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公認心理師・臨床心理士・心理職(心理系公務員)を目指す方々のための「心理学用語」を説明したサイトです

公認心理師試験用語集: 自殺リスク・入院適応等

2 - 心理療法心理面接・多職種連携 > A4- 自殺リスク・入院適応等

 ここでは、多職種と連携して支援が必要なケースである「自殺リスクへの対応」や「入院適応」についてまとめます。これらの内容は公認心理師の「保護義務」にも関連します。

用語:自殺リスクへの対応リスク要因対応方法ポストベンション)/ 入院適応



自殺リスクへの対応

 自殺は全世界で年間100万人以上(全死亡の2.5%)、日本では3万人弱という調査結果があります。

 また、SNSの普及もあり、自殺報道の後に自殺が増加する危険性から自殺報道の在り方も問題となっています。(詳細: ▼ 自殺報道のガイドライン

 自殺の原因は複合的であり、WHO調査によれば自殺者の90%が何らかの「精神疾患の状態」であったと報告されています。
 自殺の大多数は自殺念慮を有しており何らかの「自殺のサイン」を発しており、適切に対応すれば防ぐことができる社会的な問題であるとされています。

自殺のアセスメント・サイン:

 自殺の兆候(サイン)としては以下のようなものがあります。
 自殺のアセスメントにおいて、公認心理師は自殺について話をすることをためらったり、避けたりせずに向き合います。

  1. 自殺念慮
  2. 強い抑うつ気分
  3. 睡眠障害、食欲低下
  4. 強い焦燥(いらだち、焦り)、微小妄想(罪業・貧困妄想など)
  5. 自殺手段の準備、計画の具体化、身辺整理(これらは、差し迫った状態)

 自殺念慮を持つ人は、「無力感、孤独感、自己評価低下、心理的視野狭窄、柔軟な思考の困難」などがあり、自殺を唯一の解決法だという短絡的で誤った結論へと誘導します。
 一方で、「生き続けたいという希求もあり、誰かに気づいてほしい、理解してほしい」という希望もあります。

自殺のリスク要因:

 自殺のリスク要因としては、下記のようなものが挙げられます。

  1. 抑うつ障害などの精神疾患
  2. 親族に自殺者がいる
  3. 重度や慢性の身体疾患
  4. 環境リスク(死別・離別・経済的損失などの喪失体験)
  5. 破壊的・衝動性行動(アルコール濫用、ギャンブルなど)
  6. 厭世的(えんせい)な発言(なげやりな発言)
求められる対応:

 自殺念慮をもつ人の心理的視野狭窄などを軽減させるには孤立させずに、他者とのつながりをもつことが重要であるとされます。
 具体的には「家族や友人など重要な他者からの支援」、「宗教、文化、民族的信条、社会とのつながり」、「精神保健サービス利用などによる社会的支援」などです。
 自殺への対応としては下記のようなことが求められます(関連:秘密保護義務の例外)。

  1. まず、リスクの高い状態に対して気づく事。
  2. 可能な限り早急に良好な信頼関係を構築するように努力すること。公認心理師は自殺について話をすることをためらったり、避けたりしない。
  3. 良好な信頼関係の上で、発言、行動、感情表現からリスク評価を行い、必要な情報収集を行い、他機関と連携をとること。
  4. 日頃から、制度の理解だけでなく利用すべき資源との連携をおこなうこと。
  5. 家族など周囲の人間から必要な情報収集を行う。
  6. 経済的困窮など心理支援の範囲を超えている場合も、本人の同意の上、直接、行政や、精神保健福祉士などの担当者に連絡を取る。
  7. うつ病など精神疾患の可能性がある場合にも、本人の同意の上、医療機関に直接連絡する。
  8. きわめてリスクの高い場合は、本人や家族に警察や保健所への連絡や専門医療機関受診を促し、確実な実行を確認する義務がある。

ポストベンション:

 「ポストベンション」とは、不幸にして自殺が生じてしまった場合に、遺された人々に及ぼす心理的影響を可能な限り少なくするための対策のことです(参考)。
 自然回復を原則とする災害等への危機介入の場合と異なり、心理的ディブリーフィングはポストベンションの重要な目的の一つです。職場におけるポストベンションの原則を下記にまとめます。

  1. グループでのケア: 関係者の反応が十分に把握できる人数で集まる(10人程度)
  2. 正確な情報を伝える: 自殺を隠すのではなく、自殺について事実を中立的な立場で伝える。知人の自殺を経験した時に起こり得る反応や症状を説明する。
  3. 同僚などと分かち合う: 率直な感情を表現する機会を与える(ディブリーフィング)。希望者には個別に専門家による相談の機会を与える。
  4. ハイリスクの人に対するケア: 「故人と強い絆があった人,自殺に責任を感じている人、第一発見者、精神疾患を有する人、反応が強い人」などには積極的なケアを行う。


入院適応

 要心理支援者の精神症状の悪化、それに伴う身体的危険性が高まった場合は、入院による精神的身体的な医学的管理が考慮されます。
 入院が必要と判断される場合は、「本人や家族に警察や保健所への連絡や専門医療機関受診を促し、確実な実行を確認する義務」があります(関連:精神保健福祉法)。

 入院適用に際しては、制度の理解だけでなく利用すべき資源と日頃からの連携が必要です。
 下記に入院適応が求められる障害をまとめます。

  1. 統合失調症患者:
     幻聴や被害妄想などの憎悪により他者への迷惑行為や、自身の安定した生活継続が困難になった状態では入院適応となる。
    (妄想にもとづく隣人への苦情、物の破壊や暴力。幻聴による睡眠障害の持続と衰弱、無為自閉による体調悪化の放置など)
  2. 抑うつ障害・双極性障害:
     うつ状態で、強い焦燥、昏迷、食思不振による衰弱・自殺念慮の憎悪の強い場合などは入院適応となる。
     躁状態で、興奮が激しい・短時間睡眠状態での過活動による消耗、濫費。易怒性による他者とのトラブルなどでは入院適応となる。
  3. 認知症:
     不眠、せん妄、興奮、夜間徘徊、暴力など周辺症状が在宅で対応不能の場合は、入院を考慮する。
  4. 摂食障害:
     低栄養・電解質異常・極度の貧血など身体管理が必要な場合、入院治療プログラムの導入が必要な場合は入院適応となる。


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