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心理学用語集: 心理力動的心理療法

2 - 心理療法精神分析 > 16- 心理力動的心理療法

 心理力動的心理療法とは、精神分析の考え方を基礎として発展した多様な心理療法群のことです。
 ここでは、Freud,S (フロイト)が確立した「精神分析の治療法」及び、現在行われている「心理力動的心理療法(精神分析的心理療法)」についてまとめます。
 用語:

  1. 精神分析の治療法
     自由連想法 / 転移・逆転移 / 解釈・ワークスルー / 作業同盟・中立的態度
  2. 心理力動的心理療法
     解釈 / 修正情動体験 / 療法の基本原則 / 療法の適用と限界

 
Freud,S (フロイト)の精神分析の治療法

 Freud,S (フロイト)は、Charcot(シャルコー)の元で、催眠法によるヒステリー症状の治療法を学び、そこから自由連想法を開発し、精神分析へと至りました(心理学の歴史)。神経症の症状の原因を、外傷性体験が処理できない事だと考えはじめ、無意識の存在、抵抗と抑圧、性的満足やリビドーなどへと展開していきます。

 フロイトの確立した精神分析の治療法としては、自由連想や夢によって、防衛機制や転移の「解釈」を通じて、抑圧されていた無意識を意識化することを目指します。それによって無意識的葛藤が自我に統合され、症状が治ると考えられました。


自由連想法:

 自由連想法とは、無意識の模索のために心に浮かぶことを語らせる方法であり、無意識を意識化させるための技法です。フロイトは患者を寝椅子(カウチ)などに横たわらせて行いました。
 その他の技法としては、「夢分析」などがあります。


転移・逆転移:

 転移とは、クライエントがセラピーの過程で、過去に重要な他者との間で生じていた欲求、葛藤、感情、態度などを、無意識にセラピストに対して示すことを指します。
転移には、愛情欲求や依存欲求が示される「陽性転移」と、敵意や攻撃欲求が向けられる「陰性転移」があります。
 一方、逆転移とは、セラピストがクライエントの示す転移表現に対して、感情的な反応を示すこと指します。
 逆転移は、セラピストが過去に持っていた無意識の感情などであるためセラピーの妨害になるとされますが、セラピストによって意識化された感情であれば、クライエントの無意識の欲動や対象関係を引き出し、セラピーに有効であるともされています。


解釈とワークスルー(徹底操作):

 解釈とは、転移などからクライエントの無意識(潜在的な心理的過程)を分析し、それを患者に説明することです。
 ワークスルー(徹底操作)とは、解釈によってクライエントが洞察を得た後にも反復して現れる抵抗に対して、解釈と洞察を徹底的に繰り返し、体験的確信に至るまで分析内容を深化させる方法です。クライエントの自己分析が主体で永続的な変化をもたらすことを目的とします。

 
作業同盟と中立的態度:

 作業同盟とは、転移及び逆転移に巻き込まれずに治療を進めることができるクライエントとセラピストの関係性のことをさします。
 作業同盟は「感情的な絆」と「治療目標と作業に関する合意(治療構造の合意)」を基にした協力関係とされます。
 作業同盟に必要である感情的な絆とは「ラポール」(相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態のこと)であるとも言えます。
 実証研究において、作業同盟が強固であるほど、介入効果は良好であることが報告されています。

 中立的態度とは、転移・逆転移を常に意識し、それらに流されないように統制しようとする開かれた態度とされます。精神分析におけるセラピストには、中立的な態度が求められるとされます。
 一方、フロイトは、知的理解、解釈の重要性だけでなく、「共感」の大切さにも言及しており、共感を導くのは、模倣を通しての同一化であり、「他者の中にあり、我々の自我にとっては本質的に異質なものを理解する事が共感の最大の役割である」としています。



心理力動的心理療法の考え方

 現在はFreud,S (フロイト)の自由連想法などはほぼ用いられておらず、精神分析論に基づいた心理力動的心理療法が行われています。
 心理力動的心理療法は、十分には体験されていない自己の側面の探究にあり、治療関係の中で、その側面があらわれ、変容されるように取り組みます。

