本文へスキップ

公認心理師・臨床心理士・心理職(心理系公務員)を目指す方々のための「心理学用語」を説明したサイトです

公認心理師試験用語集 : 教育分野における心理学の枠組み

5 - 法律・行政教育に関する法律 > 53- 教育分野における心理学の枠組み

 教育分野での支援においては、すべての子どもが支援対象であり、子どもの学校生活の質「QSL (Quality of School Life)」の向上を目指すとされます。
 ここでは、教育心理学における心理学の枠組みとして、学校心理学や、指導法といった内容を記載します。
用語:

  1. 学校心理学(援助サービス・ヘルパーチーム構成)/ スクールカウンセリング(開発的・予防的・問題解決的) / ピア・サポート
  2. 生態学的アセスメント・アプローチ学生生活サイクル
  3. 学業不振アンダーアチーバー
  4. 適性処遇交互作用(ATI)/ プログラム学習学習方法(自己調整学習,有意味受容学習,深化学習・発展学習,ジグソー学習,問題解決学習,認知的徒弟制,正統的周辺参加)


学校心理学

 学校心理学とは、心理教育的援助サービスの理論と実践の体系です。
 心理教育的援助サービスは、一人一人の子どもの発達の過程や学校生活で出会う問題状況・危機状況を援助する活動であり、「心理・社会面」、「学習面」、「進路面」、「健康面」などに焦点を当てながら、多角的に行われます。

心理教育的援助サービスの種類:

 心理教育的援助サービスには、予防的な援助から問題対応に対応した、下記の3段階のサービスがあるとされています(関連:スクールカウンセリング)。

  1. 1次的援助サービス:
     「すべての子ども」を対象に行う発達促進的、予防的なサービス。学級づくり、SST、ストレス教育、自殺予防プログラムなどの提供が対象となる。発達障害の子どもも含めて「わかる・できる」授業づくりの支援も該当する。

    ( 補足: 自殺予防教育


  2. 2次的援助サービス:
     登校しぶり、学習意欲の低下、学級での孤立など「苦戦し始めている一部の子ども」に対する援助サービス。子どもの苦戦している内容に早く気づき(早期発見)、タイムリーに援助する。
     
  3. 3次的援助サービス:
     不登校、いじめ、非行、虐待などの問題対応状況にある「特定のこども」への援助サービスである。それぞれのこどもの問題状況を把握して、ニーズに応じた援助を行なう。
援助者の種類:

 子どもの問題解決には、多面的な情報収集とアプローチが必要であり、様々な援助者(ヘルパー)との連携が重要となります。
 学校心理学では、援助者を4種類のヘルパーとして位置付けています。

援助者の種類説明
ボランティア的ヘルパー 友人や地域の隣人など。職業上や家族としての役割とは関係無く、自発的に子どもや教室、保護者への援助を行なう者。
役割的ヘルパー 保護者や家族など。役割の一つとして援助を行なう者。
複合的ヘルパー 教師など。職業上の複数の役割に関連させながら、総合的に援助を行なう者。
専門的ヘルパー 生徒指導・教育相談教師、養護教諭、スクールカウンセラーなど。専門スタッフとして援助を行なう者。

 「コーディネーター」とは、援助者同士の協力や連係を調整し取りまとめる者であり、生徒指導主事や養護教諭、特別支援教育コーディネーターなどの教員が担います。


援助システム・チームの構成:

 心理教育的援助サービスを提供するシステム・チームの構成としては、3段階(3階層)で整理されます。

  1. 1階層:「個別の援助チーム」
      保護者、担任、コーディネーター、スクールカウンセラーなどから構成される、援助チーム。メンバ同士の「相互コンサルテーション」の機能も持つ。
     
  2. 2階層:「コーディネーション委員会」
      コーディネーターの役割りを持つ教員、管理職などから構成される。学校レベルでの援助サービスのコーディネーションを行う。
    「コンサルテーションと相互コンサルテーション」、「学校・学年レベルの連絡・調整」、「個別のチーム援助促進」、「マネジメントの促進」の4機能を持つ。
     
  3. 3階層:「マネジメント委員会」
      校長・副校長、教頭、主幹などから構成される。学校全体の教育活動や、援助サービスの方針、人材計画などを含めた学校経営に関する意志決定を行う。
     「問題解決・課題の遂行」、「校長の意思の共有」、「教員の教育活動の管理」、「組織の設定・活用・改善」の4つの機能を果たす。


スクールカウンセリング

 スクールカウンセリングとは、児童生徒の心理的な発達を援助する活動であり、「心の教育」や「生きる力を育てる」などの学校教育目標と同じ目的を持つ活動であるとされます(文部科学省 )。
 スクールカウンセリングは、原因を追及し病気を治療する「治療モデル」ではなく、問題を抱えている児童生徒と関わり、児童生徒の問題を解決する力を引き出すことを援助する「教育モデル」による活動です。
 スクールカウンセリングには、下記の3つの援助段階があります(関連:心理教育的援助サービス)。

