ここでは、投映法である「ロールシャッハ・テストの概要」と日本での代表的な実施方法のである「片口法」についてまとめます。
もう1つの代表的な実施法である包括システムについては別途、まとめていますので参照ください。
ロールシャッハ・テストは、「Rorschach,H.(ロールシャッハ)」によって開発された図版を用いた人格検査です。
インクを落として作った左右対称の10枚の図版を提示し、「それが何に見えるか、どのように見えるか」を自由に反応してもらいます。
ロールシャッハの主著の「精神診断学」によると、ロールシャッハ・テストは「何に見えるか(想像力)」よりも、「いかに見えるか(知覚)」が重視されます。
ロールシャッハ・テストは、Beck(ベック)やKlopfer(クロッパー)、Hertz,M(ハーツ)、Piotrowski(ピオトロウスキー)、Rapaport(ラパポート)、Schafer(シェーファー)らによって様々な実施法へと発展していきました。
それらの知見を統合したのがExner(エクスナー)で、そのテスト方法は「包括システム」と呼ばれます。
日本では、Klopfer法をベースにした「片口安史」による「片口法」と「包括システム」が普及しています。
「片口法」とは、Klopfer法をもとに「片口安史」が考案したロールシャッハテストの実施方法です。
その実施は、被検者に何に見えるかを自由に話してもらう「自由反応段階」と、その後に検査者が反応について、誘導的にならないように質問していく「質問段階」の順に行われます。
場合によっては、質問段階の後に、誘導的、強制的な質問を行い詳細な情報を得る「限界吟味(段階)」を行うこともあります。
検査者は、自由反応段階と質問段階における被検者の発言を逐語的に記録します。
また、片口法では、図版への「反応」の他に、「反応拒否」と「反応時間」も記録します。
反応拒否とは「ある図版に対して何も解答しないこと」です。
反応時間とは「図版への反応がでるまでの時間」です。
検査者は、記録した被検者の反応に対して、スコアリング(記号化)を行い、それを分類表に記載し、定量化します。
スコアリングは「反応領域」「反応決定因」、「反応内容」、「形態水準」、及び「平凡反応(P反応)」に対して行います。
解釈は、主に「形式分析(サイン・アプローチ)」と「内容分析」(象徴解釈)によって行います。
形式分析とは、「記号を数量化したものを分析すること」です。
内容分析とは、「カードごとの反応を質的に分析すること」です。
また、カードの流れに沿って反応のつながり方を力動的に解釈する「継起分析(けいき)」も行われます。
記号の代表的な意味や指標をまとめます。
対象 | 解釈 |
---|---|
R (反応数) | 何に見えたかの合計反応数。一般的に20個〜45個。 多いと緊張過度や野心的、少ないと抑うつや非協力的傾向を示す。 |
P (反応数) | 平凡反応(P反応)の数。 社会的常識や協調性を示す。 「5個以上」が期待され、少ない場合は内閉的で正常な対人関係を持つことが難しい可能性を示す。 |
M (反応数) | 人間運動反応。一般的に2個〜5個。 知性や想像力、内的安定性、共感性を示す。知能そのものの高さではない。 FM(動物運動反応)は、幼児期・学童期に多い反応で、発達に伴ってM反応が増える傾向にある。 |
m (反応数) | 非生物運動反応。「2個以上(m≧2)」で緊張や葛藤が強いことを示す。 |
C、C' (反応数) | Cは色彩反応。C'は無彩色反応で、抑うつ的な気分を示す。 |
c (反応数) | 材質反応の数。愛情の欲求を示す。 |
H% (割合) | 人間反応Hの数の割合H%は、一般的に「20%〜30%」が期待され、それ以上は「対人過敏性が高い」ことを示す。 Hの数が、Hdや(H)の合算より小さい場合も同様(H<(H)+Hd+(Hd))。 |
A% (割合) | 動物反応Aの数の割合A%は、一般的に「25〜60%」が期待され、不安や抑うつ気分によって精神活動が低下すると「増える」とされる。 |
R+% F+% ΣF+% (割合) | 【現実検討力の指標】 形態水準が+の反応数の割合が「低い」と、「現実検討力や自己統制力」が低いことを示します。 一般的にF+%・ΣF+%は「60〜85%」が期待される。 |
F% ?+?+?/R (割合) | 【情緒的反応の指標】 純粋な形態反応Fの数の割合F%が「高すぎる」場合は、「感情の抑制」を示す。色彩因子Cの数がほぼ無いときも同様の状態を示す。 カード?+?+?の反応数の割合が「25%より低い」場合は、情緒的刺激を回避しがちであったり、感情表出に抑制的を示す。 |
W:D (比率) | 【物の見方の指標】 全体反応Wが多い(W>D)の場合、「全体的・抽象的」な物の見方を示す。 部分反応Dが多い(W<D)場合、「具体的・現実的」な物の見方を示す。 |
W:M (比率) | 【要求水準の指標】 全体反応Wが人間運動反応Mの2倍以上(W>2M)の場合、目標への要求水準が高く、自分の可能性を過大視する傾向を示す。 |
FC:CF+C (比率) | 【情緒的な統制の指標】 FCが「CF+C」より少ない場合(FC<CF+C)、環境からの情緒刺激に対する統制が「弱いこと」を示す(色彩反応Cが形態反応Fより優位)。 |
M:ΣC (比率) | 【体験型の指標(顕在的)】 (顕在的に重視する世界) MがΣCより大きい(M>ΣC)場合は、「内向型」(自己の内的世界を優先する)。 MがΣCより小さい(M<ΣC)場合は、「外拡型」(外界からの刺激に反応しやすい)。 MとΣCがほぼ同じの場合は、両向型(共に多い)か、両貧型(共に少ない)。 |
FM+m: Fc+c+C' (比率) | 【体験型の指標(潜在的】 (潜在的に重視する世界) 「FM+m」が「Fc+c+C'」より大きい場合(FM+m>Fc+c+C')は、潜在的には「内向型」。 逆の場合(FM+m<Fc+c+C')は、潜在的には「外拡型」。 |