 セラピストは冷静で禁欲的で中立的な立場でほぼ解釈のみで介入するという以前の形から、現在ではより共感的で温かい態度で柔軟に多様な介入を工夫することが重視されています。

 心理力動的心理療法が介入において重視する点として下記があげられます。


1. 幼少期における養育者との関係の在り方への注目

 幼少期における養育者との関係の在り方は、後の心理的・行動的問題の発生における要因となることが強調されます。

  1. 人は愛着対象である養育者との関係の中で、感情調節やメンタライゼーション(自身や他者の心の状態を想像して想定する能力)の能力を発達させていく。
  2. 幼少期にそれらの能力とも関連しながら、対人相互作用のパターンや特定の体験を回避するパターンが形成されはじめ、その後複雑な発達を遂げていく。
2. セラピストとクライエントの関係(治療関係)と転移

 幼少期に形成されはじめ、その後発達した対人相互作用のパターンなどは、セラピストとクライエントとの関係においても認められる現象が「転移」です。
 転移は、セラピストとクライエントとの二者の相互作用の中で、クライエントなりにありのままに知覚したものとされます。

  1. クライエントはセラピストを幼少期における養育者のような存在として知覚するが、過去の養育者像をセラピストに投げかける「歪曲された知覚」ではない。
  2. クライエントとセラピストとの2者の相互作用の中で、徐々に過去の養育者との関係に端を発するパターンが発展し、転移は共同で構築しているとされる(二者心理学)。
3. 解釈による介入

 クライエントが訴える問題の背景に働いている心理力動(幼少期に端を発する対人相互作用のパターンなど)を理解し修正するための介入をおこないます。
 その働きかけの中でも最も重視されるのが「解釈」です。典型的な解釈と「葛藤の三角形」や「洞察の三角形」があります。

  1. 葛藤の三角形とは、「1.衝動(思考・感情・など)」、「2.防衛の動機としての不快な感情(不安、恥など)」、「3.防衛」の3項を結びつける解釈。
  2. 洞察の三角形とは、「1.今ここの治療関係」、「2.現在の生活場面における他者との人間関係」、「3.過去の養育者との関係」の3項を結びつける解釈。
4. 修正情動体験による介入

 「修正情動(感情)体験」とは、クライエントが幼少時に親との間で体験したことの影響を、セラピストとクライエントの関係の中で新たな形で体験し直させる事を介して、修正しようとする方法です。
 セラピストの振る舞いが、クライエントの問題をはらんだ対人関係のパターンを良い意味で裏切るものとなることにより、クライエントに安心感を伴う、新たな体験を生じさせます。



 
心理力動的心理療法の基本原則

 心理力動的心理療法をおこなう基本原則には下記のようなものが挙げられます。

  1. 精神生活の大部分は無意識である。
  2. 幼少期の経験は、遺伝的要因とあいまって成人期を決定する。
  3. 患者の治療者に対する転移が主な理解の源となる。
  4. 治療者の逆転移は、患者が他者に引き起こすものについて適切な理解を与える。
  5. 治療過程に対する患者の抵抗が、治療の主な焦点になる。
  6. 症候や行動は種々の機能を果たしており、それを決定するのは複合的で多くの場合無意識的な力である。
  7. 心理力動的治療者は、患者が自分は真っ当でかけがえのない存在だという感覚に到達できるように援助する。

心理力動的心理療法の適用と限界

 心理力動的な心理療法は、系統的なシステムレビューによると他の諸療法と比較しても同程度の効果量があることが示されています。
 療法が適応しえる障害、効果が低い障害としては下記があげられます。

< 適用しえる障害 >

 うつ病性障害、不安障害、身体化障害、摂食障害、物質関連障害、パーソナリティ障害(境界性、回避性、依存性、強迫性)

< 効果が低い障害 >

 強迫性障害、アルコールや薬物乱用者(乱用がコントロールされていない場合)




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