  1.  開発的カウンセリング:
     将来、児童生徒が自立して豊かな社会生活が送られるように、児童生徒の心身の発達を促進し、社会生活で必要なライフスキルを育てるなどの人間教育活動を行う。
     「全ての児童生徒」を対象とし、教科学習や特別活動、総合的な学習など、学級、学校全体の教育活動を通して、児童生徒の成長を促進する。ソーシャルスキルトレーニング(SST)やアサーショントレーニングといった技法も用いられます。
  2.  予防的カウンセリング
     児童生徒一人ひとりについて、性格、現在の状況、ストレス、悩み、問題などを把握する。
     「問題が発生しそうな児童生徒」に予防的に働きかけ、本人が主体的に自らの力で解決できるよう支援する活動を行う。
  3.  問題解決的カウンセリング
     問題の発生は、開発的、予防的カウンセリングを行うことで低減されることになるが、人生を生きていく上では、様々な問題に直面する。このような問題については、カウンセリング的アプローチにより問題の解決や不適応状態からの回復を援助する。


ピア・サポート

 ピア・サポートとは「仲間や同輩が相互に支え合い課題解決する活動」とされます(参照:日本ピア・サポート学会 )。
 学校におけるピア・サポートとは「学校教育活動の一環として,教師の指導・援助のもとに,子どもたちがお互いに思いやり,助け合い,支え合う人間関係を育むために行う学習活動であり,そのことがやがては思いやりのある学校風土の醸成につながることを目的にとする」と定義されています。

 ピア・サポートを導入する目的としては下記のようなものが挙げられます。児童は仲間を支援する中で成長し,大人以上の力をもっているということが明らかになっています。

  1. 悩みや困りごとを,児童同士で解決する。
  2. 児童に他者への関心と思いやりのある関係を確立する機会を提供する。
  3. 児童に傾聴といった共感スキル,コミュニケーションなどの対人スキルを習得する機会を提供する。
  4. 児童に問題解決スキルやリーダーシップを向上させる機会を提供する。
  5. 児童に自己理解や自尊感情を向上させる機会を提供する。


アセスメント方法と学生の心理的理解
生態学的アセスメント/アプローチ:

 生態学的アセスメントとは、「すべての行動が、その人のおかれている文脈(環境)との相互作用の中で生じるという考えに基づき、人間の行動の要因を個人の特性だけでなく、人と環境の両方を調べること」をさします。Levinの「場の理論」や、Bronfenbrennerの「児童発達についての生態学的システム論」などを基にしています。

 (補足: ▼ 生態学的システム論:メゾシステム等)


 学校におけるアセスメントは、日頃から、児童・生徒の状況だけでなく、友人や家庭、学校風土や学校環境などの状況を収集しておくことが重要となります。
 質的だけでなく、量的な情報もできるだけ収集します(関連:アセスメントの観点)。
 生態学的アセスメントの観点に基づき、「1)個人の発達や学校生活」、「2)子どもの環境」、「3)子どもと環境の相互作用」を把握し、援助に生かします。

アセスメント観点
【1. 個人の発達や学校生活】
 学習面、心理・社会面・進路面・健康面における状況。
 各面での得意さや好み(自助資源)、困難や悩み、援助ニーズと対応案、その状況。
【2. 子どもの環境】
 学級・学校の状況(人間関係など)、家庭の状況、地域の状況。環境における援助資源。
【3. 子どもと環境の相互作用】
 子どもの発達状況と環境からの要請行動のマッチング。
 子どもと場の折り合い(人間関係、楽しさ、行動の意味)。



学生生活サイクル:

 学生の心理的な理解をするための枠組みに「学生生活サイクル」があります。
 大学生の学生生活を「入学期」、「中間期」、「卒業期」、「大学院生期」という4つの時期に区切り、それぞれの問題・課題と心理的特徴がまとめられています(参照:東北大学CPD )。


 問題・課題と心理的特徴
【 入学期 】
  1. 新生活に伴う問題。
  2. 生活への移行が課題(新生活、新たな人間関係、親元からの分離)。
  3. 自己決定が求められる。高揚と落ち込みが特徴。
【 中間期 】
  1. 無力感やスランプ、対人関係の問題。
  2. 学生生活の展開、自分らしさの探求が課題。
  3. あいまいさの中での深まりが特徴。
【 卒業期 】
  1. 単位取得や卒論作成、未解決の問題。
  2. 青年期後期の節目が課題(学生生活終了、社会生活への移行など)。
  3. 学生生活の心理的な振り返りが特徴。
【 大学院生期 】
  1. 研究生活への違和感、能力への疑問、研究室での対人関係の問題。
  2. 研究者・技術者としての自己形成が課題。
  3. 職業人への移行。自信と不安が特徴。



学業不振・アンダーアチーバー

 「学業不振」とは、学習上の成果が目標に達しないことです。
 「学業遅滞」や「学習障害」とは異なる概念をさします。学校でのアセスメントにおいて間違いやすいとされます。

