ここでは、投映法である「ロールシャッハ・テスト」の実施方法の1つである「包括システム」についてまとめます。
包括システムは、BeckやKloperらに代表されるさまざまなロールシャッハテストの実施法の知見を「Exner,J」(エクスナー)が統合した方法です。
テストの膨大なデータを統計処理した実証主義的な研究に基づいており、検査者による判定の差異を小さく、信頼性が高い検査となっています。
包括システムでは実施方法が厳密に規定されています。代表的な手順をまとめます。
検査者は、記録した被検者の反応に対して、スコアリング(記号化)を行い、それをスコア系列レポートに記載し、定量化します。
スコアリングは「反応領域」、「発達水準」、「反応決定因」、「形態水準」、「反応内容」、「平凡反応(P反応)」に対して行い、さらに「スペシャルスコア(特殊スコア)」をつけます。
スコアリングの結果をまとめ、「構造一覧表」を作成します。
構造一覧表の結果から、「クラスター」と「鍵変数(KEY VARIABLES)」によって解釈を行います。
クラスターとは、心理学的なパーソナリティの特徴を表す側面の事です。「統制力とストレス耐性」・「感情」・「対人知覚」・「自己知覚」・「情報処理」・「認知的媒介」・「思考」の7つがあります。クラスターを見ていき、被検者の立体的な理解を行います。
鍵変数とは、項目値に対する基準と、それに対するクラスタの解釈順番を示したものであり、12種類あります。
例えば、鍵変数の1つとして、「DEPI>5」(抑うつ指標が5より大きい)があります。それに該当する場合は、クラスタ解釈は「感情>統制力>自己知覚>対人知覚>情報処理>認知的媒介>思考」の順番に行う事が示されています。
記号の代表的な意味や指標をまとめます。
対象 | 解釈 |
---|---|
R (反応数) | 何に見えたかの合計反応数。平均22個。 多いと緊張過度や野心的、少ないと抑うつや非協力的傾向を示す。 |
P (反応数) | 平凡反応(P反応)の数。 社会的常識や協調性を示す。 「5個以上」が期待され、少ない場合は内閉的で正常な対人関係を持つことが難しい可能性を示す。 |
M (反応数) | 人間運動反応。一般的に2個〜5個。 知性や想像力、内的安定性、共感性を示す。知能そのものの高さではない。 FM(動物運動反応)は、幼児期・学童期に多い反応で、発達に伴ってM反応が増える傾向にある。 |
m (反応数) | 非生物運動反応。状況に関連したストレスが高い状態であることを示す(状況関連するストレス因子)。 |
T (反応数) | 材質形態反応の数。1個以上で、対人や愛情への欲求を示す。 |
FD (反応数) | 形態立体反応の数。自分を客観的に捉えることを示す(平均1個)。 |
PSV (反応数) | 固執の特殊スコアの数。認知の柔軟性の低さ、認知機能の低下を示す(平均はほぼ無し)。 |
X+% Xー% (割合) | 【現実検討力の指標】 現実検討力としては、形態水準+・oの反応数の割合(X+%)は「50%より大きい事」が期待される。 形態水準ーの割合(Xー%)は「25%以下」が期待される。 |
L (割合) | 【情緒的反応の指標】 純粋な形態反応Fの数の割合を示す値Lが「高すぎる」場合は、感情を抑制したり、想像力を発揮できない状態を示す。 |
FC:CF+C (比率) | 【情緒的な統制の指標】 FCが「CF+C」より少ない場合(FC<CF+C)、環境からの情緒刺激に対する統制が「弱い」こを示す(色彩反応Cが形態反応Fより優位)。 |
a:p (比率) | 【能動性と受動性】 a(能動性)が多い事(a>p)が期待される。p(受動性)が多い場合は、現実回避や逃避を示す。 |
EB (左辺:右辺) | 【体験型の指標】 左辺が右辺より大きい(左>右)場合は、「内向型」(熟考型で自己の価値観に従う)。 右辺が大きい(左辺<右辺)場合は、「外拡型」(試行錯誤型で外からの情報を利用)。 両辺がほぼ同じの場合は、不定型(バランス型またはどっちつかず)。 |