一」したり、複数者で「予備研究(事前研究)」を実施します。
 観察法には観察場面の抽出方法と記録方法の種類があります。
 観察場面の抽出方法には、「時間見本法,場面見本法,事象見本法,日誌法」があります。
 記録方法には、「行動目録法(チェックリスト法),行動評定,行動描写法」があります。
 実験法(実験観察法/実験的研究法)
 実験法(実験観察法/実験的研究法)とは、「実験者が特定の条件を作り出して、行動観察を行う方法」です。
  1. 長所:
     結果の再現性が高く、法則化が可能である、因果関係を見い出すのに適しているという長所があります。
  2. 短所:
     人工的な場面であるため「現実社会で適応することが困難である」、「実施において倫理的な問題がある(例:ミルグラム実験など)」などの短所があります。
 面接法
 面接法とは「対面し、会話することで研究する方法」です。
(参照:構造化・半構造化・非構造化面接
  1. 長所:
     対象者の理解が深まる、より正確な個別の情報が収集できるという長所があります。
  2. 短所:
     「情報収集の時間や手間がかかる」、「面接者が回答を誘導してしまう(誘導性が生じる)」などの短所があります。
 質問紙法
 質問紙法とは「質問紙への回答からデータを取集する方法」です。
  1. 長所:
     多くのデータを一度に収集できる、実施が容易であるという長所があります。
    選択式回答だけでなく自由回答も得られます。
  2. 短所:
     「質問内容の理解が言語能力に依存する」、「回答が歪曲されること」、「文化や個人差に影響をうける」などの短所があります。
 質問紙への回答は選択式と自由回答があります。選択式の質問紙は「はい・いいえ」や「どの程度合意ができるかの段階」を回答します。
 どの程度合意できるか・当てはまるかを回答する質問紙を「リッカート尺度」と呼びます。5段階(5件法)や7段階(7件法)の選択肢がありますが、5段階のものが多いです。
 [尺度の選択肢の例] 1非常に必要・2必要・3どちらとも言えない・4必要でない・5全く必要でない

研究法で生じる現象

 研究においてはさまざまなバイアス(偏りや誤り)が生じます。下記にそれらをまとめます。

<一般的なバイアスの種類>

  1. 確証バイアス」とは、自分の仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、それに反する情報を無視または集めようとしない傾向のことです。研究者に生じるバイアスです。
  2. 実験者効果」とは、実験者が意図せずに被験者の行動に及ぼす現象です。実験者効果に関連する現象として、ピグマリオン効果(教師期待効果) や ホーソン効果が挙げられます。
  3. 「反応バイアス」とは、想起バイアス、報告バイアスなどとも呼ばれ、研究参加者が過去の出来事や経験を想起して得られた「回想の正確性や完全性の違いから生じる誤差」のことをさします(関連:心理(精神)物理学的測定法)。

<観察法のバイアス>
 「観察法」で生じやすい現象としては、研究者の「観察者バイアス」が挙げられます。
 観察者バイアスとは「観察者が見出すことを期待している行動を強調しすぎて、それ以外の行動に気づかないという測定における誤差」をさします。このために研究においては、盲検化などが行われます。


<質問紙法のバイアス>
 「質問紙」において、被験者が回答するときに生じやすい傾向としては下記のようなものがあります。

  1. 中心化傾向:
     ある対象の属性について判断、評価を行う時に、その尺度上の中央に回答が集まる傾向。上記の例ならば「どちらでもない」の選択が多くなるという傾向。
  2. 黙従傾向:
     質問に対し、内容に関係なく考えずに肯定してしまう傾向。難解や不明瞭な質問に対して起こりやすい。
  3. キャリーオーバー効果:
     ある質問内容によって、それ以降の質問に対する回答にゆがみが生じること。


横断的研究法・縦断的研究法

 データの収集時点によって分類される「横断的研究法」、「縦断的研究法」の特徴と、「コホート研究」についてまとめます。


横断的研究法:

 横断的研究法とは、「ある時点における対象の状況を調査する方法」です。
例えば、年代別の知能を比較するために、さまざまな年齢集団に対して知能検査を行う事は、横断的研究法あたります。

  1. 長所としては、幅広い対象に対して(年代など)、短期間で調査が行えるため、時間や労力が抑えられるという点があります。
  2. 短所としては、要因の関連が分かっても因果関係はわからないことや、他の要因の影響をうける、連続性がないなどがあります。
縦断的研究法:

 縦断的研究法とは、「個人や同一の対象集団を長期間追跡調査する方法」です。
例えば、ある人の知能の変化を調べるために、長年、定期的にその人の知能検査を行う事は、縦断的研究にあたります。

  1. 長所としては、連続的な変化過程や個別的傾向を詳細に調べることができます。
  2. 短所としては、参加者が途中で減ってしまったり、時間や労力、費用を多く要するという点があります。
コホート研究:

 コホートとは「一定の時期に、人生における重大な出来事を体験した集団」を示します。
コホートの体験には、「生まれた時期(同年齢・同年代)や、社会的変動経験、共通経験」といったものがあります。

 コホート研究とは、「あるコホートとその他の集団」を比較研究する研究法です。追跡研究とも呼ばれます。

  1. 長所としては、コホートとそれ以外の比較することによって、発生順序や因果関係の解明が可能であることがあげられます。
  2. 短所としては、縦断的研究と同様に、時間や労力、費用を多く要するという点があります。