  1. 学業遅滞: 知的障害により知能が低い場合。
  2. 学習障害: 文科省による定義では「全般的な知的発達の遅れはない」・「特定の能力の習得と使用に著しい困難(能力:聞く、話す、読む、計算するまたは推論する)」・「中枢神経系に何らかの機能障害があると推定される(視覚・聴覚障害などや環境的要因以外が原因)」。

 学業不振の原因としては、健康面(身体要因など)、環境要因(教育環境、学習方法、教師との関係など)、パーソナリティ(情緒不安定など)などの複合的な要因が考えられています。


アンダーアチーバー:

 「アンダーアチーバー」とは、知能水準から期待される力よりはるかに低い学業成績を示す者をさします(知能指数は高いが成績が悪い)。
 逆に「オーバーアチーバー」とは、知能水準から期待される力より高い学業成績を示す者をさします(知能指数低いが成績が良い)。
 アンダーアチーバーはオーバーアチーバーと比較し、学業成績の原因を「努力」に帰属させない傾向があるとされています。また、努力と能力を分別しにくい可能性も示唆されています。



適性処遇交互作用と学習法

 学習における「適性処遇交互作用」とさまざまな学習方法に関する用語をまとめます。

適性処遇交互作用(ATI):

 適性処遇交互作用(ATI)とは、学習者の「適性(個人差要因)」と「処遇(教授法や学習環境等)」の両方の組み合わせによって、その学習効果が異なるという考えです。
学習者の適性(個人差要因)と処遇(受ける教授法や教材等の条件)の間には「交互作用」があるとされます。
 適性処遇交互作用の考えに基づくと、生徒(学習者)の学力を向上させるには、その生徒の個性に応じた教授法を行う事が重要になると考えられます。集団指導以外の個別指導が学力の向上には有効という事かと思われます。


プログラム学習:

 プログラム学習(programmed instruction)は、オペラント条件づけで知られるスキナー(Skinner)によって提唱された教育方法です。ティーチングマシーンと呼ばれるコンピューターを用いた学習にも適用されます。
 プログラム学習では、下記の5つの原理があります(参照URL )。

  1. 学習者が意欲的である事
  2. 学習者に即時のフィードバックを与える事
  3. 段階的に進める事
  4. 学習者のペースに合わせる事
  5. 学習者によってプログラムが検証される事

様々な学習方法:

 ここでは、様々な学習方法についてまとめます。
(自己調整学習,有意味受容学習,深化学習・発展学習,ジグソー学習,問題解決学習,認知的徒弟制,正統的周辺参加)

  1. 自己調整学習:
     「自己調整学習」は、学習者が「自分の目標を決め、その目標を達成するために自らの計画を立てる」、「実行段階で思考、感情及び行為をコントロールしながら学習する」、「学習後には振り返り、自らの学習行動を評価する」というプロセスのことです。
  2. 有意味受容学習:
     「有意味受容学習」は学習者が、意味を理解しながら(有意味学習)、教師から一斉に授業を受ける学習(受容学習)のことです。
     有意味学習の対比には、「機械的学習(意味を考えずに丸暗記する方法)」があり、受容学習の対比には「発見学習(学習者自らが試行錯誤して学ぶこと)」があります。
  3. 深化学習・発展学習(発展的学習):
     深化学習、発展学習は、理解をより深める、興味・関心を広げるといった学習方法です。児童生徒が主体的に取り組み、意欲を高めることができるように、教科書にも発展的学習が考慮された内容の反映が可能となりました(文部科学省 )。
  4. ジクソー学習:
     ジグソー学習はAronsonらが開発した協同学習の方法です。学級を小集団に分け、学習する内容も同数に区切ります。小集団のメンバは別々の場所で、区切られた担当分の内容を学んだ後、元の集団に戻り、学んだ内容を教え合います。
  5. 問題解決学習:
     問題解決学習はDeweyによって提唱された、具体的な問題の解決を通して進める学習のことを指します。体系的な知識の配列に沿った学習よりも、自ら問題を発見し解決していく能力を重視したものです。
  6. 認知的徒弟制:
     「認知的徒弟制」は師匠と弟子による技術訓練をモデルとして、学習過程を認知的に理論化した学習方法のことです。モデリング、コーチング、フィードバック、スキャフォールディング、フェーディングといった過程があるとされます。
  7. 正統的周辺参加:
     正統的周辺参加とは、学習者が共同体の新参者として重要な業務の周辺的な重要度の低い業務を担当するところから始め、技能の熟達につれ中心的でより重要な業務を担当する十全的(すべてをこなせる)参加者へと変化していくことを意味します。
     学習を社会から孤立した個人の営みとは考えず、学習を様々な実践的な活動の場における技術や知識の習得と捉えた状況的学習論の考えに基づく学習法です。



5 - 法律・行政 > 教育に関する法律 >