実験計画・研究デザイン

 ここでは、実験計画や研究デザインの立案についてまとめます。
 実験的研究法では、結果の法則化や、因果関係を明らかにすることを目的とします。
 「介入研究」とは、治療法や予防法、教育法等の効果の有効性を明らかにすることを目的とします。介入研究は、対象となる集団を2つ以上のグループに分け、それぞれ異なる治療法等に関して、介入を行います。
 「実験群・介入群」とは治療、予防法などを実施する人達の群であり、何もしない群(偽薬を与える等)を「対照群・統制群」と呼びます。実験群と対照群は等質(同じ質であること)となることが実験のための条件です。

 研究は、下記のような手順で計画と実施をしてゆきます。

  1. 検証する仮説の決定(確認したい仮説の決定)
  2. 独立変数と従属変数の設定
     変数の測定方法も決定します(研究法:観察法、質問紙法など)
  3. 影響する要因を統制
     説明変数以外の要因(剰余変数)や評価のバイアス(偏り)の影響を受けないようにするために、「無作為化(ランダム化)」や「盲検化」を行う。
     その他の手法には「一定化、バランス化、マッチング、カウンターバランス」がある。
  4. 実験や介入の実施とデータ収集
     介入研究では、介入を行う期間を定め、介入マニュアルに沿って行う。
  5. 結果に対する統計的検定の実施

 例えば、「Muller-Lyer錯視の図形に関して、矢羽根の角度が錯視量にどのように影響を与えるのかを調べるため」の実験計画を立てます。その場合、独立変数(変化させるもの)は、「矢羽の角度」であり、従属変数は「錯視量(矢線の長さ)」と設定します。
 評価のバイアスを避けるために、独立変数である矢印の角度をランダムに変化させて提示します(精神物理学的測定法の恒常法)。


無作為化(ランダム化):

 「無作為化(ランダム化)」とは、評価のバイアス(偏り)を避けるために無作為に標本の抽出や割り当てを行う事です。

  1. 母集団からのランダムな抽出:無作為標本抽出(ランダムサンプリング)
  2. 実験群と対照群に対する標本のランダムな割り当て

 「ランダム化比較試験(RCT)」とは、介入研究の効果検証のために、研究の対象者(被検者)を無作為化によって実験群と対照群に割り当てて、比較する研究法です。
 無作為化が困難な場合などにおいては、研究の内的妥当性が低くなってしまいます。
 そのような場合において、内的妥当性を高くするように工夫された研究法は「準実験的研究法(準実験デザイン)」と呼ばれます。


盲検化:

 「盲検化」とは、評価のバイアスを避けるために、検査者や被験者に対して、どちらが実験群で対照群かということを隠すことです。


一定化、バランス化、カウンターバランス、マッチング:

 その他の研究への影響する要因を統制する方法として下記が挙げられます。

  1. 一定化:
    一定化は、影響を与えそうな要因に対して、すべて同じ値にすること(例:性別を男性のみとする)。
  2. バランス化:
    バランス化は、影響を与えそうな要因に対して、比較する水準間で同じにすること(例:年代という水準において、各年代の男女の数を同一にする)。
  3. カウンターバランス:
    カウンターバランスは、独立変数の提示順序等のバランスをとること(例:自己評価と他者評価のアンケート順番を変えてバランスをとる)。
  4. マッチング:
    属性がよく似た被験者同士を抽出すること。実験群と統制群の結果を比較する場合に用いられる。



心理(精神)物理学的測定法 :
 極限法・恒常法・調整法・マグニチュード推定法

 研究で用いられれる測定法に「心理物理学的測定法」または「精神物理学的測定法」があります。Fechner,G.T(フェヒナー)の刺激に対する感覚の測定法に代表されます。
 心理(精神)物理学的測定法には、下記のようなものがあります。「極限法・恒常法・調整法」は伝統的精神物理学的測定法とされます。

  1. 極限法(丁度可知差異法):
     刺激を一定量変化させて、被検者に「感じる(または、等しい)/そうでない」などの判断を求める方法(関連:弁別閾)。
  2. 調整法
     被験者自身が同じ刺激量になるように調整する方法。
  3. 恒常法
     ランダムに刺激量を変化させて、被検者に「どちらが高いか・どちらと等しいか」などの判断を求める方法。試行回数が数十回以上となる。
     恒常法において主に用いられるのが、2つの選択肢からどちらか1つを選ばせる方法である「二肢強制選択法(2AFC)」。
  4. マグニチュード推定法
     被験者に刺激量を比率で回答させる方法。
  5. 一対比較法
     2つ1組の刺激を提示し、2つの大小や好き嫌いを選択させる方法。

反応バイアス/想起バイアス:

「反応バイアス」とは、「想起バイアス」・「報告バイアス」などとも呼ばれ、研究参加者が過去の出来事や経験を想起して得られた「回想の正確性や完全性の違いから生じる誤差」のことをさします。
 反応バイアスを含みにくい心理(精神)物理学的測定法は、“ランダム”に量を変化させ、試行回数が多い「恒常法」が挙げられます。そのため、恒常法で用いられる二肢強制選択法も反応バイアスを含みにくいといえます。


心理測定関数:

「心理測定関数」とは、精神測定関数や刺激特性曲線などとも呼ばれ、刺激の物理量と、その刺激によってうける反応との関係をあらわす関数です。刺激による反応とは、通常は強制選択法での正答率となります(例:どちらの音が大きいかの正答率)。
 心理測定関数を直接得る実験手法としては「恒常法」が用いられます。




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